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日経「私の履歴書」で知る財務省OB「日銀・黒田と五輪・武藤」の優劣

2024年02月01日 | 政治

  

2人の高官の去り際のドラマ

2024年2月1日

  日経新聞で定期的な購読者が最も多いと思われる連載コラム、著名人による「私の履歴書」(1か月)に異変がありました。昨年11月に財務省財務官OBで日銀総裁を務めた黒田東彦氏、今年の1月には事務次官OBで東京五輪組織委員会の事務総長だった武藤敏郎氏が登場したからです。

 

 黒田氏(1944年生まれ)は国際金融、武藤氏(1943年生まれ)は国内財政の事務方のトップで同世代、財務省OBの二人が間を置かずに紙面をにぎわすとは、異例のまた異例のことです。どういうことだろうか。そう思った読者が多いに違いない。

 

 準備期間も必要ですから、執筆の依頼は相当早くするのでしょう。退任後、1年半の武藤氏の登場は順当としても、黒田氏の場合は昨年4月にお辞めになってからわずか半年です。黒田批判、異次元緩和策の方向転換が始まる前に、書くなら書いてしまいたい。そう思ったと想像します。

 

 それはともかく、財務省の事務方トップが退任すると引く手があまたで、退官後も最重要のポストにお呼びがかかる。両氏は日銀総裁、五輪組織委事務総長と違いは大きくても、二人の去り際には共通点も多く、読んでいて思わず苦笑を禁じえませんでした。

 

 黒田氏は安倍・元首相の要請でデフレ脱却のためのアベノミクス、武藤氏は森・元首相(東京五輪組織委会長)の要請で五輪運営のためのポストにつきました。黒田氏は「この使命を私にとっての天命を思った」と、大喜びでした。対する武藤氏は「森会長に説得され、お引き受けした」と。つまり武藤氏はいやいやながらの就任だった。

 

 その違いは大きくても、黒田氏の就任10年、武藤氏の8年半の結果はどうだったのか。黒田氏は「粘り強く金融緩和を続けることで、日本経済に好循環が生まれようとしている」と、満足げです。武藤氏は「東京五輪は日本社会に有形無形のレガシー(遺産)残したと信じている」と総括する。

 

 実態は大きく違うでしょう。黒田氏の10年間、異次元金融緩和による財政ファイナンス(日銀の国債購入)の結果、国債発行残高は未曾有の規模となりました。国債の利払い費は27年度に15・3兆円(24年度は9・7兆円)と膨張します。さらに極度の円安で日本のドル建てGDPはドイツに抜かれて世界4位に転落しました。結果をみれば「壮大な失敗」と言えます。

 

 異次元緩和の出口(転換)を模索できても、財政金融が正常な状態にたどりつくには、20、30年か、もっとはるかにかかるか分からない。要するに、安倍氏と組んだ10年間は日本の混迷を深める遺産を残した。黒田氏は官僚人生の去り際で大きく躓いたのです。本人はそれを認めない。

 

 一方、武藤氏は「東京大会を巡り、元理事が受託収賄罪で起訴され、刑事裁判が続いている。元次長は談合で独禁法違反に問われ、有罪判決を受けている。知らなかったとはいえ、組織委のガバナンスが十分でなかった。事務方の責任者としてお詫び申し上げる」と、反省の弁は述べています。

 

 お詫びや反省どころで済む次元の話ではないのです。五輪犯罪が生まれた基本的な原因は、受注者(電通など)が組織委に人を送り込んで発注者(組織委側)として調整(契約)を行い、受注者(電通など)の利益を図るという常態化した構図にあります。これは常識です。

 

 財務省で公共事業主計官、主計局次長、官房長、事務次官までやった人物が五輪組織委の危うい構図に疑問を抱かないはずはない。恐らく気が付いていた。問題を提起すれば、五輪の開催(2021年)が瓦解しかねない。今さら手を入れられない。そんな不安な心境だったのでしょう。

 

