人材育成分野において「人材の型」は昔からよく使われています。まず、横軸が知識の幅を、縦軸が知識の深さを示す図を描きます。
I型人材は、縦に1本長い形をしています。ひとつの分野を深く掘り下げる専門家、スペシャリストのことです。
-型人材は、横に1本長い形です。広く浅い知識・スキルしか持っていませんが、異なる分野を知るゼネラリストです。
T型人材は、まさにT字のようにある分野の専門知識を持ちつつ、幅広い分野もそこそこカバーできる人材です。「これからの理想はT型人材だ!」という言葉を以前はよく耳にしました。
他にも「π(パイ)型人材」すなわち2つの専門分野を持つゼネラリスト、さらに「H型人材」という複数の専門分野を繋ぐコミュニケーションスキルに優れた人材型が登場してきました。
さらに、最近はハイブリッド型人材という「新種」が注目されています。ハイブリッド(hybrid)とは「種や品種が異なる生物から生まれた子孫」という意味です。ハイブリッド型人材とは、以前ならばそれぞれ異なる部署で求められていた2つ(以上)の能力を兼ね備えている人材のことだそうです。
実は私にもハイブリッド型とπ型やH型との違いがよくわからないのですが、「情報工学的技術と社会・経済活動における管理、政策提言力の両方を兼ね備えた人材」(日本ソフトウェア科学会2014年講演集)という表現からして、どうやら「異質なものの組み合わせ」がポイントのようです。
ビジネスにおける例を挙げるならば、「統計分析ができる営業パーソン」や「技術に詳しい人事部員」といったところでしょうか。このように説明すると「理系・文系の垣根を超えた人材のことですね」とおっしゃる方がいますが、意味が違いますのでご注意ください。
ハイブリッド型人材は一見優れた人材のようですが、本来の「ハイブリッド」の意味から考えると大いに疑問が湧きます。
ハイブリッドは「種や品種が異なる生物から生まれた子孫」ですから、人材も最初から「異なる専門知識を同時進行で身につけている」ことになります。おそらく、様々な知識を「融合」した教育をすることでそうした人材が育成できるということでしょう。実際、いくつかの大学では「融合」した学部が生まれています。
これは確かに魅力的な考え方ではありますが、「融合」を最初から意図して早いうちから人材を育てようとすることには賛成できません。
一つの専門分野を突き詰めていくとやがて限界が見えてきます。壁に突き当たるというイメージです。それを何とかして乗り越えようと試行錯誤することで新しい知見やイノベーションが生まれます。
はじめから「融合」した人材を育てようとすることは、「限界」や「壁」を避けて、あるいは無視して進む人間を生み出すことになるのではないでしょうか。
新しい知見やイノベーションは「融合」ではなく、異なる専門知識を持った多くの人々を「混合」することから生まれます。人材育成も同様です。その時に、どの人がどんな「型」なのかということはあまり大きな意味を持ちません。人それぞれです。とにかく多くの人が「混合」する場を作ること、それが優れた人材を生み出すために最も有効な方法です。
新しい人材の「型」を考えるのはもう止めましょう。