「すべての社員がイキイキ働くようになる」仕組みと研修を提供する人材育成社です。さて、いつもはビジネスに関わる内容をお届けしているこのブログですが、ステイホーム週間に合わせて「お薦めの本」を紹介しています。11冊目です。
「羊と鋼の森 (文春文庫) 」宮下奈都
映画化もされたベストセラー小説です。2016年の本屋大賞にもなっています。しかし、万人受けする内容かというと、決してそうではありません。こう書くと、熱烈なファンとアンチに分かれていそうな感じです。Amazonのカスタマーレビューを見ると「静かに、淡々と進む物語」が良いという人と、退屈だという人に分かれています。4:1くらいで前者が多いのですが。
この本は1人の少年がピアノの調律の世界に入って成長していく物語です。その過程でいろいろな出来事が起こりますが、全体としては内省的な語り口で淡々と話が進みます。
「・・・一音、一音、音の性質を調べるように耳を澄まし、チューニングハンマーを回す。だんだん近づいてくる。何がかはわからない。心臓が高鳴る。何かとても大きなものが近づいてくる予感があった。なだらかな山が見えてくる。生まれ育った家から見えていた景色だ。・・・」
調律という音との対峙を詩的に表現しています。音感の無い私にとっては不思議な世界ですが、想像力を掻き立てられます。この本をつまらない、退屈だと思う人は、まさにこうした表現がつまらない、退屈だと思うのでしょう。そのせいか、カスタマーレビューの「良い」と「悪い」の理由がまったく同じになっています。静かで単調な物語だからこその評価といえるでしょう。
この本と同様な物語としてすぐに思い当たったのは「リトル・フォレスト」(五十嵐大介、2004年)というマンガです。この物語もまた静かで、淡々とストーリーが進みます。橋本愛の主演で2014年に映画化されました。他にも「かもめ食堂」や「舟を編む」など同じような映画や本を思い出しました。
私は、「真逆の」スティーヴン・キングやダン・ブラウンも大好きです。それでも、ステイホームの時にはこうした「手に汗かかない」静かな物語に浸りきるのも、読書の大きな楽しみのひとつだと思います。