 案の定、元理事、元次長にいいようにひっかき回された。武藤氏を招いた森会長が女性差別発言で辞任し、後任はビジネスにはずぶの素人、五輪スケート選手だった橋本聖子氏に代わりました。日本にはスポーツ・ビジネスをやる独立した企業がなく、電通などがそれを独占していた。受注者が発注者を兼ねると、今回のような事件が派生してくる。

 

 そんな問題意識を抱かない首相や知事が政治的思惑から、五輪を誘致してしまう。新聞、テレビも協賛企業に名を連ね、受益者(広告・CM収入など)だから、告発者にはなろうとしない。「見て見ぬふり」が常態化している。

 

 財務省OBから聞いた話では、「武藤氏は五輪組織委に入ることを嫌がっていた。石川県の総務部長として出向した縁で、森・元首相(石川県)の頼みを断り切れなかった」そうです。武藤氏の官僚人生の去り際には、黒田氏とは違って、同情の余地はあります。

 

  そうはいっても、「事務総長を仰せつかったのは、財務省で37年間、国家財政の運営や組織、人事の管理で積み重ねた経験があったからだろう」と、武藤氏は述べています。それならどうして五輪の総予算が立候補時は7340億円、最終的には1兆7000億円と膨張し、関連経費を含むと3兆6800億円と5倍にもなった。こんな甘いことを続けている。日本の象徴です。

 

 五輪に限らず、札幌冬季五輪(誘致断念)、大阪万博などの巨大プロジェクトの予算はどんどん膨張する。当初は小さく見せかけて計画を認めさせ、後から次々に「資材が高騰した」、「セキュリティ対策で費用がかかる」、「関連インフラの整備も欠かせない」と、予算を追加する。

 

 巨大プロジェクトの総費用は最終的には、当初の2、3倍に膨れ上がる。政治が絡むとそうなる。財務省に37年いたというキャリアを生かす余地はなかった。だからこそ「日本は成長が停滞しているし、お祭りめいたビッグプロジェクトを実施する時代は終わった」とでもいうべきでした。

 

  武藤氏は「若い官僚諸君のなんらかの参考になればいい」、黒田氏は「半世紀以上も現場にいた体験を、次世代を担う人々のために記そうと考えた」と、全く同様の執筆の動機を語っています。

 

 私は「官僚人生の去り際は魔物が待ち受けおり、そこに引きずり込まれる。政治が絡むとくにそうなる。官僚(行政)と政治権力との距離を思慮をもって見直していかねばなならないと、日本は危うい」と、次世代の人たちは悟ってほしいと思いました。

 

 

 

 


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1 コメント

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マルテンサイト千年ものづくり (サムライグローバル鉄の道)
2024-08-28 23:02:40
最近はChatGPTや生成AI等で人工知能の普及がアルゴリズム革命の衝撃といってブームとなっていますよね。ニュートンやアインシュタイン物理学のような理論駆動型を打ち壊して、データ駆動型の世界を切り開いているという。当然ながらこのアルゴリズム人間の思考を模擬するのだがら、当然哲学にも影響を与えるし、中国の文化大革命のようなイデオロギーにも影響を及ぼす。さらにはこの人工知能にはブラックボックス問題という数学的に分解してもなぜそうなったのか分からないという問題が存在している。そんな中、単純な問題であれば分解できるとした「材料物理数学再武装」というものが以前より脚光を浴びてきた。これは非線形関数の造形方法とはどういうことかという問題を大局的にとらえ、たとえば経済学で主張されている国富論の神の見えざる手というものが2つの関数の結合を行う行為で、関数接合論と呼ばれ、それの高次的状態がニューラルネットワークをはじめとするAI研究の最前線につながっているとするものだ。この関数接合論は経営学ではKPI競合モデルとも呼ばれ、様々な分野へその思想が波及してきている。この新たな科学哲学の胎動は「哲学」だけあってあらゆるものの根本を揺さぶり始めている。こういうのは従来の科学技術の一神教的観点でなく日本らしさとも呼べるような多神教的発想と考えられる。
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