と き 2007年12月25日(火) 23時~23時30分
チャンネル NHK総合
番 組 名 ドキュメント「考える」~ベストセラー作家・石田依良の独創の秘密
過去、直木賞を受賞し、大変な売れっ子作家の石田さんは、沢山の取材(毎月20~30本)と原稿(毎月300枚)の締め切りで毎日大忙しだがそれでも小説のネタは尽きないという創作力の旺盛な作家。またその一方で極め付きのモーツァルト・ファンとしても知られる。
著書「アイ・ラブ・モーツァルト」の中でオペラ「魔笛」(クリスティ指揮)やグレン・グールドが弾くピアノ・ソナタが大好きとのことで珍しく自分と好みがピッタリ一致するので大いに注目している作家である。「魔笛」が好きな人それも作家となるとほんとうに珍しい。
その石田さんの創作力の秘密に迫ったのがこの番組でNHKはなかなかユニークな企画をする。まずアプローチが少々変わっていて、NHK側から石田さんにミッションとして与えられたのは「自殺願望を持つ少女が自殺をやめたくなるような童話」を創作せよとの命題。同時に、しばりをつけて広辞苑を無作為にめくって目をつぶって指で押さえた3つの言葉を童話の中に使うのが条件。
その結果、3つの言葉とは「がちょう」「草書」「光学」。創作の期限は48時間。
早速、石田さんが構想にとりかかるが、ここで彼の独創の秘密の一端が明かされる。
石田さんは創作にあたって心を2段階で使うそうで、
①理性の段階
②さらに下の段階(無意識) → 自分の中にいる他人のような存在で彼、あいつといった存在
に分けられ、①と②の関係は①から②の彼に材料を渡しておけばひとりでに②から答え(ストーリー)を出してくれるような結びつきを持っているのだという。そして、本格的に執筆するときは①と②の二人で一緒にライブをしている感じになるのだそうだ。
そして興味深いのがプロット(構想)と執筆の過程で活用するBGMの音楽。今回ではプロットを考えるときに聴く音楽は主人公(自殺願望の少女)を踏まえて夫に先立たれた女性の悲しそうなボーカル。
そして執筆するときにかける音楽は、何とグールドが弾くモーツァルトのピアノ・ソナタ。グールド独特のタッチが創作意欲をかきたてるとみえる。
なお、余分な話だがちらっと見えた部屋のオーディオ装置がすごい。スピーカーはウィルソン・オーディオでCDプレーヤーはマーク・レヴィンソン!
そして最終的に出来上がった童話が面白かった。「人生に絶望して11歳7ヶ月で自殺すると決意したお姫様がお供のがちょうを連れて豊かな光の国へお別れの旅をするが、がちょうの自殺と亡き祖父が残した草書体の手紙をみて自殺を思い止まるというストーリー。」しばりとなる三つの言葉がきちんと童話の中で生かされている。
さてこの番組のポイントは心の二段階活用である。37歳で作家デヴュー、43歳で直木賞受賞という遅咲きの作家である石田さんの独創の根源となる心の二段階活用は果たしてどのような過程を経て形成されたのだろうか?
この番組を見る限り、小中学生の頃に図書館の本を大量に読み漁り、小さい頃から自分を真剣に見つめる日記をずっとつけ続け、大学卒業後はフリーターなど各種職業を転々としてもがいていた過程で自然と身に着いたものらしい。
本人の言によると結局、若い時期に徹底的な自分探しの旅をしたことが実を結んだようで、そういうことならフリーターをやっていても意義がありそう。そういえば、”自分という人間が何者であるか、それを証明していくのが人生”という言葉をつい思い出した。
また、心の二段階活用で思わず連想したのがモーツァルトの作曲の様子。小林秀雄氏の著作「モーツァルト」によると、まるで手紙でも書くみたいに、人と話をしながらあるいは鼻歌を歌いながら作曲していたという。
自分の中に別の自分がいるように、音楽の全体構成が頭の中に一瞬にして浮かびあがり、あとはそれを引き出して五線譜に書き写していくだけだったというが、石田さんの創作過程も似たようなもので無意識の部分の彼を活用するというところに両者ともに相通じるものがあるようでなかなか興味深かった。
石田依良氏 広い部屋での執筆 全体のプロット