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上司の背中を見て学ぶ方法

2017年01月15日 | コンサルティング

以前、ある食品メーカで「新人営業担当者の基本」という研修を行なったときのことです。朝9時、研修開始の号令を人事課長が発すると、営業担当常務が壇上に立ち「では、開始にあたってひと言」と話し始めました。

「君たちは、今まで周りの人たちから手取り足取り教えてもらってきたと思う。しかし、社会人、とりわけ営業担当になったらそうはいかない。営業は基本的に1人で行動し、1人で成果を上げる孤独な仕事だ。」

そしてこう続けました。「仕事に対する姿勢は上司の背中を見て学べ。営業の技術は先輩から盗め。」

私も若い頃に「背中を見て学べ。先輩から盗め」と何度か言われたことがありましたが、最近はあまり聞くことがなくなっていました。現代の人材育成の考え方からすると、それは「古い、非効率的」ということになっています。

セールス担当者は客先に出向けば1人で活動しますが、営業という仕事の全体像はチームワークそのものです。営業部門の人材育成も基本となる知識、スキルを上司や先輩が正しい方法で教える仕組みが必要です。この研修でも、営業としての基本動作はテキストや動画で学び、ロールプレイングで身につけます。

研修後、人事課長は私に言いました。「○○常務(営業担当役員)は古いタイプなので”営業研修なんか役に立たないぞ”って言っていたんですよ。でも、この研修をやってよかったです。外部の視点で、営業の進め方や顧客の考え方を客観的に聞く機会は今までほとんどありませんでした。知識やスキルはもちろんですが、私自身も貴重な”気づき”を得ることができました。」

「どんな”気づき”がありましたか?」と私が聞くと、人事課長は少しにやりとして「背中を見て学ぶ方法です」と答えました。

私が少し首をかしげたのを見て、彼は次のように言いました。

「私も最初の配属先は営業でした。当時はまさに”背中を見て”の時代でしたから苦労しました。」
「でも、背中を見て学べというのは間違った指導方法だとは思っていません。」
「と言うのは、できる上司や先輩の行動を日常的にしっかり観察していると、いつ、なにを、誰に対して、どういう行動をとっているのかが、わかるからです。わかったらそれをノートに書き取って、実践してみます。」

「研修の講義の中で、それと同じことをずばり解説してくださったので、自分が何となくやっていたことが正しかったんだなとわかったんです。背中を見るって、要はしっかり観察するってことなんですね。」

「それでも上手く行かないときは、行動や言葉が書かれたノートを持って質問に行くのですが、その上司本人にそれを見せるとすごく喜ぶんですよ。そうすると、それはもう懇切丁寧に教えてくれるんです。」

う言って笑った人事課長ですが、彼が新人の頃に上司だったのが今朝の「ひと言」を発した常務その人でした。

頑固で強持て(こわもて)という噂の常務がこの研修を許可した理由がよくわかりました。

(人材育成社)