企業経営の基本を否定したも同然
2023年9月28日
岸田首相は26日、10月にまとめる経済対策の策定を閣議で指示しました。首相官邸で記者団に「物価高に苦しむ国民に成長の成果を還元し、コストカット型経済からの歴史的転換を図る」と述べました。
記者説明では「コストカット型の経済から30年ぶりに転換」と書いたパネルを持ち出しましたから、言葉の上滑りからでた発言ではなく、首相、官邸官僚が練りに練ったスローガンで、本気でそう思っているのでしょう。首相の経済思想を考えるうえで、これは重大な問題です。
それを各紙、各社の社説が取り上げ、問題視しているようには見えません。新聞はいったい、どうなってしまったのでしょうか。「歴史的な転換」といっているのですから、メディアはものをいうべきです。
コストには金融費用(金利)もあります。政府、日銀は金融費用を軽くしてあげるために、異次元金融緩和を続けています。「コストカットからの転換」に、金融費用の削減を含むとしたら、「今後、日銀は政策金利を引き上げていく」という宣言になります。そこまで考えたうえで、「コストカット型からの転換」と言っているのでしたら重大です。
通常は経営計画の基本として、「コスト・パーフォーマンス(費用対効果比)を改善して、投入した費用(コスト)に対して得られる効果を高くする」を目指します。コストカット、その反対のコスト転嫁は経営計画全体の一部として考える。コストだけを考えることはしない。
経済産業省・中小企業庁のホームページにはこう書いてあります。「企業利益=売上-コスト(費用)であり、利益を増やすには、売り上げを増やすか、コストを減らすしかない。企業コスト=原材料費、人件費、販促費、交通費、家賃」とあります。
コストが上がったら、減らす工夫をし、そのまま売上価格に転嫁することはしません。合理化が必要です。また、売り上げが立った企業の他方には購入した企業がある。売り上げた企業は自社製品の価格を引き上げ、それを購入した企業も価格を転嫁する。際限なく、玉突き的に価格上昇が起きる。産業全体でそんなことが続けば、とめどもなくインフレが進行します。
原材料費が上がって、困っている中小企業に値上げを認めないと、中小企業いじめになる。その場合は、確かに大企業は値上げを認めてあげないと、中小企業はやっていけない。確かにコストカット一辺倒ではいけないケースもある。それでも安易に玉突き式に価格を次々に引き上げていったら、インフレは止まらなくなります。
経産省は「コストを削ると、社員のモチベーションの低下、品質・サービスの低下が起きるので、収益をあげるために必要不可欠なコストと見直し可能なコストを見極めなければならない。単なる節約ではなく、収益改善につなげなければならない」とも、説明しています。
通常は、市場における競争を通じて、適正なレベルの価格引き上げが行われていく。それに対し、首相は「コストカット型の歴史的な転換」はといってしまっています。乱暴な言い方です。
首相は「コストカット型の経済からの転換」、それも「30年ぶりに歴史的転換を図る」と大仰な表現を使いました。1990年に平成バブルが崩壊して、企業がコスト管理に必死になった時点から起算して「30年ぶり」と語ったのでしょうか。
首相の真意は「賃金は抑制(コストカット)しないで、賃上げをどんどんしてやってほしい」、「原材料費が上がったら(コスト増)、販売価格をどんどん上げてほしい」あたりにあるのでしょうか。
つまり値上げ(インフレ)と賃上げの好循環を作りたいのでしょう。消費者物価は前年比で3%以上も上がり続け、政府の物価政策(ガソリン代補助など)を考慮すると、実質的に4%台に達するでしょう。
日銀は「2%目標を持続的に達成できるかま自信が持てない」といい、異次元金融緩和(日米金利格差による円安要因)を修正するつもりがない。ですから「もっともっと物価を上げを」、「物価高で実質賃金がマイナスにならないよう、賃上げを」が首相の本音でしょうか。
首相の発言は矛盾だらけです。企業のコストに占めるエネルギー・コストは大きく、企業は節電に努めています。「コストカット型からの転換」といってしまえば、原油高=ガソリン代の高騰(コスト増)に対し、コストカットしないでいい、つまり放置していても構わないことになる。それなのにガソリン代の政府補助は年末まで延長するらしい。矛盾しています。
人件費については、派遣社員、契約社員の雇用による人件費削減は、企業にとって人件費の抑制にはなっても、労働者全体としてみると賃金が伸びず、デフレの一因になってきました。これからは「賃金抑制より、賃金の増加を」と考えているとしたら、その部分は正解かもしれない。
最大の問題は「どんどん値上げを」と言いながら、「円相場はどんどん値下げ」を貫いています。円の実力(実質実効為替レート)は過去最低で、1970年8月を53年ぶりに下回りました。「1㌦=360円の固定相場だった当時より、円の価値が割安になっている」(日経)。
円安が最近では、1㌦=150円に近づき、輸入物価を押し上げ、国内物価高騰の要因になっている。ここで掲げるべきは、「円安誘導型、異次元金融緩和からの転換」であり、円の価値の下落を防ぐことです。つまりアベノミクスの否定、修正を含めて、経済対策を語る必要があります。
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