yama room

山コンビ大好き。

ブログではなくて妄想の世界です。

きらり

ALL or NOTHING Ver.1.02 10

2016-01-21 21:55:40 | ALL or NOTHING Ver.1






智は一人でフロアを見ていた。


きゅっと口を結んで


ダンスを踊るわけでもなく


飲み物を飲むわけでもなく


友達と話をするわけでもなく


ただまっすぐ前を見ている。




その顔を見て、また心が揺れた。


美しい横顔。


綺麗に通った鼻筋。


形の良い唇。


その姿は、誰もが簡単には寄せ付けないような神々しさを感じる。





その姿を見て、また、心が揺れた。












「しばらく来ないと思ったのに珍しいね?」


しばらくそのその姿を眺めていたが
思い切って智に近づくとそう言って話しかけた。


「……」

「……」


智が振り向く。


何か言おうと思っていたのに智の顔が
今にも泣きそうな顔をしていたから何も言えなくなる。


「やっぱ、ダメだった」

「え?」


そしてその泣きそうな智の顔を見つめていたら
智がそう小さく呟いた。


「家族になれなかった」

「どういうこと?」


あの日。


お母さんに怒られたと。
早く帰ってきなさいと言われてしまったと
嬉しそうに帰っていった。


でも、家族になれなかったってどういう意味だろう?
以前も俺は違うからというような事を言った事があった。
それと関係あるのだろうか。


「やっぱ、無理だった」

「……」


智はそう言うとギュッと口を閉じた。
その表情にやっぱり何も言えなくなる。


「……でも」

「……?」

「でも、ここに来たら翔が見つけてくれると思ったから」

「……え?」

「だから、いいや」

「……?」


やっぱり何と言っていいかわからず智の顔を眺めていたら
智は自分が見つけたからいいと言う。
その智の言ってる意味も、考えていることも分からなくて
ただただ戸惑う。


「わかってる。高校生がこんなとこきてちゃダメっていうんでしょ?」

「いや、まあ」


でも、智はこちらの戸惑いを気にすることもなく、そう言って小さく笑った。










そう。


確かに以前、智に言った事がある。


高校生がこんな時間に、こんな場所にいてはいけないと。


いるべきではないと。


でも。


でも、智の姿が見えなくてつまらなかったのは自分の方だ。
いつも智の姿がないかとここに来るたびに探していたのは
まぎれもなく、自分自身だ。


「もう帰るから」

「……え? もう帰っちゃうの?」

「うん、満足したから」

「満足したって?」


だから智が帰ると聞いて、ひどくがっかりしている自分がいる。
そんな事を気にすることもなく智は満足したからと言って
ふふっと笑った。


でも、満足したと言いながらも
その顔がいつもにも増して儚げに見えて気になった。


「今度はいつ来るの?」

「……え?」


思わずそのまま帰ろうとする智の手をつかんで
そう智に聞いた。


「いや、ごめん。何か心配で」

「……?」


智は手をつかまれたまま不思議そうな顔で見つめてくる。


「いや心配っていうのも変か。でもなんか気になるから。
今日、元気ないし。ダメだったとか言うし」

「……」


そう言うと智がまっすぐな視線で見た。


「……ね?」

「……?」

「今日これから、翔の家行ってもいい?」

「……え?」


そして、突然智がそう聞いてきた。


そういえば以前もそう言ってきたことがあった。
その時は冗談だと笑っていたけど
これもまた冗談だと笑うのだろうか。


智の意図が読めない。


「冗談だよ」

「……」


智の意図が読めないままでいると
智はあの時と同じように冗談だよと言って笑った。








でも。









「いいよ」

「……え?」

「来たいんでしょ、いいよ」


何でそう言ってしまったのかわからない。
でも、あの時とはどこか違う智のその様子がずっと気になっていた。
冗談だと言った顔もどこか寂しげで前の時とは違う。


だからこんな時間に
高校生を自分の家になんて
ダメな事は百も承知している。


でも、いいよ、と言ったら智は嬉しそうに


すごく嬉しそうに笑った。















「散らかってるね」

「まあね」


智は部屋に入るとあたりを見渡しそう言った。
確かに部屋は散らかっている。
会社の書類やら本やらそこかしこに資料が重ねられていた。


「片づけてくれる人いないの?」

「まあね」

「まぁいたら俺なんて看病してないか」


智はそう言って、一人納得したような顔をするとクスッと笑った。
そしてしばらく部屋を眺めていたと思ったら、ベッドの横に立った。


「ここで看病してくれた」

「そうだね」


智はそう言いながらベッドに触れた。


そう。


あの時はただだんだん顔色が悪くなっていく智を
何とかしなければと、それだけの気持ちしかなかった。


無我夢中で、とにかく必死だった。


「ここで水を飲ませてくれたり、着替えさせてくれた」

「……うん」


智はその時の事を思い出しているのか
そう言ってベッドを見つめた。


「……」

