耳が飛び切りいいという人が世の中にはたくさんいる。音楽を聴いて、その中にどんな楽器の音が混ざっているのか聞き分けることができるという。鼻が利くという人が、流れてくる食事の香りを嗅いだだけで食材を感知してしまうのと同じようなものだ。
私が幼かった頃は自動車が走っていると言ってもまだ都会だけの話で、うちの近所ではかなり離れた所に走っていた国道とそれに繋がる支線が少し舗装されているだけだった。だから近所で見かけるのは荷車を引く耕運機ぐらいのもので、それもたまにがたがた行くだけ。耳を澄ませば聞こえてくるのは、木々のざわめきや鳥の鳴き声、遠くを走る列車の音など、かすかな物音ばかりだった。電気もガソリンも驚くほど使わずに生活していたのだ。だから街の光がない夜空と同じようなもので、かなり遠くの音を聞き分けることができた。
津波で何もかも流されてしまった被災地では、今何が聞こえるのだろうか。周囲に人がいなくなってしまった事故原発の周囲では、どんな音が聞こえるのだろうか。東北電力から引き込んだ電源ケーブルを使って真っ暗な施設の中で小さなライトを頼りに黙々とケーブル接続のための作業をしていた作業員は、響き渡る線量計の警報音をどのような思いで断ち切ったのだろうか。
ソフトウェア開発の仕事ではSIerなどと呼ばれる元請企業、例えばコンピュータメーカ系大手や商社系大手などが顧客企業の依頼を受けて大型のプロジェクトを受注し、いくつかの企業に下請けに出し、下請けされた企業はさらに細分化してそのまた下に発注する。このような下請け構造が出来上がっているために、ソフトウェア部品の多くは元請の企業とは縁もゆかりも無いような小さな企業の社員がお客様の要望である極端な精度と生産性に応えるべく必死に頑張って作っている。最近のシステムは大規模で複雑であるために、運用開始後、どこかをほんの少し修正しり、または関連するソフトウェアのバージョンアップをしてしまったために、思わぬトラブルになったりする。お客様からすれば当然元請企業の責任である。「動かないのは困る、すぐ直せ」というお客様の言葉に縮み上がって何をするかと言えば、問題を起こしている部分を担当していた下請け企業に電話するのである。そうして思わぬ形でエスカレートしながら伝言ゲームが続き、どこかのアパートで小さな子供と一緒に家族だんらんの夕飯を取っていた技術者の携帯が鳴る。「ごめん、仕事だ。すぐ帰るから」明るく、しかしちょっと顔を歪めてそう言い残して家を出る彼は、その後もしかしたら数日は家に帰れないかもしれないと考えている。現場に着くと船頭が多い。自分の会社の上司、発注企業の担当者とその上司、その企業への発注担当者とその上司、元請企業の担当者と偉い方々。たくさん人はいても、全体を把握して説明してくれる人はいない。必要な情報は自分で仕入れ、問題は自分で克服しなければならない。元請企業の担当者が、そばに来て細かく説明してくれることなどありえない。問題は大きく、上司への社内説明で大忙しなのだ。こちらから情報の提供を求めても、対応のアイデアを出しても何も取り合ってもらえない。今は下請けの下請けの下請けの一作業者の話など聞いている余裕が無い。
原子炉建屋に向けて消防車で放水した消防士に対してマスコミは英雄だと書き連ねた。しかし、高レベルの放射線を浴びてなお、電源復旧に駆り出される下請け企業の社員には、冷たいとさえ取れる扱いをした。故障だと思って線量計を切るなんて、なんて愚かなことだと言わんばかりの報道をした。事故当初東電から発注されて原発を作ったメーカーの社員が集められたという。しかし、集まって何をしたかは今回の事故で被曝したのが誰だったかを見ればすぐにわかる。本当にその現場を知っていて、即戦力として作業できる方々は、みな下請けの方々ばかりなのだ。彼らは、危険な状況で尻込みする発注元から元請に至る多くの伝言ゲーム担当者の姿を間近で見たことだろう。これだけ悲惨な災害が起き、多くの被災者が苦しんでいる今、臆病に何もできない人々を目の前にして、ここにいて日本を救える技術を持っているのは自分だけだとわかったら、あなたならどうするだろうか。静まり返って真っ暗なビルの地下で、線量計がうるさく鳴った時、尻餅をついて逃げ出すのか、線量計のスイッチを切って仕事に立ち向かうのか、どちらを取るだろう。彼らは後者を取った。もしかしたらその時誰かが誰かに言ったかもしれない。「故障だと思ったとかなんとか、後で聞かれたらそう言えばいいさ。さあ、やっつけちゃおうぜ」
monipet
動物病院の犬猫の見守りをサポート
病院を離れる夜間でも安心
ASSE/CORPA
センサー、IoT、ビッグデータを活用して新たな価値を創造
「できたらいいな」を「できる」に
OSGi対応 ECHONET Lite ミドルウェア
短納期HEMS開発をサポート!
