多元的全体食のすすめ(十一) 食べ物研究家 五十嵐玲二談
11. 植物分類による野菜、果物、穀物について
人類の主要な食物である栽培作物についての全体像とそれらについて体系的に理解することは重要なことです。そのために植物分類学の力を借りて科ごとに分類してみようと思います。
そこで、生物の分類の体系について見てみます。
ドメイン ―― 界 ―― 門 ―― 綱 ―― 目 ―― 科 という階層構造になっています。しかし、生物分類学は、便宜上の分類であって、生命体は、分類学に沿って進化したわけではありません。
真核生物ドメインの下に、菌界、植物界、動物界が、位置します。植物界は葉緑体を持ち、動物界はミトコンドリアを持ちます。
植物界は、裸子植物門と被子植物門に分かれます。裸子植物門には、松、イチョウがあり、食べ物としては、松の実、ギンナンがあります。
被子植物門は、単子葉植物綱と双子葉植物綱に分かれます。単子葉植物綱は、子葉の数が一枚で、根がひげ根で、葉脈は平行です。一方、双子葉植物綱は、子葉が二枚で、根が主根と側根で、葉脈は網状です。
ここで、目からは細分化しますが省略し、ここでは、科をもって話をすすめます。単子葉植物綱には、イネ科、ヤシ科、ネギ科、サトイモ科、ユリ科、バショウ科、ショウガ科などがあります。
以降は双子葉植物も単子葉植物も断りなく科で話をすすめますので、上記以外は双子葉植物です。最初に私の独断でベスト20を表記します。
本来は、全世界の金額ベースの生産高で、順位を決定したいのですが、そのような信頼のおける統計は存在しません。この順位表はたたき台です。まずは、たたき台をつくることが重要ではないかと考えました。
(1) イネ科 稲、小麦、大麦、トウモロコシ、サトウキビ、モロコシ(ソルガム)、カラスムギ、アワ
これらは、主食となる穀物で、稲は水稲と陸稲があり、東南アジアを主体として、現在は全世界で栽培されている。小麦、大麦はヨーロッパ、中東、アフリカを主体として、全世界で栽培され、パンやナンなどに工夫された。
トウモロコシは、インカ文明の文化遺産でありますが、アメリカが、大規模農業と一代雑種によって、生産性を高め、人の食料としては勿論ですが、家畜の飼料として、肉、卵、牛乳をアメリカの庶民の食卓に登場させました。
大麦はビールの原料として、重要なものです。サトウキビは、人類には稀であった甘さを、身近なものにしました。
(2) マメ科 大豆、インゲン豆、エンドウ、ササゲ、レンズマメ、ソラマメ、落花生、小豆、枝豆
これらの豆の中で、大豆が生産量及び多様な用途に於いて、ダントツ重要です。これらマメ科の豆は穀物との栄養バランスの良さで、第2位にランクされます。穀類の栄養を補うタンパク質が豊富なためです。枝豆は、未熟な大豆です。
マメ科の植物は、根に根粒菌を共生させているため、空中窒素を固定して、亜硝酸をマメ科の植物に提供する。
(3) ナス科 ジャガイモ、トマト、なす、トウガラシ、ピーマン、パプリカ
ジャガイモは、寒冷地に於いては、主食となり、トマトとトウガラシはイタリア料理の主要食材の地位を占めています。ジャガイモもトマトもトウガラシもインカ帝国の文化遺産です。 野生のジャガイモが子供の握りこぶしの大きさになるまで、数百年いや数千年の歳月が流れたと言われています。
(4) バラ科 リンゴ、ナシ、イチゴ、ウメ、アンズ、サクランボ、桃、びわ、プルーン、アーモンド
バラ科の果物で、リンゴは保存性、あらゆる加工が可能で、リンゴを食べると医者いらずと言われています。イチゴは生クリームとの相性が良く、温室栽培で収穫期をコントロールすることによって、需要を伸ばしてます。
(5) 瓜科 かぼちゃ、メロン、スイカ、キュウリ、ゴーヤ、ズッキーニ、冬瓜
