「・・・マンガが他のジャンルと比べてすごいところは、マンガ家たちが、著作権とかオリジナリティーとかいうことを基本的に言わないっていう点なんです。ストーリパターンとか、キャラクター設定とか、コマ割りとか、吹き出しの使い方とか、顔の描き方とか、そういうマンガを描く技術はすべて『パブリックドメイン』なんだそうです。」これは哲学研究者の内田樹氏(うちだ たつる:神戸女学院大学名誉教授)のブログにある一文です。発言内容は京都精華大学の学長・竹宮惠子氏によるものです。
パブリックドメイン(public domain) とは、著作物や発明などの知的創作物について、知的財産権が発生していない状態又は消滅した状態のことです。一切の権利が消滅しているので、著作者の権利も存在しませんし、改変も流通も完全に自由です。
たしかに、マンガ家になろうとする人は、パブリックドメインである「マンガの技法」を習得することから始めるでしょう。ただし、ストーリーや絵自体が持つ創作性は著作権で守られていますから、描く技術があればマンガ家になれるというわけではありません。
とはいえ、ストーリーは簡単にコピーできてしまいます。マンガに限らず、小説やテレビドラマなどを見ると「どこかで聞いたような話だなあ」と思うことはよくあります。
しかし、マンガの場合は絵に個性が出ますので、真似ることでオリジナリティを損なってしまう可能性が高くなります。ところが、それを逆手にとってしまうことも可能なのがマンガの世界です。
上の画像は田中圭一氏のマンガの中の1ページですが、どう見ても手塚治虫先生の絵にしか見えません。
田中氏のオリジナリティは、手塚先生の絵を使うことによって生み出されています。絵は手塚治虫、内容は全くのギャグという高度な(?)組み合わせによって田中氏のマンガの面白さが成り立っています。パロディと言えばそれまでですが、ここまでしっかりと「手塚マンガの絵」を見せられると、かえって独創性の高さに感心してしまいます。
さて、企業研修やセミナーの世界はどうでしょうか。パブリックドメインは存在しています。しかし、講師と呼ばれる(自称する)人たちの多くは、先人たちの生み出した知識をそっくりそのまま真似て使うだけです。田中圭一氏のような高度な技術もなく、当然オリジナリティも無い人がほとんどです。
特に著名な講師の弟子のような人たちは、師匠が行う研修のコピーに終始しています。師匠の劣化版コピーのような講師ですから、当然研修料金は安く設定されています。研修を発注する側の企業の教育担当者も「XX先生の弟子なら、まあいいか。ギャラも安いし」となります。
かくして研修業界における講師の質は年々下がり続けています。グレシャムの法則を地でいっている業界かもしれません。
研修業界はマンガ業界よりもはるかに遅れているのです。
(人材育成社)