9月13日、庄内南部連携パス推進協議会主催の学術講演会を開催しました。
今回は、青森県立中央病院 整形外科 伊藤淳二 先生をお招きし、青森市における大腿骨頚部骨折地域連携パスついて講演頂きました。
失敗事例(バリアンス)を分析することで、アウトカム(到達目標)を見直し、PDCAサイクルを回すことで、治療~ケアの改善を行っているという内容は、当地区の連携パスにとっても大変参考になりました。
とくに、大腿骨骨折のおける深部静脈血栓症のリスク管理、認知症を考慮したアウトカム設定、中間アウトカム(クリニカルインディケーター)の導入などは、今後当地区でもしっかり取り組んでいく必要があるテーマだと感じました。
まとめとして、先生が挙げられた以下の点は、まさにその通りだと思います。今後とも、連携パスの適切な運用を通して、地域全体のレベルアップを目指していきたいという思いを新たにしました。
・きちんとアウトカム設定をして、バリアンス分析を行い、アウトカム管理を行わなければいけない。
・それをやらない連携パスはただの診療報酬算定のツールであり、体のいい「追い出しパス」でしかない。
・地域連携パスのアウトカム管理をしてPDCAサイクルを回すことにより、地域全体のTotal Quality Manegement(TQM)が可能となる。
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青森市におけるアナログ的大腿骨頚部骨折地域連携の実際と今後の課題
青森県立中央病院 整形外科 伊藤淳二 氏
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1、青森市の大腿骨頚部骨折地域連携パスの構成
2006年、青森県中、市立病院(急性期)と慈恵会病院、協立病院(連携病院・回復期リハ)で開始
特徴は、各病院のクリティカルパスを繋ぐ、連結型連携パスとしたこと
2007年、連携病院が12病院へと拡大される
パス利用患者数:2006~2015年で2418人
2、連携パスデータの分析結果
2006.5~2014.12 までの1203名の分析結果
受傷年齢:平均78.9歳 (23歳から101歳)
年代別では、70代:26%、80代:43%、90代:13%
受傷場所:屋内71%、屋外29%
受傷原因:転倒81%、転落・事故:12%、・・
入院期間:急性期:13.7日、連携病院:66.7日
転帰別の連携病院入院期間
ベット上:45.4日
独歩:50.0日
死亡:65.1日
車椅子:68.6日
杖:70.7日
歩行器:76.0日
3.データ分析から見える問題点
■腎不全による死亡例
-------------------------------------------
事例:81歳女性、左頚部骨折の事例
管理病院で手術後、10日で転院
連携(回復期)病院で、腎機能低下、34日目に透析病院へ
48日目に死亡
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管理病院転院時のアウトカム設定に問題があった!
そこで、初期の1,2のアウトカムに、以下の3,4,5のアウトカムを追加した
1、創が治癒している
2、本人・家族が連携パスでの転院に同意している
3、退院直近のレントゲンで異常がない
4、退院直近の血液検査が術後より悪化していない
5、リハビリテーションを継続できる状態にある。
初期のアウトカムを前期群、3,4,5を追加したアウトカムを後期群として、パス脱落例を比較した
前期群 → 後期群
認知症の増悪: 3.2% → 1.2%
合併症の悪化: 3.8% → 1.5%
骨折部の異常: 1.8% → 0.3%
新たな合併症: 1.8% → 0.6%
退院時アウトカムをより厳密にすることで、予後を改善することができた。
■深部静脈血栓症(PE)による死亡例
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症例:65歳、女性の右頚部骨折
入院時血糖 360、HbA1c 9、D-ダイマー 21.0
7日目に手術予定も血糖コントロールつかず、手術延期
12日目に、呼吸苦出現、その後心肺停止、2時間後死亡。
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PEの予後、222例中70例(32%)が死亡という報告がある。
脳外、整形に多い、
D-ダイマーの上昇が(83%)と高率にみられた。
リスク因子
D-ダイマー上昇
a/f
抗凝固剤中止
長期臥床
独歩不可、車椅子
骨盤以下の骨折
肥満
・・・
青森県中では、肺血栓塞栓症リスク評価マニュアルを作成し対応している
■認知症と歩行能力獲得率
認知症では、歩行能力獲得率が低い
パス学会で優秀賞
急性期の看護必要度と急性期HDS-R(認知症の程度)が退院時FIM・退院時移動能力と相関した。
■早期自宅退院可能だった大腿骨頚部骨折患者の要因検討
術後28日以内に連携病院を退院した患者の要因分析
若年で術後1週間以内に杖歩行でき、認知機能正常が早期退院の要因。
■大腿骨頚部骨折地域連携パスに認知症ケアを導入して
認知症予防の方法として、24時間リアリティーオリエンテーション技法を用いて、