「……」

「……何で?」


そしてちょっと考えるような顔をして何でと聞いてくる。


何で。


何でって。


「何でなんて、熱が出てのどが渇いていたみたいだから水を飲ませたし
汗をかいたみたいだったから着替えをしたあげただけだよ」

「……他人なのに? 誰にでもそうするの?」


智が不思議そうにそう聞いてくる。
まあ確かにそうだろう。
現にあの時は名前さえも知らなかった。


「いや、誰でもってわけじゃないけど」

「じゃあ、何で?」

「……」


智が静かな目で見つめる。
その智から注がれる静かな視線にドキドキが止まらない。


「言ったろ君の事が放っておけないって。
何かあれば手が出てしまうって」

「何で?」

「……」


智は納得できないのか、静かな視線を向けたまま聞いてくる。
その視線に何も言えなくなった。












「何で、俺なの?」

「何でって……」


なぜかだなんて理由はわかりきっている。


智だったからだ。


でも、それをどう説明していいのかわからないし


どう言葉にしていいのかもわからない。











「俺はね、嬉しかったの。
あんなつきっきりで看病とかしてもらったことなんて
今まで一度もなかったから」

「……」

「熱が出てもいつも一人だったから。
のどが乾いたら一人で水を飲んで、汗をかいたら一人で着替えて…」

「……」


何も言えないでいると智が淡々とした表情でそう言った。
その言葉にやっぱり何も言う事ができず、ただ智を見つめる。


「だから、あの時なんか幸せだったの」

「……」

「あの時の事はよく覚えてないんだけど
布団があったかくて、すごくほっとしたのを覚えている」

「……」

「ずっとそばにいてくれて、水を飲ませてくれたり
着替えさせてくれたりした」

「……」

「だから…」

「……」

「だから、もう一度ここにきてあの時の事を思い出したかったの。
それを思い出したら、また明日から頑張れるって思ったの」

「……」


智はまっすぐな視線を向けたままそう言った。


その言葉に何と答えていいのかわからない。


ただ、胸が痛かった。


智の言葉に、胸が痛い。


智を見ると、視線が重なった。








そして


視線が重なったまま、智の身体を自分の方に引き寄せた。


そのままその身体をきつく抱きしめる。


智は断片的にしか話さないから家庭の事情とか全然わからない。


ただ。


何も知らないくせに


そう智は言った。


そして早く帰って来いと怒られてしまったと


嬉しそうに笑っていた。








「……」


何も言えない。


智は、なぜか嫌がりもせずそのまま腕の中にすっぽりと入ったままでいる。


そして智が胸に顔をうずめたままゆっくりと腕を上に動かす。


そしてそのまま腕を背中に回してきた。


「……!」


その智のその行動に驚きながらも


そのまま


その身体をきつく抱きしめる。









そして



「好きだ」 と



その身体をきつく抱きしめたまま



そう



つぶやいた。

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10 コメント

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Unknown (白紙)
2016-01-21 23:10:45
 断片的にしか分からないけど智君が家に居場所がないようで切ないです。でも、淋しいから、とか、優しくしてくれたから、とかじゃなくて、お互いのことをちゃんと知って、ちゃんと好きになっていくといいなぁなんて思ってしまいます(やっぱり高校生だし)。智君が気になって仕方がない翔さんは既に落ちてしまっているようですが。そんな翔さんの告白の行方は?何か、もどかしいような、ちょっとドキドキするような、読んだ後、なんとも言えない気持ちになっています。私事ですが、TVfanCross最新号の重版分が店頭に並びましたね。漸く手に入れました。こちらの2人は既に夫婦のようです。
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ついに ()
2016-01-22 19:16:31
きらりさん
こんばんは。ついに、ついに「好きだ」の一言。。智くんの純粋な問いかけに、どんどん自分の気持ちと向き合う翔くんのドキドキが伝わってくるようでした。。優しくされたことを拠り所にしている智くんや、それを知って心を痛める翔くんの描写が、少ない文字の中にぎゅっとつまっていて、、きらりさん、さすがです。。映画のワンシーン見てるみたいでした(*^^*)
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白紙さんへ (きらり)
2016-01-22 20:44:51
白紙さん、コメントありがとうございます。

またまた智くんが切ない感じになっていますね。
2人の関係は社会的な立場で考えると難しいんですよね。
社会人同士、高校生同士だったらあまり問題はないのですが…。
でも、そんな問題を吹き飛ばす位、お互い大切な存在になって
いい感じになっていければいいですよね~。

