yama room

山コンビ大好き。

ブログではなくて妄想の世界です。

きらり

ALL or NOTHING Ver.1.02 12 完

2016-02-05 22:47:30 | ALL or NOTHING Ver.1








レストルームに入ると


誰かが一緒に入ってきた気配がした。


「……」

「……」


振り向くとそこには智がいて


何か言いたげな顔をして見つめてくる。


「どうしたの?」

「何で?」

「……?」

「何で、何も言ってこないの?」

「何でって」


どうしたのかと智に問いかけると


智は不満気な顔でそう言った。


「あんな事言われてさ、ずっとドキドキしてたのに
ここにきても、目が合っても、ただ俺の事見てるだけで
俺一人バカみたいじゃん」

「……」


その言葉に何も言えなくて智の顔を見ていたら


智が責めるような顔をしてそう言った。








確かに。


確かに、智の言う通りだ。


あれからここにきても、目が合っても
見ているだけで話しかけもしなかった。


「俺の事、揶揄ったの?」

「違う、揶揄ったわけじゃない」


何も言えないでいると智は不審そうな顔を向け
自分の事を揶揄ったのかと聞いてくる。
だから慌てて違うと否定した。


「じゃあ何でただ見てるだけなの?」

「……」

「……俺は、ずっと気になってたのに」

「……」



あの日。


智を抱きしめてしまった事を
そして智に好きだと伝えてしまった事を
ずっと後悔していた。


「ちょっと出ようか?」


そう言うと智は素直にこくんと頷いた。


そしてどこか静かに話せる場所でと思っていたら
智がやっぱり家がいいというので
智が望むようにマンションへ向かった。









「智には悪い事をしたと思ってる」

「どういうこと?」


家へ着くとテーブルに冷たいお茶を入れたグラスを差し出す。
智はその言葉に不審そうな顔を向けた。
確かに急にそんな事言われても不審に思うだけだろう。




でも。




智はまだ高校生だ。


あんな事を言われても智にとっては負担になるだけだろう。
だからこれからも智の事は見ているだけにしようと
心に決めていた。


そして、もし、智の方から頼ってくるような事があったら
家族のような存在で受け入れ助けてあげたいと思っていた。


でもそれ以上の存在にもそれ以下の存在にもならない。


そう決意していた。


「何でそんな事を言うの?」

「……」

「俺は、抱きしめてくれて、好きだって言われて嬉しかったのに」


その事をどう智に伝えようかと悩んでいたら
智が思いもよらず嬉しかったと言ってくる。
その言葉に心が揺らぎそうになる。






だけど、と。






智はこれから先、大きく素晴らしい未来が待ち構えている。
色々な人と出会って、そして恋もするはずだ。
その機会を奪ってしまっていいのか、と。


そして智の家庭の事も気になっていた。
智は断片的にしか話さないからどういう家庭環境
なのかよくわからない。


だけど言葉のちょっとしたところに家族に対する寂しさや不安さ
そして家族の愛情の飢えのようなものを感じる。
だからその代わりを求めているのではないか、と。



「ね、家の方はどう?」

「……どうって」


そう聞くと智はなぜ突然家の事を言ってくるのかと
不審そうな顔を浮かべる。


「ずっと気になっていたから」

「……」


あの日も泣きそうな顔でダメだったと
家族になれなかったと言っていた。
智は無言のまま見つめる。


「高校卒業したらどうするの?」

「……専門に行く」

「そっか。まだまだ学生なんだなぁ」

「俺は働くつもりだったけど親が勉強できるうちは
しておいたほうがいいって言うから」

「確かに、その通りだな」


智は何で今そんな事を聞いてくるのかと
不満気な顔をしながら答えた。









「智は家族と仲いい?」

「……何でそんなこと聞くの?」


ずっと聞きたいと思っていた。
何で高校生のくせにこんな時間に
こんな場所にいつもいるのかと。
家にいたくない理由はなんだろうと。


「家は、どう? 嫌い?」

「嫌いって訳じゃないけど……」

「けど?」

「あまり自分の家って感じがしないから」

「どういうこと?」


智は小さく答える。
前にも自分は違うからと言っていたことがあった。