連携パス患者を入院時と退院時との長谷川スケールを評価し、有用性を検討。
退院時のアウトカムに、「長谷川スケールが低下しない」を追加した。
4、既存の連携パスの改善 ~連携パスのPDCAサイクル~
大腿骨頚部連携パス患者 820名のうち21名(2.6%)の死亡例があった
死亡原因として術後合併症が85.3%と多く、そのなかでも肺炎が最も多かった
両側骨折は44名/1163名(3.5%)にみられ、連携病院入院中が4名(9%)、維持期施設入所中が4名(9%)であった。
ガイドライン Grade B
大腿骨骨折を生じた患者は、対側の骨折リスクが明らかに高いことから骨粗鬆症や転倒予防対策を講じることが望ましい。
骨折のリスク評価としてFRAXがある。(ネットで利用可能、今後10年間の骨折確率が分かる)
FRAX(Fracture Risik Assessment Tool)
立った高さからの頚部骨折女性105名の受傷前の骨粗鬆症治療率は、12%に過ぎない
折れるべくして折れた、
再骨折を起こさないために、連携パスのアウトカムに「骨粗鬆症治療を行う」を追加した
骨折や転倒は女性の介護が必要になった原因の3位
大腿骨骨折の患者の4割は、5年以内に死亡する
5、連携パスの基本方針
・アウトカムマネジメント
・三方よし 「売り手より、買い手よし、世間よし」
「医療者よし、患者・家族よし、地域医療よし」
・後工程はお客様
自分が担当したあとの作業者をお客様だと思って、後工程の人が作業しやすいように責任をもって次の人に仕事を送りましょう、という意味
「KAIAEN」とともに、トヨタ経営のポリシーのひとつ
<まとめ>
・きちんとアウトカム設定をして、バリアンス分析を行い、アウトカム管理を行わなければいけない。
・それをやらない連携パスはただの診療報酬算定のツールであり、体のいい「追い出しパス」でしかない。
・地域連携パスのアウトカム管理をしてPDCAサイクルを回すことにより、地域全体のTotal Quality Manegement(TQM)が可能となる。
なお、今回は荘内病院整形外科病棟から、医師、看護師など多く皆さんに懇親会も含め参加頂き、大変有意義な会になりました。ありがとうございました。
今回は、青森県立中央病院 整形外科 伊藤淳二 先生をお招きし、青森市における大腿骨頚部骨折地域連携パスついて講演頂きました。
失敗事例(バリアンス)を分析することで、アウトカム(到達目標)を見直し、PDCAサイクルを回すことで、治療~ケアの改善を行っているという内容は、当地区の連携パスにとっても大変参考になりました。
とくに、大腿骨骨折のおける深部静脈血栓症のリスク管理、認知症を考慮したアウトカム設定、中間アウトカム(クリニカルインディケーター)の導入などは、今後当地区でもしっかり取り組んでいく必要があるテーマだと感じました。
まとめとして、先生が挙げられた以下の点は、まさにその通りだと思います。今後とも、連携パスの適切な運用を通して、地域全体のレベルアップを目指していきたいという思いを新たにしました。
・きちんとアウトカム設定をして、バリアンス分析を行い、アウトカム管理を行わなければいけない。
・それをやらない連携パスはただの診療報酬算定のツールであり、体のいい「追い出しパス」でしかない。
・地域連携パスのアウトカム管理をしてPDCAサイクルを回すことにより、地域全体のTotal Quality Manegement(TQM)が可能となる。
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青森市におけるアナログ的大腿骨頚部骨折地域連携の実際と今後の課題
青森県立中央病院 整形外科 伊藤淳二 氏
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1、青森市の大腿骨頚部骨折地域連携パスの構成
2006年、青森県中、市立病院(急性期)と慈恵会病院、協立病院(連携病院・回復期リハ)で開始
特徴は、各病院のクリティカルパスを繋ぐ、連結型連携パスとしたこと
2007年、連携病院が12病院へと拡大される
パス利用患者数:2006~2015年で2418人
2、連携パスデータの分析結果
2006.5~2014.12 までの1203名の分析結果
受傷年齢:平均78.9歳 (23歳から101歳)
年代別では、70代:26%、80代:43%、90代:13%
受傷場所:屋内71%、屋外29%
受傷原因:転倒81%、転落・事故:12%、・・
入院期間:急性期:13.7日、連携病院:66.7日
転帰別の連携病院入院期間
ベット上:45.4日
独歩:50.0日
死亡:65.1日
車椅子:68.6日
杖:70.7日
歩行器:76.0日
3.データ分析から見える問題点
■腎不全による死亡例
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事例:81歳女性、左頚部骨折の事例
管理病院で手術後、10日で転院
連携(回復期)病院で、腎機能低下、34日目に透析病院へ
48日目に死亡
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管理病院転院時のアウトカム設定に問題があった!
