( ;∀;) 終わる予定が入りきらなかったのでした💦 とりあえず完の前編をUPです。
ずっと
ずっと
出口のない暗いトンネルの中にいた。
「……何 で?」
また、だ。
これでいくつ減った?
答えのでることのない疑問と不安が、ぐるぐると頭の中を回った。
☆
「どうしたんですか?」
突然、テレビを見ていた大野さんが、何で? と小さく声をあげたので
片づけをしていた手を休め、テレビを見ている大野さんの隣に座った。
あの日から。
どういう心境の変化があったのかはわからないが
大野さんはそれまで全く見なかったテレビを
見るようになった。
それはまるで外界との接触を拒否しているかのようだったのに
今は、違う。
そんな事を思いながら大野さんを見つめ、そしてテレビを見た。
テレビにはバラエティ番組が映し出されていた。
それを少し考えるような顔でじっと見つめている。
そんな考えるような場面でもないのに。
そう思いながらその顔をまた見つめる。
しばらく隣に座って一緒にそのバラエティ番組を見ていたらCMに入った。
CMは流れるように次々と移り変わる。
「……あっ」
その中の一つのCMに目がとまった。
このCM。
翔さんが長年やっていたCM。
でも、翔さんじゃなくなったんだ。
「……」
いや、違う。
これだけじゃない。
思い返せばあの飲料水のCMも、あの電化製品のCMも
そして美容系のあのCMも、あのCMも…
最近翔さんの出ているCMを最近あまり見かけなくなったとは
思っていたけど、それはただ自分の見るタイミングが合わなかったり
契約期間が終わった位にしか思ってはいなかった。
でも違う。
以前に比べると格段に翔さんのCMの本数は減っていた。
何か問題があったわけでもない。
スキャンダルがあったわけでもない。
いや、それよりも家庭的なイメージも加わり
そういう関係のCMも増えていた。
それなのになぜ?
そう思いながら大野さんを見ると、
大野さんはじっとテレビ画面を食い入るように見つめて
難しい顔をしていた。
「……」
もしかしたら大野さんもその事に気づいたのかも知れない。
だからさっき驚いて声をあげたのかも知れないと思った。
いつもの時間。
いつものニュース番組。
そこにはいつもと変わらない翔さんが映し出されていて
いつもと同じように番組は進んでいく。
そして番組の最後になると、いつもと同じように
『それでは、また明日』
と、そう言ってにっこり笑って頭を下げた。
テレビ画面にはいつもと変わらない翔さんがいる。
「……」
CMは減ったような気がしたけどそれ以外の露出は
大して変わらないような気もした。
もしかして気のせいだったのだろうか。
大野さんと二人だけの時間が静かに流れていく。
俺はゲームをして、そしてその横で大野さんは
テレビを見たりスマホを見たり時には絵を描いたりして過ごす。
そののんびりと過ごす姿を見るだけで、何だか凄くほっとした。
やっと穏やかな生活が送れるようになったのだ。
あの時のような思いは2度としたくはない。
あんな辛そうな大野さんの姿をもう見たくはない。
大野さんには幸せでいて欲しい。
あの後。
翔さんと会って少し元気がなく何かを考えているようだったけど
数日が過ぎるといつもの大野さんに戻った。
そして何かが吹っ切れたみたいに今まで見なかったテレビを見たり、
絵を描いたりするようになった。
それを、ただ、見守った。
この人の事を。
この人の事を、初めて会った時からずっと好きだった。
理由なんてない。
出会った瞬間から好きだった。
自分以外の人の事なんて全然興味がなかったのに
大野さんだけは別だった。
会った瞬間から惹かれていた。
見つめて
話しかけて
くっついて
手を握って。
だから、大野さんが京都に行くと聞いた時のショックは今でも覚えている。
毎日、ウザいくらいに京都に行くのかと確認し、
大野さんが困るのも承知で、行かないでと訴え
そして行く事が決まった事を知った時には、
早く帰ってきてと会うたびに懇願した。
それを大野さんは少し困った顔でうんうんと頷いて聞いてくれた。
