「魔が差す」という言葉がある。
たとえば、ほんのちょっとした出来心による犯罪を起こしたときなどに「つい魔が差してしまった」とかよく使われているのでご存知の方も多いだろうが、確認のため広辞苑を引くと「悪魔が心に入り込んだように、ふと普段では考えられないような悪念を起こす。」とある。
ただし、「魔が差す」ことは何も悪いことばかりではなく一方では他人に迷惑をかけさえしなければ人間らしさの証明みたいな気もするところで、ご愛嬌で済めばそれに越したことはない。
ましてやオーディオにおいて思わぬ効果が・・、というわけで我が家のオーディオに関して「つい魔が差してしまった」話に入ろう(笑)。
きっかけは、つい先日のブログ「3系統のアンプ+スピーカーのセレクター」で記載したように我が家のスピーカーのコードを直径1.2mmの単線に代えてしまったことにある。
まずは取り換えがしやすい3系統のSPコードをすべて交換したところ期待通りの効果を発揮したので図に乗って、残るはいよいよタンノイ・ウェストミンスターのエンクロージャー内部の配線だけとなってしまった。
ところが、この大型スピーカーを相手とした作業となると何とも気が重くなる~。
100kgをゆうに超える大きな図体を“よっこらしょ”と動かして裏側に入り込み、18本の裏蓋のネジを開けなければいけない。そして重たいユニットを取り外して「ハンダごて」でSPコードを外して新たに取りつける。これら一連の作業を考えただけでウンザリだが、「好みの音」に一歩でも近づくためにはやらずばなるまい。
これはマニアとしての義務である。無知は仕方がないが、分かっていてやらないのが一番悪いんだから。法律用語では前者を「善意」といい後者を「悪意」という。
そしてここで「つい魔がさしてしまった。」(笑)
どうせ困難な作業をやるのなら、いっそのこと内蔵されているユニットも変えてみよっか!
「エッ、つい最近入れ替えたばっかりじゃないか」と驚く向きがあるかもしれない。
以下は、仕方なく自分を納得させるための後付けの理由である。
現用中のタンノイさんのオリジナルユニット(口径38センチ)はたしかに「いい音」なんだが、こう言っては何だが「普通の音」の範疇に留まっているのが口惜しくもある。
長年オーディオの泥沼に深く浸かってきたが、正直言ってこんな音が集大成だとしたらちょっと心残りがする。どうせなら「ハッとするような美しい音」を出してあの世とやらへ行きたいものだ。そのためにはユニットを変えるのが一番手っ取り早い!
こういう連鎖反応的な思考のもとに、決意を新たに倉庫から引っ張り出してきたのがJBLのD130ユニット(口径38センチ)だ。
ずっと以前にもチャレンジしたことがあるのだが、あの時はまだ若かったし、今では経験を積み重ねたので失敗した理由もおおよそ分かっている。な~に悪けりゃ元に戻すだけの話。命まで取られることはないんだから(笑)。
ちなみに左側の画像がタンノイのユニット、右側がJBLの「D130」で、共に口径38センチだがJBLの方がコーン紙の取り付け角度が浅いので応答性が良いことが分かる。
取り付け用の補助バッフルもちゃんと保管していたので即実行に移った。
それでも作業には両チャンネル分なので半日ほどかかった。
一番時間がかかったのは、つい最近のブログにも記したように真空管専門誌「管球王国」の受け売りで、内部に厚いフェルト生地の吸音材の代わりにティッシュペーパーを張ることだった。オヤッと興味を惹かれたことは何でもチャレンジする、その心意気や良し(笑)。
SPユニットの構成は次のとおり。ネットワークはパイオニアの2ウェイ用の「DN-6」(クロス4000ヘルツ:12db/oct)を使用。
<低音域:~4000ヘルツ> JBL「D130」ユニット
<中音域:4000ヘルツ~> ミダックス(グッドマン)ドライバー
<高音域:味付け> JBL「075」ツィーター(マイカコンデンサーの「0.075μF」でローカット)
便宜上、以上のように区分したが正式な周波数帯域の呼称は以下のとおりなので参考のために記載しておこう。
最低音域(30~60ヘルツ)、低音域(60~100ヘルツ)、中低音域(100~200ヘルツ)、中音域(200~500ヘルツ)、中高音域(500~1000ヘルツ)、高音低域(1000~2000ヘルツ)、高音域(2000~4000ヘルツ)、高音高域(4000~8000ヘルツ)、最高音域(8000~16000ヘルツ)
中音域が意外にもかなり低い周波数に設定されているし、全体的に見て1000ヘルツまでが音づくりの主戦場であることが分かる。ただし、もちろん各帯域は音の領域だからスパッと数字的に割り切れることはなく隣通しに互いに侵入し合っていることは言うまでもない。
いずれにしても今回はユニットの交換がバッチリうまくいった。クロスオーバーを4000ヘルツにしたのがキーポイントである。これまで失敗した理由は(クロスオーバーを)1000ヘルツしたことにあった。
もちろんオリジナルユニットならそれがベストだが、毛色の違うJBLのユニットを起用するとなると、タンノイさんのエンクロージャーのフロントの独特のショートホーンが悪さをするので4000ヘルツあたりがベストだろうと踏んだわけだが、見込み通りだった。
大型スピーカーならではの雄大なスケール感、前述したように口径38センチにもかかわらず音声信号に対する応答性が早くて小気味よく弾んでくる独特の中低音域の歯切れの良さはJBLの独壇場だと深く感じ入った。
ミダックスのドライバーとD130の能率がうまくマッチングしてアッテネーターを入れないで済んだのも大いに助かった。この音なら小編成から大編成まで何でもござれで「鬼に金棒」だろう。
総合的に見て、ようやく我が家のスピーカー群と横一線に並んだ感があるので、結果的には「魔が差してほんとうに良かった」(笑)。