「99人以下の中小企業の社員が辞めずにイキイキ働くようになる」を実現する人材育成社です。
「うち(当社)もきちんとした人事評価制度を導入しようと考えています。上手くいけば、若手社員の退職者も減ると思います。」ある会社の社長さんの言葉です。
この会社は、急成長に伴って毎年新卒と中途を合わせて5~6人を採用しています。一方で、数年前から若手社員が何人か辞めています。退職の理由は様々でしたが、「なぜ自分はそのような(低い)評価なのか」という不満が共通してありました。
そこで、公平・公正な人事評価制度を作ろうと色々と検討した結果、行き着いたのがクラウドベースの人事評価システムの導入でした。
社長さんはその評価システムの「カタログ」を私に見せてこう言いました。
「このシステムにデータを入力すれば、後はAIがしっかりと公平な評価を下してくれます。どう思いますか?」
私はそのカタログの書かれている内容を見て驚きました。
冷静さ、誠実さ、几帳面さ、ストレス耐性、ビジネスマナー、思いやり、行動志向、自立志向、柔軟思考、素直さ、チャレンジ性、目標達成への執着、親密性、ユーモア、第一印象、プレゼンテーション力、傾聴力、新規開拓力、人脈、上司・先輩との関係、ムードメーカー性、チーム精神の発揮、政治力、情報の収集、情報の整理、情報の伝達、情報の活用と共有化、情報の発信、専門知識、文章力、計数処理能力、処理速度、計画性、業務企画力、視点の広さと深さ、アイデア思考、論理思考、状況分析、リスク管理、経営資源の活用、部下・後輩の指導や育成、経営幹部との関係、権限の委譲、システム管理力
こうした数多くの評価基準が「成績」「能力」「情意」という大項目にまとめられ、点数化されるのだそうです。
「社長さん、このデータは誰が入力するのですか?」私がたずねると、社長は少し困ったようにこう言いました。
「若手、中堅社員の上司である課長か部長です・・・いや、言いたいことはわかりますよ。もちろん全項目を使うわけじゃありません。大体15~20個くらいかな。」
「もしかして、管理職の方々にとって面倒な『部下の評価』という仕事を外部に丸投げしようとしていませんか?」
「いや、そんなことはありません。なにしろAIが公平・公正な判断をしてくれますから・・・」
そう言いながらも社長さんは少し不安そうでした。そして、私にこう言いました。
「実は人事部長からこのシステムを入れてくれと頼まれたのです。やはり無理があると思いますか?」
私は「はい。無理があります。まず入力項目が多すぎて、まっとうな判断ができません。適当に点数を付ければ矛盾した結果になります。」と言いました。
「ここにある評価項目は一般的に『良い』とさている特性を並べただけのものです。たとえば『冷静で几帳面だけどチャレンジ精神と行動力にあふている』人なんていると思いますか?ナンセンスです。」
社長さんはちょっとだけ安心したような顔になりました。
その後、システムの導入が中止になったことは言うまでもありません。