今思えばそれが大野さんの精一杯の優しさだったのだろうと思う。
そして大野さんが京都に行っていた時は
毎日その声が聴きたくて何度も電話をして
長い休みになると会いに行った。
そして大野さんが東京に戻ってからはまた
話しかけて
その姿を見つめて
その綺麗な手を握って
その身体にぎゅっとくっついた。
それを大野さんはいつも仕方がないなって顔をして
笑って受け入れてくれた。
それが凄く嬉しかった。
3歳下の自分から見て大野さんは凄く大人に見えた。
そして同じグループでデビューできると聞いた時の
嬉しさはとても言葉に表現できない。
本当はデビューなんて全然考えていなかったけど
大野さんと一緒なら話は別だった。
これからずっと一緒にいられる。
そう思うだけで嬉しくて仕方がなかった。
でも。
せっかく一緒のグループになれてデビューできたのに
せっかくずっと一緒にいられるのに
その人の目はいつも違うところに向けられていた。
その翔さんの結婚が決まった。
そして。
グループの解散とともに、大野さんが姿を消した。
あれから一切大野さんが姿を見せる事はなかった。
どこを探しても見つからない。
連絡も取れない。
もう完全にお手上げ状態だった。
会いたくて会いたくてたまらないけど、
もうその願いは一生叶わないかもしれない。
そう諦めかけていた時。
大野さんから自分に助けを求める電話が入った。
『辛くて、眠れない』と。
それがどんな理由であったとしても、会えるだけで嬉しかった。
どうしてもその理由は教えてはもらえなかったけど
ただ、大野さんに必要とされている事が嬉しかった。
だから一緒にいようと思った。
東京での仕事も続け、こことの2重生活となったけど
全然苦じゃなかった。
大野さんのこの苦しみと辛さから救い出してあげたい。
ただ、それだけだった。
そうこうしているうちに翔さんとの対談の話が持ち上がった。
その対談が終わった後、久々にゆっくりと翔さんと話をした。
その話の流れから自然と大野さんの話になった。
その中で翔さんはちょっとした言葉から大野さんと自分が
接点があるという事を見抜いた。
そして接点があるとわかると、大野さんの行方を必死な顔で聞いてくる。
それに、答えてしまった。
翔さんだったから、
答えてしまった。
でも後で無性に心配になって、翔さんが会いに行くであろう日に
先に行って待ち伏せをした。
そしてその時に初めて、自分が思っていた以上に
この二人は繋がっていたのだと知った。
でも。
だからこそ。
生半可な気持ちで会うのは大野さんを苦しめるだけだから
会わないように翔さんに告げた。
もう大野さんをこれ以上苦しませたくはなかった。
でも、それは今の翔さんの状況から考えても
相手の立場や状況を考えてもかなり難しい事だと思った。
そして翔さんが今の生活を手放せるはずもないと思った。
そして大野さんもそれを感じていたはずだ。
だからこそ大野さんはあんなに苦しんでいたのだ。
だから大野さんを守れるのは自分しかいない。
そう、思っていた。
『今日で私サクライ ショウは最後となります。今まで本当にありがとうございました』
でも、違った。
翔さんはあれから密かに計画を立て実行していたのだ。
覚悟を決め、長期的な計画をたて、着々と水面下で動いていた。
そして確実に計画を遂行していた。
番組の評判が悪かったわけでもない
視聴率が悪かったわけでもない。
自分から最後を決めたのだと思った。
前々から準備を周到にし、そしてついにこの日が来たのだと思った。
そして。
それから間もなく、翔さんが別れたという報道が出て、
翔さんは完全にテレビ画面から姿を消した。
「ニノ、俺、大野さんのところに行く」
「そうですか」
だから翔さんにそう話しかけられた時
全く驚かなかった。
「ふふっ驚かないんだね?」
「想定内です」
「そっか、そうだよね」
そう言って、翔さんはその端正な顔でくすっと笑った。
相変わらずこの人はカッコいいなと思う。
「でも大丈夫なんですか? もうこの世界に戻ってこれないかもしれないですよ?」