それがずっと気になっていた。


「もういいじゃん、何でこんなことばっかり聞くの?」

「これ以上は聞かないから、お願いだから聞かせて?」

「……母ちゃんが結婚して、友梨佳が生まれて」

「うん?」

「……三人だけが家族って、思うから」


智は何でそんな事を言わなくてはならないのかと
不満そうにしながらも答える。


「つまり家での居場所がないってこと?」


その言葉に智は小さくうなずいた。


そうか。


やっと点と点が繋がった。


今回の進学の話にしても、こないだのお礼の件にしても
どうにも智の言葉と結びつかなかったが
これで合点がいった。


「そっか、愛されてるんだな」

「……」


そう言うと智は家での居場所がないと言っているのに
何で愛されているということにつながるのだろうかと
不満そうな表情をする。


「今はどうしても赤ちゃん中心の生活になってしまっているだろうから
自分の存在価値とか見つけられなくて
疎外感を感じてしまってるかもしれないね」

「……」


智は意味が分からないって顔をする。
でも今はわからなくてもいつか分かる日が来る。


「それで話は終わり?
それより俺に悪いことしたってどういうこと?」

「…俺、最初に見た時から智の事が気になっていた」


そんな事を思っていたらさっき言った事は
どういうことなのだと智が詰め寄ってくる。


「最初?」

「あのフロアの中心で踊ってたでしょ?」

「見てたの?」

「見てたって、目、合ったじゃん?」

「知らない」


まじか。
どうやらあの時目が合ったと思っていたのは
自分だけだったらしい。


「凄く綺麗なダンスを踊る子がいるなって
夢中になって見てた」

「そうなの?」

「うん、でもその後、学生服の智を見て愕然としたけどね」


その言葉に智は何でって不思議そうな顔をする。


「智はあまり気にしてないみたいだけど
高校生は出入り禁止なんだよ。なのにあんな目立っててさ」

「だって、あれは頼まれたから」

「まあそうだろうね。それにホントは目立つの嫌いでしょ?」

「うん」


智は素直にうんと頷いた。









「でも、あの時の智の踊りと智にすごく惹かれたんだ」

「俺の事よく見てたもんね?」

「そう、で、見るなって怒られた」

「だってしつこくずっと見てくるから」

「しつこくって」


そう言って智はくすくす笑う。
でも確かにその通りだ。
最初はダンスに惹かれて
そして綺麗な顔をした少年に目を奪われた。


色白の肌が茶色い髪ととても似合っていて綺麗で
それでいて何気なく踊るダンスが美しくて
目を離す事ができなかった。


「そりゃあ、変な人に連れ去られそうになるし?
今にも倒れそうな状態なのにいるし?
目ぇ離せないよ」

「そんな事もあったね~」


そう言って、智はあははっと笑う。
その無邪気に笑う智につい笑みが浮かぶ。


でも。


その美しさもさることながら
あまりにも無邪気で無防備だったから。
だから余計目が離せなかった。
放っとけなかった。










「……」

「……」

「俺の事好きだって言った事は本当?」

「本当」

「でも、困った顔してる」


智がじっと見つめそう聞いてきたから
正直に答える。


「……だって、智は高校生だし」

「来月卒業だけど」

「そっか。だとなおさらこれから可愛い女の子や綺麗な女の人と
出会いがたくさんあるでしょ?
そんな時に言うべき事じゃなかったなって」

「言うべき事じゃないって何? 
それが俺に悪いことしたってこと?」


そしてずっと考え思っていたことを智に言うと
智はそれが何なんだと不満そうな顔をした。


「そう。だから、伝えてしまって悪かったなって」

「いいも悪いも俺が翔がいいのに?」

「……」


その智の言葉に何も言えないでいると
智が突然ぎゅっと抱きついてきた。


「俺、翔とこうしているの好き」

「俺も好きだよ」


そして智が抱きついたままそう言ってくる。
その智の突然の行動にびっくりしながらも
可愛くて愛おしくてその身体をぎゅうっと
抱きしめ返しながら答える。






でも、と。


そう思っていたら


「それに家族の代わりとも思ってないよ」


智が顔を見つめそう言った。






「確かに家に居場所はないし、疎外感も感じてるし
翔にいつでもここに来ていいって言われて