GuruPlug
カードサイズ スマートサーバ
株式会社ジェイエスピー
横浜に拠点を置くソフトウェア開発・システム開発・
製品開発(monipet)、それに農業も手がけるIT企業
私が幼かった頃は自動車が走っていると言ってもまだ都会だけの話で、うちの近所ではかなり離れた所に走っていた国道とそれに繋がる支線が少し舗装されているだけだった。だから近所で見かけるのは荷車を引く耕運機ぐらいのもので、それもたまにがたがた行くだけ。耳を澄ませば聞こえてくるのは、木々のざわめきや鳥の鳴き声、遠くを走る列車の音など、かすかな物音ばかりだった。電気もガソリンも驚くほど使わずに生活していたのだ。だから街の光がない夜空と同じようなもので、かなり遠くの音を聞き分けることができた。
津波で何もかも流されてしまった被災地では、今何が聞こえるのだろうか。周囲に人がいなくなってしまった事故原発の周囲では、どんな音が聞こえるのだろうか。東北電力から引き込んだ電源ケーブルを使って真っ暗な施設の中で小さなライトを頼りに黙々とケーブル接続のための作業をしていた作業員は、響き渡る線量計の警報音をどのような思いで断ち切ったのだろうか。
ソフトウェア開発の仕事ではSIerなどと呼ばれる元請企業、例えばコンピュータメーカ系大手や商社系大手などが顧客企業の依頼を受けて大型のプロジェクトを受注し、いくつかの企業に下請けに出し、下請けされた企業はさらに細分化してそのまた下に発注する。このような下請け構造が出来上がっているために、ソフトウェア部品の多くは元請の企業とは縁もゆかりも無いような小さな企業の社員がお客様の要望である極端な精度と生産性に応えるべく必死に頑張って作っている。最近のシステムは大規模で複雑であるために、運用開始後、どこかをほんの少し修正しり、または関連するソフトウェアのバージョンアップをしてしまったために、思わぬトラブルになったりする。お客様からすれば当然元請企業の責任である。「動かないのは困る、すぐ直せ」というお客様の言葉に縮み上がって何をするかと言えば、問題を起こしている部分を担当していた下請け企業に電話するのである。そうして思わぬ形でエスカレートしながら伝言ゲームが続き、どこかのアパートで小さな子供と一緒に家族だんらんの夕飯を取っていた技術者の携帯が鳴る。「ごめん、仕事だ。すぐ帰るから」明るく、しかしちょっと顔を歪めてそう言い残して家を出る彼は、その後もしかしたら数日は家に帰れないかもしれないと考えている。現場に着くと船頭が多い。自分の会社の上司、発注企業の担当者とその上司、その企業への発注担当者とその上司、元請企業の担当者と偉い方々。たくさん人はいても、全体を把握して説明してくれる人はいない。必要な情報は自分で仕入れ、問題は自分で克服しなければならない。元請企業の担当者が、そばに来て細かく説明してくれることなどありえない。問題は大きく、上司への社内説明で大忙しなのだ。こちらから情報の提供を求めても、対応のアイデアを出しても何も取り合ってもらえない。今は下請けの下請けの下請けの一作業者の話など聞いている余裕が無い。
原子炉建屋に向けて消防車で放水した消防士に対してマスコミは英雄だと書き連ねた。しかし、高レベルの放射線を浴びてなお、電源復旧に駆り出される下請け企業の社員には、冷たいとさえ取れる扱いをした。故障だと思って線量計を切るなんて、なんて愚かなことだと言わんばかりの報道をした。事故当初東電から発注されて原発を作ったメーカーの社員が集められたという。しかし、集まって何をしたかは今回の事故で被曝したのが誰だったかを見ればすぐにわかる。本当にその現場を知っていて、即戦力として作業できる方々は、みな下請けの方々ばかりなのだ。彼らは、危険な状況で尻込みする発注元から元請に至る多くの伝言ゲーム担当者の姿を間近で見たことだろう。これだけ悲惨な災害が起き、多くの被災者が苦しんでいる今、臆病に何もできない人々を目の前にして、ここにいて日本を救える技術を持っているのは自分だけだとわかったら、あなたならどうするだろうか。静まり返って真っ暗なビルの地下で、線量計がうるさく鳴った時、尻餅をついて逃げ出すのか、線量計のスイッチを切って仕事に立ち向かうのか、どちらを取るだろう。彼らは後者を取った。もしかしたらその時誰かが誰かに言ったかもしれない。「故障だと思ったとかなんとか、後で聞かれたらそう言えばいいさ。さあ、やっつけちゃおうぜ」
monipet
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「できたらいいな」を「できる」に
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株式会社ジェイエスピー
横浜に拠点を置くソフトウェア開発・システム開発・
製品開発(monipet)、それに農業も手がけるIT企業