翔さんの今の状況、そして相手や相手の親の状況。
この世界は甘くはないってことをお互い嫌って程知っている。
でもそう言わずには入れなかった。
翔さんだって嵐という看板がなくなったあと
現在までの地位を築き上げるには相当な努力をしてきた事だろう。
「覚悟している」
「そっか」
でもそんなの言われなくたって頭のいい翔さんにはすべてお見通しだろう。
その揺るがない視線に相当の覚悟がうかがえた。
「でも…ニノには申し訳ないと思ってる」
「……別に?」
あの日、翔さんに伝えてしまったのは紛れもなく自分自身。
そして伝えてしまった以上こうなる事は、予想がついていた。
あの時の翔さんの必死な顔。
そしてその前までの翔さんの全然幸せそうじゃない顔。
こうなる事は想定内だった。
「感謝もしてる」
「そ?」
俺に悪いと思っているのだろう、
翔さんが神妙な顔で言う。
「智くんをずっと守ってきてくれてきてくれた事。
本当に感謝してもしきれないほど、感謝してる」
「大野さんの事が好きですから」
「そうだよね。にのは中学の時からずっと智くんの事…」
そう言うと、また申し訳ないって顔をする。
「まあ。でも、翔さんにはすべてを清算したら、大野さんの事は譲ると言ったから仕方ないですね」
「でも…」
「まさか本当に実行に移すとは思いませんでしたけど、ね」
本当は想定内なんて嘘だ。
心のどこかでは無理なんじゃないかと思っていた。
だから自分がずっと大野さんの事は守り抜いて見せると思っていた。
でも、違った。
それだけ翔さんは本気だったという事だ。
だから、大野さんを任せようと思った。
大野さんが本当に必要としているこの人に。
☆
「でも、もし…」
「……?」
ニノが少し考えるような顔をして言う。
だから何だろうとその顔を見た。
「今後大野さんが悲しい思いをするような事があったら
その時はもう絶対に譲りませんから」
「うん、わかってる」
そして意を決したように強い口調でそう言った。
今まで智くんを守り支えてくれていた人。
智くんの事をずっと大好きだった人。
それを、今、自分は奪い取ろうとしている。
「俺、大野さんには幸せでいてもらいたいんです」
「ニノ…」
「でも悔しいけどそれにはやっぱり翔さんじゃないとダメみたいだから」
「……」
そう思うと何も言えなかった。
「俺の方がずっといい男なのにな」
「……ごめん」
ニノがぼそっとそう呟いた。
でも、本当にそう思った。ニノの方がいい男だ。
なのに…。
だから謝る事しかできない。
でも、だからこそ本当にこれでいいのかと何度も何度も自問自答した。
本当にこれが正しい答えなのかと。
人を傷つけるだけの行為なのではないかと。
「大野さん、翔さんの事ずっと待っていますよ」
「だといいんだけど…」
でもその胸の内を読んだようにニノがいたずらっ子みたいな笑顔を見せそう言った。
「翔さん?」
「ん?」
「ずっと暗いトンネルに入ったまま出れない大野さんを出してあげてください。
そして眠るのが大好きなあの人をそろそろ熟睡させてあげてください。
時計の針を動かせるのは翔さんあなたしかいないのですから」
「……約束する」
そして真っ直ぐな視線で自分の事を見ると、意志を持った強い口調でそう言った。
多分、それがニノの答え。
そのニノの言葉を聞いて胸がぎゅっと痛くなった。
彼女は今、世界を飛び回っている。
テレビ画面で映し出される彼女は、
相変わらずキラキラ輝いていて綺麗だなと思った。
そのテレビ画面に向かって、さようならと言って
テレビを消し、最小限の自分の荷物だけを持って家を出た。
翔くんはニノちゃんに言われたからという理由だけではなく
そうしないと智くんに会う資格がないと思っていたのではないでしょうか。
あれだけ大好きだった智くんを傷つけたまま気付かずに生きてきた自責の念というか。
でも考えてみるとファンにとってはその姿が全く見れなくなってしまうのは
凄くショックな事ですよね。
そして何も知らない智くんもこの状況にきっと心配してしまいますよね。