すごく嬉しかったけど、それだけじゃないから」

「うん」


一瞬心を読まれたのかと思いドキッとする。
そしてわかったからと頷きその身体をまた抱きしめた。


智を抱きしめると目の前には柔らかそうな茶色の髪の毛あって
前の時と同じように甘いにおいがする。
その髪の毛にそっと手を伸ばし優しく触れた。


智が、ん? って顔で見つめる。


その顔を見つめながら前髪にかかっている
その茶色い髪の毛を上げ額を出した。
そしてその綺麗なおでこに唇を近づけていくと
その額にちゅっと触れるだけのキスをした。


智が見つめてくる。


「……」

「……」


その綺麗な顔を見つめた。
最初に見た時も思っていた。
とても綺麗な顔をしていると。


その綺麗な顔に見つめられ心臓はドキドキと高鳴る。


「……好きだ」

「……俺も、好き」


本当はもう見ているだけの存在になろうと思っていた。
でもそんなの無理だ。


可愛くて、愛おしい。


『好きだ』


そう言うと智が俯いて自分も好きだと言って
ぎゅっと抱きついてきた。


可愛くて、愛おしい。
切なくて、苦しくなる。


家族のような存在で支えてあげたいと思っていたけど
そんなの無理。


両手でその綺麗な顔を包み込むようにすると
そのまま顔を近づけていってちゅっと
その唇に唇を重ねた。


唇が離れると智が照れたような顔をして
もっと、と言うような顔で見つめてくる。
その綺麗な顔に見つめられ、そんな顔をされ
心臓は高鳴りバクバク言って苦しいくらいだ。


心臓の高鳴りを感じながら指を智の唇に持っていく。
そして指を下に下げるようにすると
智は何の抵抗もなくその小さな口を小さく開く。


その小さく開いた唇に唇をゆっくりと押し当て
重ねるとそのままキスをした。
智が服をぎゅっとつかみながらも
自分の動きについてきているのが分かる。


愛おしい。


愛おしくて、可愛い。
ドキドキしすぎて、胸が苦しい。


唇が離れるとその身体をきつく抱きしめた。









「ここに住みたくなっちゃった」

「ふふっ本当にここの家好きね?」

「だって、ここにくるとあったかい気持ちになるの
優しくしてもらったこと思い出してほんわかするんだもん」

「嬉しいんだけどね、またいつでもおいで」

「うん、くる」

「で、いつか一緒に住めたらいいね」

「うん」

そう言うと嬉しそうにうんと言って、ぎゅっと抱きついてきた。


可愛くて、愛おしい。


やっぱり家族みたいな存在なんて、無理。


そう思いながらまたその唇にちゅっとキスをした。













あの日。


無理やり連れてこられたこの空間。


たくさんの人が踊ってる中


智の踊るダンスだけを見ていた。





大勢の人がいる中


智を見ると心が揺れた。


綺麗な人に話かけられても


可愛い女の子に踊ろうと誘われても


智だけを見ていた。





たくさんの人で溢れかえるこの場所で



智だけを



ずっと見ていた。










おわり。





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8 コメント

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終わってしまった・・・。 (りくの王者♪)
2016-02-06 02:02:04
きらりさん♪

お久しぶりです、お元気ですか?
お話しのUP&最終話ありがとうございました。
悶々と悩んでいる櫻井くん、らしくて好きでした。
高校生だからなのか結構、イケイケな大野くん、
らしくて好きでした。

もう、このお話しに出てくる二人が好きで好きで。
1月26日からストーカーのごとく、毎日毎日。
最終話が更新されていなければいいのになって
こちらのお部屋に遊びにきてはホッとしておりました。
それほどまでにこの二人と別れるのが辛いです!!
ああ。もうこの二人を見ることができないなんて。
きらりさん、こんな気持ち初めてですー。



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りくの王者♪さんへ (きらり)
2016-02-06 16:34:18
りくの王者♪さん、お久しぶりです。
コメントありがとうございます。おかげさまで元気です♪

