すべての社員がイキイキ働くようになる」仕組みと研修を提供する人材育成社です。
20年近く前の話になりますが、私が講師を務めた某大手食品メーカーの管理職研修での話です。研修の冒頭に社長のあいさつがありました。「君たちはこれから苦労すると思うが、管理職として経営者の視点も身につけて乗り越えてほしい」・・・気持ちのこもった、とても良いメッセージが続きました。そして最後に「後進の育成も大切だ。部下は上司の背中を見て育つ。そのことを忘れないでほしい」と言いました。
私はそのとき「上司の背中を見て育つ」という言い方が「古臭い」と感じました。しかし考えてみると、決して悪くないとも思いました。「上司の背中を見ろ」とは、分かりやすく言えば「上司の仕事振りや立ち振る舞いをよく観察して学習しなさい」ということです。
さて、管理職研修では部下を指導・育成する上で必要になる考え方や技術を学んでもらいました。心理学に基づいた対人関係の分析から、「ほめる・しかる」ときの態度や言葉使いの練習まで、かなりボリュームのあるプログラムをこなしました。
また、研修中に「あなたの考える”上司の背中”とはなにかを説明をしてください」というお題でグループディスカッションをしてもらいました。
・上司らしい言動
・確実に仕事をこなす様子
・間違ったときに責任をとる態度
・etc
他にもいろいろとありましたが「いかにも」といった抽象的な言葉が並びました。その後、「ではあなたの部下を誰でも良いので1人思い浮かべてください。いま発表してもらった言動や態度を示すだけで、その部下が確実に理解して成長すると思いますか?」と聞いてみたところ、ほぼ全員が首を横に振りました。
上司が立派に仕事をこなす様を見せるだけでは部下は成長しません。それは今も昔も変わりません。年配の管理職には「自分は先輩の背中を見て学んできた」と言う人が少なからずいます。それは今の若手社員より恵まれた環境にいたからです。
職場に上司や先輩が多くいた時代は学ぶチャンスがたくさんありました。先輩たちの仕事の進め方にも様々なバリエーションがあり、どのやり方が効果的か比較することができました。しかし、今は職場の機械化も進み人が少なくなっています。そのせいで管理職一人当たりの仕事の量はかなり増えました。それは若手社員も同じです。上司も部下も余裕がなくなっているのです。
「部下の学びを意識して」背中を見せる余裕のない上司。上司の背中を見る余裕のない部下。さらにリモートワークが広がるにつれ、状況はかなり難しくなっています。
では、上司は部下指導において具体的にどのような行動をとれば良いのでしょうか?グループで話し合ってもらいました。様々なアイデアや意見が出ましたが、いずれも要約すると(1)やるべきことを決め、(2)分かりやすい言葉で伝え、(3)部下の行動を観察して、(4)適切にフィードバックをする、という形になりました。「これはPDCA※そのものですね」と私が言うと、皆、ああそうか!とちょっと驚きながらも納得していました。
ここまで来るともはや社長が言っていた「上司の背中を部下に見せる」ことからかなり離れてしまいますが、今の時代にフィットした「背中を見せる部下指導」があらためて定義できたといえます。
古い考え方や習慣をむやみに守り続ける必要はありません。しかし、すべてを捨て去ってしまうよりは、その精神を受け継いで再構築する方が上手く行きます。
「全否定も全肯定もしない」⇒「皆で考える」⇒「そしてやってみる」・・・部下指導に限らず会社を成長させるために必要な原理原則ではないでしょうか。
※言うまでもなくPlan-Do-Check-Actですね。