かぼちゃは、人間も食べますが、家畜用の飼料としても重要なものです。メロンは美味しさを追求することで、高級果実としての地位を確立しました。
(6) アブラナ科 キャベツ、大根、白菜、かぶ、ブロッコリー、菜花、ナタネ
キャベツ、大根、白菜は、漬物の御三家として、米食の名脇役です。菜花は、ナタネの開花直前で収穫したものです。ナタネの実からナタネ油がとれ生産高は、パーム油、大豆油についで、第3位です。菜の花は満開になると黄色で、ミツバチによって、ナタネの蜂蜜がとれます。
(7) ヤシ科 ココヤシ、ナツメヤシ、サゴヤシ、アブラヤシ
この中で、アブラヤシがパーム油の原料として、インスタント食品、スナック菓子など、すべての揚物にもちいられます。アブラヤシを栽培するために、ボルネオの熱帯雨林を切り倒し、ボルネオゾウやオラウータンの森を奪っていることも忘れてはなりません。
パーム油を輸入して、さまざまな食品加工を行っている日本では、多くの人が肥満や動脈硬化の問題をはらんでいる。私たちも少しパーム油を使った食品群を控えることによって、ボルネオの熱帯雨林に心を馳せてみてはと考えます。
(8) ツバキ科 チャノキ〈茶)、椿(椿油)
お茶の葉は、紅茶、ウーロン茶、日本茶として飲まれ、生産高では、中国、インド、ケニア、スリランカ、トルコの順で日本は十位です。コーヒーかお茶かで、迷いましたが、歴史があり、中国とインドでお茶を飲んでいる以上、お茶、コーヒーの順とならざるを得ません。
現在では日本茶は、世界中で飲まれ、茶道と共に日本国内だけのものではなく、さらに健康にも効果があり、これからも世界に羽ばたく予感が致します。
(9) アカネ科 コーヒーノキ(コーヒー豆)
コーヒーとお茶の対比は、パン文化と米の文化に対応するように思います。パンとコーヒーの相性が良く、ごはんとお茶(ウーロン茶)の相性が良いものです。コーヒーの生産高では、ブラジル、ベトナム、インドネシア、コロンビア、インドの順です。
(10) ぶどう科 ぶどう(ワイン)
ぶどうは、大きく、生食、乾しブドウ、ワインの用途に分かれます。ぶどうの生産高では、中国、イタリア、アメリカ、スペイン、フランスとなりますが、ワインの生産高では、フランス、イタリア、アメリカ、スペイン、チリとなります。優れたワインを造ることによって、付加価値は跳ね上がります。
(11) ミカン科 バレンシアオレンジ、ネーブルオレンジ、グレープフルーツ、ゆず、ダイダイ、カボス、レモン、ライム、夏みかん、八朔、伊予柑、清美、ブンタン、マンダリンオレンジ、紀州ミカン、キンカン
柑橘類は、世界的にどれが重要で、今後どれが有望なのかわかりませんが、生食、ジュース、料理の調味料と可能性を秘めてます。私は個人的にまるごと食べられる、キンカンに可能性があると思います。
(12) バショウ科 バナナ
バナナは、栄養価も高く、生産量も大きいのですが、主食としての重要性は低下した。中尾佐助はこのように述べてます。
「東南アジアの熱帯雨林の中で、バナナ、ヤムイモ、タローイモ、サトウキビの四つの栽培植物を開発したことは、人類の生活史上の革命の一つだ。
この四種の作物を組み合わせた農業体系は、弾力性に富み、安定した食物生産を可能にするものである。この方法で農業生産にたよった経済がはじめて成立可能となり、人類の長い旧石器時代を通じて行われた採取経済から飛躍することが可能になったのである。
バナナは本来、種無しではなく、三倍体利用によって、種無し果実を作り上げている、これは近代育種学にとっても驚嘆すべきものである。」
バナナの生産高は、インド、中国、フィリピン、ブラジル、エクアドルの順である。
(13) たで科 そば
