「すべての社員がイキイキ働くようになる」仕組みと研修を提供する人材育成社です。さて、いつもはビジネスに関わる内容をお届けしているこのブログですが、ステイホーム週間に合わせて「お薦めの本」を紹介しています。9冊目です。
「絵で見る十字軍物語」塩野七生
まず塩野ファンの方々にお詫びしておきます。「ローマ人の物語」のような気宇壮大な歴史絵巻ではありません。私がこの本を入手した理由は、ドレの絵が見たかったからです。つまり画集として買ったわけです。私は19世紀の画家(イラストレータ)ギュスターヴ・ドレの絵の大ファンで「神曲」、「聖書物語」、「新約聖書」、「旧約聖書」などを持っています。
そうした「画集」の中では、「絵で見る十字軍物語」は異質です。この本は11世紀からはじまり16世紀まで続く約500年の「聖戦かつ愚行」の記録でもあります。
本書の構成は、左右見開き2ページになっています。右ページの上半分には地図とその出来事が起こった場所が〇で示されています。その下には「ごく簡単な解説(著者)」が書かれていますが、単なる解説文ではありません。ニュース記事のように簡潔でありながら、文学的とも言える上質な文章で綴られています。塩野ファンが多いのもうなずけます。
そして、左ページはドレの版画です。一切手抜きの無い写実的な表現で、「聖戦かつ愚行」と表現したように、信じられないほど愚かしい戦闘行為が次から次へと描かれています。その一方、物語の挿絵らしく詩的なイメージも伝わってきます。
さて、この本の中で一番かっこいい絵は「サラディン、登場」(88p)です。サラディンは、内輪揉めでなかなか統一ができなかったイスラム側を、聖戦(ジハード)の旗印を掲げて統合した最強の指導者です。これを描いたドレはフランス人ですから当然キリスト教徒であり、サラディンは敵の親玉です。それなのに馬上のサラディンは、剣を掲げるハンサムな騎士に描かれています。
次にかっこいい絵は「先頭に立って、獅子奮迅の働きをするリチャード」(110p)です。獅子心王リチャード(Richard the Lionheart)は第3次十字軍の英雄です。「ライオンの心」と名付けたのはイスラムの兵士たちと言われていますので、よほど強かったのでしょう。絵の中のリチャードは、戦闘の真っ只中にいますが、残念ながら防具に隠れて顔は見えません。
そして、この本の中で「絵が無い人物」が1人だけいます。「一人も殺さなかった十字軍」(142p)で登場する第6次十字軍を率いた神聖ローマ帝国皇帝フリードリッヒ2世です。フリードリッヒはなんと外交交渉だけでキリスト教の三大聖地(エルサレム、ナザレ、ベツレヘム)を獲得しました。しかし、イスラム教徒を1人も殺さなかったという理由で、ローマ法王はこの業績を認めなかったそうです。ドレがフリードリッヒを描かなかったのも同じ理由なのかもしれません。とはいえ、そのことを「愚行」と言って笑えるほど、私たちは成熟しているのかといえば、疑問が残ります。