その日も生徒会の仕事で一人残って仕事をしていた。
そこへコンコンとノックをする音が聞こえた。
「はーい」
こんな時間に誰だよ?
そう思いながら扉を開ける。
そこに立っていたのは智だった。
「何 で?」
「あの、こないだ俺に話しかけてきたでしょ?
何か用なのかなって思って」
突然の出来事にうまく話せない。
でも智の方は気にするそぶりもなく
そう言って屈託なく笑いかけてきた。
「憶えていてくれたんだ」
「うん。生徒会長のサクライ ショウくんでしょ?
その人が俺になんか用なのかなってずっと気になっていたんだ」
あの、わずかな時の事を憶えていてくれて
わざわざ生徒会室まで会いに来てくれたんだと思ったら
嬉しくて涙が出そうになった。
そして自分の事を気にしていてくれたこともそうだし
生徒会長だから知ってても当たり前の事なのかもしれないけど
自分の存在を知っててくれた事も嬉しかった。
この日ほど生徒会長をやっててよかったと思った日はない。
「あ、あの、今広報にのせる文面考えているんだけどさ
そこに載せる挿絵みたいの描いてくれないかな、
なんて思って声をかけてみたんだけど」
頭をフル回転させ確か絵が上手で何度も入選していた
事を思い出し思いついた言葉をそのまま言った。
「……う~ん。いいよ」
「そりゃそうだよね、ごめんね突然変な事頼んで」
そりゃそうだよね。
突然そんな事頼んだって断られるに決まってるじゃん、
そう思いながら謝った。
「イヤ、いいよって言ったんだけど」
そう言って智は可愛らしい顔でクスクス笑う。
でも考えてみると、確かにいいよと智は言った。
あまりにも会いたくても会えなかった時間が長かったのと
智ととこうして話す事が出来た事が夢みたいで
自分自身訳が分からくなってしまっていた。
でも確かにいいよと智は言っていた。
「え? マジで? それって今からでもいいの?」
「ふふっ、いいよ。今日特に何もないし」
智はそう言って可愛らしい顔で笑う。
「あの…」
「……?」
「……いつも一緒にいる人たちは?」
それが一番気になる事だった。
けどどう言っていいのか悩んでいたら智が
なあにって顔で見つめてくる。
なので思い切って聞いてみる事にした。
「……? ああ、松潤と相葉ちゃん?
二人とも今日学校休んでいるんだ」
「……? そうなの? 二人ともなんて珍しいね?」
「ふふっ。もともと俺が風邪ひいててそれが二人にうつっちゃったの」
「ふふっ、そうなんだ」
二人が一緒に休むなんて珍しいと思いながら
そう聞くと智はえへへっと照れくさそうに笑った。
その顔があまりにも可愛くてついつられて笑ってしまう。
「すいません、むさくるしいところなんですけど、どうぞどうぞ」
そして智の気が変わらないうちにと
そう言って慌てて生徒会室の中へと案内した。
「ふふっ。翔くんって面白い~」
「……え?」
智はおかしそうにそう言ってクスクス笑う。
でもその言葉に一瞬時が止まったかと思った。
今、翔くんって言った?
「あ、ごめん生徒会長って呼んだ方がよかった?」
「そんな事ないです。翔くんって呼んでいただけて光栄です」
「ふふっ。面白い~。生徒会長がこんな人だとは思わなかったなぁ」
慌ててブルンブルンと首を振ると智はそう言ってまたクスクスと
可愛らしい顔で笑った。
智の笑顔がこんな近くで見られるなんて。
イヤまさか智とこんな風に話す日がくるなんて夢みたいだ。
そんな事を思っていたら智は生徒会室に入ったのって
初めてと言いながらきょろきょろと可愛らしい顔で
興味深そうに周りを見渡していた。
“可愛すぎる~”
そして一通りパソコンでの絵の描き方を説明すると
おもしれ~と言いながら目をキラキラさせて
夢中になって絵を描いている。
“だから可愛すぎるから”
智はよっぽど面白かったのか絵が仕上がっても
このまま触ってていい?と言って嬉しそうに
夢中でパソコンソフトを使って絵を描いている。
その姿を飽きることなく眺めていた。
「そろそろ暗くなってきたし帰ろっか?」
「うわぁ、もうこんな時間」
智は夢中になっていたせいか時計を見てびっくりしている。
自分としてもこのまま智の姿をずっと眺めていたかったが
痴漢に遭遇した事もあるという話も聞いていたので残念だが今日は帰ることにした。
遅い時間ではなかったけどやっぱり智の事が心配だったので
送ると言ったが智は大丈夫だと頑として譲らずその日はそのまま別れた。
その後もなぜか嬉しい事に智はたびたび生徒会室にやってきた。
生徒会室は生徒会での大きなイベントがない限りは閑散としている。
でも智はなぜか生徒会室が気に入ったようで
お絵かきソフトで遊んだり勉強したり自由に過ごしていた。
そしてその姿を見ながら生徒会の仕事をしたり
智の勉強を見る事が日常になっていた。
「二人、心配してない?」
あれほどずっと一緒にいたのに大丈夫なのだろうかと心配で聞くと
大丈夫と智はにっこり笑う。
智がどう説明しているのかは分からなかったけど
いつも一緒の二人が智が生徒会室に来るときは二人の姿はなかった。
今日も智が来てくれたらいいなと思いながら生徒会室に行く。
部屋に入るといつもと何か様子が違う事に気づく。
「智くん?」
「……」
部屋にはすでに智の姿があった。
でも声をかけても智からの返事はない。
智のそばによると智は机にうつ伏して眠っていた。
顔を近づけていってその顔を見つめる。
いつも可愛らしい顔をしていると思っていたが改めて見てみると
とても綺麗な顔立ちをしている。
ゆっくりと手を伸ばすとその長い睫毛に触れる。
智は目を閉じたまま微動だにせず相変わらず
すぅすぅと寝息を立てている。
思わず手をその唇にもっていく。
そしてその整った唇になぞるようにふれた。
「……智くん」
「……」
唇に触れたまま智の名を呼んでみる。
でも智は目を閉じたまま。
唇から指を離すとまたその綺麗な顔を眺める。
智は起きる気配がない。
そのままゆっくりと顔を近づけていって
吸い寄せられるようにその唇に自分の唇をあてた。
その瞬間、智が目をぱちっと開ける。
慌てて離れる。
智はゆっくり身体を起き上がせると無言のまま
じっとこちらの顔を見た。
「ご、ごめん」
「……何で?」
すぐに謝った。
智はなぜか不満そうな顔をして何で? と聞いてくる。
「イヤだって俺、今、ごめん」
「何でごめんなの?」
智は相変わらず不満そうな表情を浮かべたまま
何でごめんなの? と聞いてくる。
「だって、、」
「俺、嫌じゃなかったよ」
何と言っていいか分からず言葉に詰まっていると
智は不満そうな表情を浮かべたまま思いもかけない言葉を言った。
「……え?」
「っていうか、嬉しかった」
「……え?」
智から思いがけない言葉を言われて
やっぱり何と言っていいか分からず言葉に詰まる。
今、嬉しかったって言った?
「翔くんの気持ちよく分かんなかったから」
「……え?」
その後も智は思ってもみない言葉を続ける。
「ね、翔くん?]
「……はい」
智は名前を呼ぶとまっすぐな視線でこちらを見る。
「翔くん俺の事知らなかったでしょ?」
「……?」
意味が分からずその顔を無言で眺める。
「俺、翔くんの事入学する前からずっと知ってた」