ソバは、世界中で食べられており、生産高では、ロシア、中国、ウクライナ、フランス、ポーランドの順である。ニョッキ風、ヌードル風、クレープ、おかゆ、そばがき風などの食べ方がある。そばは、イネ科以外の双子葉の穀物である。
(14) アオギリ科 カカオ
カカオ豆はチョコレートやココアの主原料で、カカオの樹の果実の中にある種子のことです。カカオの樹は常緑樹ですが年間を通じて落葉し、半日陰を好みます。枝だけでなく、幹にも実のなるちょっと風変わりな樹です。
カカオ豆の価格は原則として商品先物市場における国際相場により形成されています。カカオ豆の商品先物市場は、ロンドンとニューヨークに開設されており、毎日取引が行われています。
ロンドン市場はスターリングポンド(イギリス通貨)建てで、主として西アフリカ産のカカオ豆を取引し、ニューヨーク市場は米国ドル建てで、主として中南米産のカカオ豆を取引しています。(日本チョコレート協会ブロブより)
生産高は、コートジボワール、ガーナ、インドネシア、エクワドル、ナイジェリアの順ですが、チョコレートの消費国は、先進国です。
(15) ヒルガオ科 サツマイモ
サツマイモは繁殖能力が高く窒素固定細菌との共生により窒素固定が行えるため痩せた土地でも育つ。従って、初心者でも比較的育てやすく、江戸時代以降飢饉対策として広く栽培されている。(Wikipediaより)
生産高は、中国、ナイジェリア、ウガンダ、インドネシア、ベトナムの順です。魚の干物とサツマイモは、栄養のバランスが良い。本来の順位は、もっと上位かもしれません。
(次の順位は、トウダイグサ科のキャッサバかもしれませんが、日本では見られませんので、省略します。)
(16) ネギ科 ネギ、タマネギ、ニラ、ニンニク、ラッキョ、アサツキ、ワケギ、ギョウジャニンニク
ネギ科の野菜は、肉との相性が良く、特にタマネギ、ニンニクは、肉料理になくてはならないものです。
(17) キク科 ヒマワリ、レタス、ゴボウ、フキ、サラダ菜、春菊、ヤーコン、アーティチョク、ベビーリーフ、カレープラント
ヒマワリは、種子を搾ってヒマワリ油をとります。植物油の生産高は、パーム油、大豆油、ナタネ油、ヒマワリ油の順です。レタス、サラダ菜、ベビーリーフ、アーティチョク、カレープラントは、生でサラダとして食べます。
(18) セリ科 ニンジン、セロリ、パセリ、三つ葉、せり、アシタバ、コリアンダー(パクチー)
ニンジン、セロリは、肉料理になくてはならないものである。セロリは、ゴリラが好んで食べる、植物です。
(19) サトイモ科 サトイモ、コンニャクイモ
サトイモは、南太平洋では、タロイモとして、主食である。
(20) ショウガ科 ショウガ、ミヨウガ、ウコン、カルダモン
ショウガ、ウコン(ターメリク)、カルダモンは、カレーをはじめとする香辛料にとって重要です。
(21) ヤマノイモ科 ナガイモ、ヤマノイモ
ナガイモ、ヤマノイモは、擂って生でも、焼いても、煮ても食べることができます。むかごは、ヤマノイモの葉の付け根にできる珠芽です。むかごは、方丈記にも出てきます。
(22) その他 ゴマ、オリーブ、栗、コショウ、クルミ、アスパラガス、アボガド、キュウイ、……
第21位までに、もれたものをその他としましたが、ゴマ、オリーブ、アスパラガスなどは、将来性が期待できる作物です。
野菜、果物、穀物の全体像を捉え、その料理方法を知り、成長段階のどの時点で、食材とするか、魚や肉との相性を知り、どのように料理して、どのように体に役立つかを知って、選択することは重要です。 (第11回)
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