幽体離脱(ゆうたいりだつ)とは生きている人間の肉体から、意識が抜け出すという現象です。科学的に真偽のほどは定かではありませんので、表題はちょっと極端な「たとえ」だと思ってください。研修中の受講者は職場から物理的に離れた場所に集められていますが、意識は職場に置いてきたままという人が多いので、大げさに表現してみたわけです。
たとえば、問題解決研修では自分の普段の仕事を客観的に振り返ってみるのですが、これがなかなか難しいのです。講師が「こういう考え方で見てはいかがでしょう」とか「代替手段があるかどうか考えてみてください」と言うのですが、返ってくるのは「いや、そんなことはルール上できません」、「それではコストがかかり過ぎます」という答えです。ああ言えばこう言うという感じです。結局、受講者の頭の中にあるのは「現場を知らないくせに」というフレーズです。
せっかく研修という「非日常」の場にやって来た(連れてこられた)からには、意識も現場から引き離してほしいものです。講義中は「自分の意識を幽体離脱させて空中から普段の自分を見るつもりで考えてください」と言うと、「何を言っているんだ」「くだらない」という反応がほとんどですが、多少はイメージできる受講者もいるようです。
繰り返しますが、自分の業務を客観視することは難しいものです。ここである生産工程を考えてみます。毎日1,000個のパンを作ってお店に卸す製パン工場です。作業者は3人で、それぞれ材料仕入・在庫管理担当、パン生地(種)の製造担当、パン焼き・出荷担当です。
ある日、パン生地(種)の製造担当がコストダウンをするために、新型の機械を導入しました。そのため、作業時間は半分になり、生地の生産量は倍になりました。機械の減価償却費を算入しても1個当たりの原価は50%下がったとします。
・・・と、この話を聞いて「いやいや、後工程のパン焼き窯の処理能力が変わらなければ大量の仕掛品(パン生地)が滞留してしまい、結局コストアップになるのでは」、「それ以前に材料の仕入れ量をいきなり増やしても管理できるのだろうか?」と思われた方も多いでしょう。はい、そのとおりです。パン工場全体を客観的に考えてみれば誰でも気づくことでしょう。
多くの受講者はこうした「たとえ話」はすんなりわかるのですが、自分の仕事となると様々な事実(制約)が次から次へと頭に浮かんできて上手く行きません。もちろん個々の事実を無視して業務を進めることはできないでしょう。しかし、研修という現場から離脱した場にいる限り、意識も離脱してほしいのです。
おもしろいことに研修では案外、上記のパン工場の例のように極めて単純な事実に気がつくこともあります。ですから、研修の場に来たら是非「幽体離脱」をお願いします。
ただし研修中、特に午後一番で講師の話を聞いている最中に「幽体離脱」しそうになったら、立ち上がって体操をするなりしてリフレッシュしてください。