TVfanCrossの2人みました~。すごく可愛らしかったです。
なんですかね、普通に可愛い。
すごく雰囲気がよくてほっとあたたかい気持ちになるんですよね。
本当に夫婦みたいです♪ありがとうございました♪
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桃さんへ (きらり)
2016-01-22 21:01:00
桃さん、こんばんは。コメントありがとうございます。

はい、とうとう好きだと言いましたね。
智くんの方は何でだろうってずっと疑問だったと思うんですよね。
見つめられる事も気にされることも優しくされることも。

でもその純粋な疑問に応えていくごとに翔くん自身が
深層に気付かされていくという感じでしょうか。
(本人だけが気付いていないだけでバレバレなのですが)
ぎゅっとつまっていますか、嬉しいです。
そして映画のワンシーンだなんて。ありがとうございます♪嬉しいです♪
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切ないです。 (ルクパト)
2016-01-23 20:36:56
智くん。結局お母さんに受け入れてもらえなくて。切なくて。かわいそうで。
翔くんにすぐにでも会いにきたかったんだろうけれど。
「高校生はこんなとこに来ちゃダメ」と言われたから。
我慢してたんだよね。でも辛さが限界にきちゃって。
どうしても翔くんに会いたくなって、来ちゃった。

翔くんの腕の中の智くん。翔くんに包まれて。暖かくて、安心できて。辛い気持ちがふわあっとほぐれていく・・・。

翔くんの想いが。智くんに届きますように・・・。







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ルクパトさんへ (きらり)
2016-01-24 16:24:14
ルクパトさん、コメントありがとうございます。

智くんが切ない感じになっていますね。
どうしても新しい家族の方が優先されてしまうのですよね。
まだ親を必要とする年代ですけど赤ちゃんがいるとある程度何でもできる方が
後回しにされちゃったりして。
初婚でもあるお父さんにも気を遣うだろうし。
そういうのを目の当たりにするとどうしても自分が
ないがしろにされているような気持ちが捨てきれなくって
辛いところですよね。
自分からはあまり訴えないタイプだし。

今後はそうですね。翔くんの想いが届いて安心できて辛い気持ちを受け止めていってくれる
大きな存在になってくれたらいいですよね。


明日は翔くんのお誕生日ですね~。
何かと智くんに振ってくれる翔くんが大好きです♪
ありがとうございました♪
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Unknown (Unknown)
2016-01-26 05:13:44
わーん。なんか泣きそうです。
かわいそうに智くん。お母さんには片想いのままになっちゃったんだ。この翔くん好きです。ただ気になって仕方なくて、その思いのまま動いてる感じが。あれこれ理屈をつけない感じが実にいいです。現実の翔くんて、帝王みたいなところもありまた尖って激しい面もあるけど無邪気で素直で可愛らしいところもあって、そのギャップが大好きだなと思ってるんです。歌声も、ラップをやってる時みたいに迫力のある太くて低いどやどや声と、このままもっとの時のように無防備な少年みたいな声と二種類あって、ここの翔ちゃんはあの素直で無防備な翔ちゃんを思い出します。
とうとう告白。愛されたがりな18才の智くんがやっとたどり着けた‥てなるといいな。このさきも楽しみです。
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ありがとうございます (きらり)
2016-01-26 20:34:49
お名前がなかったのですが、書き方がしーな海里さんかな?
コメントありがとうございます。

ここの翔くん好きですか、嬉しいです。
翔くんってそうですね。基本は、変わっていない気がします。
曲がったことが大っ嫌いで、かつ信念を貫く強さを持っていて。
その強くて激しい翔くん(今は短気なところや尖ってるところは表にあまり出さないですが)
と頭がいいのにバカなことも楽しみながら無邪気にできてしまう翔くん。
そんな翔くんが私も大好きです。

智さんもよくギャップ王子なんて言われますが
翔くんも言われてみると言動にしろ歌にしろ強かったり、甘かったり、
激しいところがあったり、柔軟だったりとギャップ王子なんですねぇ。

先ほど続きアップして次回ラストです。
楽しみだと言ってくださってありがとうございます♪
返信する
正解! (しーな海里)
2016-01-26 22:27:35
ごめんなさい。名前忘れるなんて!
しかししかし、名無しで、正解していただけるなんて、すごくうれしいです。もうこれは、お付き合いするしかないですね。一生つきあっていきましょう!笑
(しやがれ!匂い当てクイズの時の智くんのマネ)
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しーな海里さんへ (きらり)
2016-01-27 18:04:04
しーな海里さん、ありがとうございます。

こちらこそ、喜んで♪

読んですぐにわかりましたよ~。

そして匂い当てクイズと言えば、きゃーきゃー言いながら
その時の話を書いた事があったなぁと思い出し見直してみたら2012年12月1日でした。
あれは山の伝説の回で永久保存版ですね~。
久々にまた見たくなりました♪
わざわざ戻ってきてくださってありがとうございました♪


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