この話の2人が好きと言ってくださって嬉しいです。
そうですね、今回の智くんはいつもの感じと違って夜遊びもするし
生意気なことも言うし結構イケイケでしたね。
若い頃の雰囲気と近いかな? どうでしょう。
翔くんは相変わらず色々考えるタイプで。らしくて好きと言って下さって嬉しいです。

毎日見にきてくれていたのですね。更新されていないようにと。
今回最終話になってしまいましたがそんなに別れが辛いと言って下さるなんて~
こんなに嬉しいことはありません♪
ありがとうございました。嬉しかったです♪
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幸せです~♪ (ルクパト)
2016-02-06 22:04:15
きらりさん、こんばんは♪

茶髪の18歳のあの美しくかわいい、智くんが
大人のイケメン翔くんに、心を開いて、甘えてぎゅっと
ぎゅぎゅっと抱きついていく・・・。
文章を読みながら、自然と顔が笑顔になっている私です。
幸せです~♡
智くんが専門学校を卒業して、働くようになったら、
二人は一緒に暮らすようになるんだろうなあ。
と妄想しちゃってます。ホントに幸せです。

きらりさん、あったかい二人のお話しをありがとうございました。
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ルクパトさんへ (きらり)
2016-02-07 18:09:06
ルクパトさん、こんばんは♪ コメントありがとうございます。

幸せだと言ってもらえて嬉しくてほっとしています~。
智くん、甘えていますね。
今までは家にあまりいたくなくて外に出ていましたが
これからは翔さんの家が安心していられる場所になりますね~。
翔さんの家に入りびたりだったりして。
もともと騒がしい場所がお互い好きじゃなさそうですし
2人で家でまったりと過ごしていそうです。
そして学校を卒業したらきっともう少し広い部屋に引っ越して一緒に住むことでしょう。

あったかい二人の話と言って下さってありがとうございます。嬉しいです♪
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ほっこりです。 ()
2016-02-07 20:00:44
二人の言葉少ないやりとりに、どんどん引き込まれて、翔くんが自分の気持ちに素直になってキスをするところで胸が熱くなりました。。
お話中、リフレインされる出会のシーンがスローモーションのように最後目に浮かびました(*^^*)ほんとに素敵なお話し、、また、何度も読み返します♪
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桃さんへ (きらり)
2016-02-08 17:53:10
桃さん、コメントありがとうございます。

ほっこりと言って下さって嬉しいです。安心しました~。
11月から始めた話でここまでかかってしまったので
最後どう受け止めてもらえるか不安でドキドキしていました。

出会いのシーンが目に浮かんだと、そして素敵な話と言って下さって本当に嬉しいです。
また次への話への活力になります!
そして何度も読み返してくれるなんて~
ありがとうございます。嬉しいです♪
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幸せになってね (白紙)
2016-02-13 22:42:00
 智くんが辛い境遇じゃなくてよかったです。でも、翔さんのそばが幸せなんですよね。穏やかで良識派の大人翔さんと、積極的で危なっかしい未成年智くん。不器用な感じで、でも着実に気持ちを通じ合わせて行ってほしいものです。最終話だけど、そのまま2人が仲良く一緒にいるような、優しい気分になりました。
 先日、windows10にバージョンアップしたところ、バグってしまい、初期化、再インストール、再設定と、暫くPCが使えませんで、すっかり出遅れてしまいました。一太郎も消えて不便ですが、再び、ブログにおじゃまできるようになりました。これからもよろしくお願いします。
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白紙さんへ (きらり)
2016-02-14 15:48:55
白紙さん、コメントありがとうございます。

そうですね。本当は家での居場所がないわけではないのですが
翔くんのところが居心地がよくてずっと一緒にいそうですね~。
翔くんも温かく見守ってくれそうです。
そのまま2人が仲良く一緒にいるような、優しい気分にと言って下さって嬉しいです。

パソコン大変でしたね~。お疲れ様です。
でもPCが使えるようになってまたここに来て下さるとのこと。
凄く嬉しいです。こちらこそよろしくお願いします♪
近いうちにシェアハウスの話をUPします。
ありがとうございました♪
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