体力加え3点セットの相乗効果
2015年6月3日
安倍内閣の基本的な政策姿勢に世論の風あたりが強いのに、相変わらず高い支持率を維持するという不思議な現象が続いています。世論調査によると、有権者の55%が原発の運転再開に反対、安全保障法制の今国会成立に48%が反対、景気回復の実感がない75%などです。それなのに50%台半ばの支持率を生む原因はなんでしょうね。
まず、日本をめぐる国際環境が厳しくなり、安倍首相が得意とする右寄りの空気が国民に受けているのかもしれません。次にメディアを使いこなす技術がかなり巧妙です。3つ目は驚くようなスタミナ、体力で、信じがたいようなハードスケジュールをこなしています。この3点セットが結びついて相乗効果を発揮しているのでしょう。
以前から漠然と思っていた感想を書いてみたくなったのは、最近の新聞を読んでからです。「首相の1日」というコーナーで1日夜、赤坂の中華料理店で首相は内閣記者会各社のキャップと懇談したと伝えています。激務をぬって首相はマスコミ関係者とよく会食をしております。政治部系の記者にはこれがうれしく、何かをくすぐられるのですね。首相のファンになったり、好意的な記事を書く誘因になりえます。安保法制の国会審議のさ中に、政治部記者との会食をセット(恐らく会費制)するとは、狙いが透けてみえます。政治メディアも政権との距離感が必要ですね。
首相の「指示」が乱用
同じ日の新聞には、日本年金機構の情報流出事件で「首相は、年金受給者のことを第一に考えて万全を期すよう厚労相に指示した」とあります。安倍首相になって新聞記事に「何々を指示」という表現が乱用されています。財政再建問題でも、「18年度の財政赤字を中間目標として、GDP比で1%とするよう指示した」との記事があります。「指示」と表現すれば、閣僚、官僚に対し首相は高所から強い指導力を発揮しているような印象を与えることができます。首相は何々と「語った」「述べた」で十分なのです。やはりメディアには政治との距離感が求められます。
「指示」の乱用は小さな話で、首相側の考えているメディア戦術の基本は、「とにかく毎日どころか、毎日何度でもテレビ、新聞に登場する」ことにあるように思います。国内の各地、海外の各地に出かけ、その姿が報道されることを心がけていますね。国内では国会答弁に立っているかと思ったら、被災地に出かけ被災者を慰める。海外関係では、米国の議会で先月、演説したと思ったら、今月はドイツでのサミットです。全国各地、世界各地を飛び回る指導者像をメディアが懸命に追いかけるたびに、有権者にそうした姿が刷り込まれるのです。これは結構、効果をあげる手ですね。
飛び回る体力には敬服
それにしても、恐るべきスタミナ、体力です。まる1日休むのは、年に何日もないでしょう。潰瘍性大腸炎で首相を退任したのがウソのようです。その後、特効薬が開発され、しかも気分をハイにする副作用があるとか、ないとか。とにかく政界の中でも頭抜けている体力、粘着力には驚嘆します。この点は文句なく敬服します。
米議会演説では、馬鹿でかい単語が並んだ英文原稿がカメラでアップで撮られ、メディアに流されました。「ここで議場からの拍手を待ち、促す」という注釈までもが写真に写っていました。首相側は「下手な英語」などという評価はまず気にしておらず、むしろ「下手なりに、懸命にアピールしようしている姿勢を印象づけるのが狙い。そのためには下手なほうがむしろよい」という逆張りの計算をしているのでしょう。首相の裏には巧妙な演出者がついているように思います。
中韓が安倍人気を支える皮肉
こうした細々とした仕掛けより、日本でナショナリズムというか、国家主義的な雰囲気が強まり、これが安倍人気を支える最も大きな原因に違いないと思います。さらにその原因をたどれば、中国、韓国など近隣国の反日運動です。尖閣諸島や慰安婦の問題が誇大な扱いを受けるほど、「中韓のほうがひどい」という感情が盛り上がり、安部政権と意識が共振しているのでしょう。日本を非難しているかれらの動きが、かれらの嫌いなはずの安倍政権を支えているとは、皮肉な話です。
東シナ海、中東、ロシアなど各地の情勢が不穏になり、対外的な強硬姿勢が国民に受ける状況です。イスラム国の日本人人質殺害事件の検証報告書(5月下旬)を例にとると、政府の措置を正当化する程度の意味しかないように思います。過大評価は控えたほうがいいのに、通信社出身の大学名誉教授は「政府は実によく対応した。首相による政治の統率がしっかり行き届いている」と、絶賛し、読むほうが気恥ずかしくなるほどです。こんなコメントが新聞にでかでかと掲載されるのです。「今の時代はタカ派に限る」と、元気づいている右翼的な知識人が目立ちます。
国民にとっての逆風が、安倍政権にとっては順風となっている。日本に限らず、政治とはそういう世界なのでしょうね。メディアにはそのことに対する認識があってほしい、ということですかね。
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