義務としての在日駐留軍経費の分担
2016年11月27日
トランプ次期期米大統領は「アメリカ第一主義」(アメリカファースト)の名のもとに、日本にもかなりの難題をぶつけてくるでしょう。日本も受け身でなく、準備態勢に入ったほうがいいですね。トランプ氏が重視している安全保障予算、中でも在日駐留軍経費の負担問題は大きな焦点です。
以前から気になっていたのは、駐留軍経費の一部を、日本側が米側に対する「思いやり予算」と、呼んできたことです。トランプ氏がその経緯を知ったら、「なに、日本は思いやりで分担金を払っているのか」と、怒りだしかねません。「日本は米国を思いやるほど余裕があるのか。それならもっと分担を増やせ」と、言われる恐れがあります。
「思いやり」を直訳できる的確な英語は、恐らくないでしょう。ないから「omoiyari yosan」という英語表記もあるほどです。強いていうなら、sympathy,compassion,considerationなどが「思いやり」の直訳ですか。それでは意味がよくわからないし、米側が「思いやり」という意味を嫌い、英語の公式表記は、「Host nation support」にしているようですね。
適訳がないから無事だった
日本語の直訳では、「駐留軍受け入れ支援」、「接受国支援」ですか。これでは今度は、日本人によく分かりません。とにかくトランプ氏の登場で「思いやり予算」という言葉を使い続けることは、火種になりかねません。英語の適訳がないから、だれも騒がず、これまで無事ですんできたともいえます。
「思いやり予算」は字数が少ないし、分かったような分からない言葉でしたから、メディアも深く考えずに多用してきました。最近でも、茂木・自民党政調会長が訪米し、国防総省の高官に「思いやり予算は適切な水準」(11月16日、日経の見出し)と説明したとあります。茂木氏が「思いやり予算」といったかどうかは分かりません。
「思いやり予算」という言葉が登場したのは1978年からです。日本の物価高騰、円高・ドル安が進み、駐留軍経費(円換算)の日本への支払いが増え、さらに「日本は経済が拡大しているのに、軍事面の負担が少なすぎる」という米国の対日批判が高まっていました。当時の金丸防衛庁長官が「思いやりを持って対処すべき問題だ」と、訳の分からない表現を使い、対米協力費を増やしました。「思いやり」といえば日本人は、納得するだろうという計算だったのでしょうか。
民主党政権時代に、前原外相が「外交における戦略的サポートであり、思いやり予算という言い方は正しくない」とし、以後、ホスト・ネーション・サポートと呼ぶことを表明しました。長すぎる表現だったのでしょうか、立ち消えになりました。
死語にしたほうがよい
もうこの言葉を使うのは止めにすべきです。まず政府、つまり防衛、財務、外務省からです。政府が止めれば、メディアも次第にこの言葉を使わなくなるでしょう。「思いやり予算」は駐留軍経費の日本側負担の一部、1900億円にしかすぎません。在日駐留米軍関係経費は約7600億円で、米軍経費のほぼ半分を日本が負担しています。
誤解を招かないように、「思いやり」は死語にしてはどうでしょうか。日本側負担の総額をまず明示し、内訳を列挙すればすむのではないでしょうか。基地日本人職員の給与、基地内の光熱・水道費、訓練場移転費、施設建設費などの金額を項目別に示せばいいのです。防衛予算とあまり関係のない項目も紛れ込んでいますので、整理すべきですね。
12月は本格的な予算編成期に入ります。米国が「世界の警察官」としての役割を果たさなくなるというなら、日本にどのような影響がでてくるのか。日本の対米負担金7600億円という数字は、独の1900億円、韓の1000億円に対して、なぜこんなに多いのか。景気・経済は低迷し、財政再建は難しく、社会保障費は増える一方です。本当の問題は「思いやり予算」の呼称でなく、安全保障費、在日米軍駐留費をどう考えていくかにあります。
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