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最近、見聞きすることの多い「ジョブ型雇用」という言葉ですが、経済財政運営と改革の基本方針2020では「職務や勤務場所、勤務時間が限定された働き方を選択できる雇用形態」と定義されています。また、労働政策研究・研修機構の濱口桂一郎氏はジョブ型雇用について「会社をジョブ(職務)の束と考えて、ジョブごとにできる人を当てはめる。ジョブには職務内容や責任範囲を明確にしたジョブ・ディスクリプションが定められ、必要なスキルが明確になっている」こととしています。
新型コロナウイルスの感染拡大の影響によって「ジョブ型雇用」を導入する企業が増加していますが、その傾向は今後ますます進んでいくと考えられます。
しかし、ジョブ型雇用には企業と社員の双方にとって、様々なメリットと同時にデメリットもあるようです。
企業側のメリットとしては、あらかじめ勤務地や業務範囲を限定することで専門性の高い人材を採用することができます。また、社員の側には企業の主導により異動先が決まるようなことがなくなるため、自らキャリアを計画することができて専門性を高めることができるというメリットがあります。
一方、デメリットとしては、組織の業態が変化し社員の専門性を活かすことができなくなっても、簡単に社員を異動させることができなくなったりします。また、社員の側にとっても専門性を活かせる部署がなくなったりすると、退職せざるを得ないような事態に直面する可能性もあるのです。
しかし、私はジョブ型の個人のデメリットとしてもう1点、「プランドハプンスタン(Planned Happenstance)」のようなことが起こりにくいのではないかと考えています。プランドハプンスタンスとは、1999年にスタンフォード大学の教育学・心理学教授であるクランボルツ教授によって提唱されたキャリア形成に関する理論で、直訳すると「計画された偶発性」ということです。具体的には「自身のキャリアは予期せぬ偶然に因るところが大きかった」ということです。
たとえば、企画を希望して就職した人が自身の希望とは異なる営業の部署に配属され、当初は意気消沈していたものの徐々に営業の面白さに気づいて、現在は営業のコンサルティングとして仕事をしている。また、理系で研究職として入社した人が、自身の専門とは全く別の人事部に異動になり、そこで理系出身者ならではの統計や分析を駆使して、今後の年齢分布を考慮した採用人数の提案をするなどして活躍している人もいます。このように、もともと予想もしていなかった仕事で実績を残し、キャリアを築くことができたということです。
このような例は他にも枚挙にいとまがありません。しかし、ジョブ型雇用によってはじめから専門性を限定してしまうと、このように「思いがけず能力が開けた」というようなことがなくなってしまうのではないでしょうか。
今後、ジョブ型雇用をどれくらいの企業が導入し、そのことで日本の人事制度にどのような影響を与えるのか、今の時点で想定することは難しいです。しかし、従来型の人事制度のプラス面としてプランドハプンスタンスがあることを、改めて再認識しておくことも大切ではないかと考えているところです。