そこで、初期の1,2のアウトカムに、以下の3,4,5のアウトカムを追加した
1、創が治癒している
2、本人・家族が連携パスでの転院に同意している
3、退院直近のレントゲンで異常がない
4、退院直近の血液検査が術後より悪化していない
5、リハビリテーションを継続できる状態にある。
初期のアウトカムを前期群、3,4,5を追加したアウトカムを後期群として、パス脱落例を比較した
前期群 → 後期群
認知症の増悪: 3.2% → 1.2%
合併症の悪化: 3.8% → 1.5%
骨折部の異常: 1.8% → 0.3%
新たな合併症: 1.8% → 0.6%
退院時アウトカムをより厳密にすることで、予後を改善することができた。
■深部静脈血栓症(PE)による死亡例
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症例:65歳、女性の右頚部骨折
入院時血糖 360、HbA1c 9、D-ダイマー 21.0
7日目に手術予定も血糖コントロールつかず、手術延期
12日目に、呼吸苦出現、その後心肺停止、2時間後死亡。
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PEの予後、222例中70例(32%)が死亡という報告がある。
脳外、整形に多い、
D-ダイマーの上昇が(83%)と高率にみられた。
リスク因子
D-ダイマー上昇
a/f
抗凝固剤中止
長期臥床
独歩不可、車椅子
骨盤以下の骨折
肥満
・・・
青森県中では、肺血栓塞栓症リスク評価マニュアルを作成し対応している
■認知症と歩行能力獲得率
認知症では、歩行能力獲得率が低い
パス学会で優秀賞
急性期の看護必要度と急性期HDS-R(認知症の程度)が退院時FIM・退院時移動能力と相関した。
■早期自宅退院可能だった大腿骨頚部骨折患者の要因検討
術後28日以内に連携病院を退院した患者の要因分析
若年で術後1週間以内に杖歩行でき、認知機能正常が早期退院の要因。
■大腿骨頚部骨折地域連携パスに認知症ケアを導入して
認知症予防の方法として、24時間リアリティーオリエンテーション技法を用いて、
連携パス患者を入院時と退院時との長谷川スケールを評価し、有用性を検討。
退院時のアウトカムに、「長谷川スケールが低下しない」を追加した。
4、既存の連携パスの改善 ~連携パスのPDCAサイクル~
大腿骨頚部連携パス患者 820名のうち21名(2.6%)の死亡例があった
死亡原因として術後合併症が85.3%と多く、そのなかでも肺炎が最も多かった
両側骨折は44名/1163名(3.5%)にみられ、連携病院入院中が4名(9%)、維持期施設入所中が4名(9%)であった。
ガイドライン Grade B
大腿骨骨折を生じた患者は、対側の骨折リスクが明らかに高いことから骨粗鬆症や転倒予防対策を講じることが望ましい。
骨折のリスク評価としてFRAXがある。(ネットで利用可能、今後10年間の骨折確率が分かる)
FRAX(Fracture Risik Assessment Tool)
立った高さからの頚部骨折女性105名の受傷前の骨粗鬆症治療率は、12%に過ぎない
折れるべくして折れた、
再骨折を起こさないために、連携パスのアウトカムに「骨粗鬆症治療を行う」を追加した
骨折や転倒は女性の介護が必要になった原因の3位
大腿骨骨折の患者の4割は、5年以内に死亡する
5、連携パスの基本方針
・アウトカムマネジメント
・三方よし 「売り手より、買い手よし、世間よし」
「医療者よし、患者・家族よし、地域医療よし」
・後工程はお客様
自分が担当したあとの作業者をお客様だと思って、後工程の人が作業しやすいように責任をもって次の人に仕事を送りましょう、という意味
「KAIAEN」とともに、トヨタ経営のポリシーのひとつ
<まとめ>
・きちんとアウトカム設定をして、バリアンス分析を行い、アウトカム管理を行わなければいけない。
・それをやらない連携パスはただの診療報酬算定のツールであり、体のいい「追い出しパス」でしかない。
・地域連携パスのアウトカム管理をしてPDCAサイクルを回すことにより、地域全体のTotal Quality Manegement(TQM)が可能となる。
なお、今回は荘内病院整形外科病棟から、医師、看護師など多く皆さんに懇親会も含め参加頂き、大変有意義な会になりました。ありがとうございました。