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ヤクルト

 インフルエンザの猛威はとどまることを知らない。学級閉鎖など驚くにあたらず、学校全体が休校となることさえも稀ではない。これだけ猖獗を極めると当然私の塾に通う生徒の中にもインフルエンザに罹ってしまった者が何人かいる。症状は意外と軽かった者もいれば、40度近くまで熱が出て苦しんだ者もいる。インフルエンザと診断されると治癒証明書をもらうまでには1週間はかかるから、その間学校にも塾にも行けない。ただただ全快を願って闘病生活を送らねばならないが、熱が冷めると手持ち無沙汰で退屈で仕方なかった、と快癒して久しぶりに塾にやってきた者たちは口をそろえる。しかし、インフルエンザと分かれば、少しでも他人にうつさぬようにするのが社会のルールだから、そうした軟禁状態に置かれるのは仕方のないことだろう。
 だが、時々そうしたルールを無視する者がいるから困ってしまう・・。
 先週の土曜日、迎えに行った女子高生がバスに乗った瞬間、
「ヤバイって。体はだるいし、咳は出るし・・」
と先に乗っていた友達に話しかけた。
「何だよ、インフルエンザかよ?」
と驚いた私が声をかけると
「違うよ、風邪だよ。マスクもしてきたし大丈夫だよ」
「本当に?君の学校は今インフルエンザがめちゃくちゃ流行っているんだろう・・」
「うん、周りの友達みんなインフルエンザ」
「・・・、じゃあ、君もインフルエンザにかかってるんじゃないのか」
「違うよ、多分。体の節々が痛くないから大丈夫」
どうにも信じられなかったが、バスに乗ってしまった以上、無下に追い返すこともできない。困ったなあ、と思いながらも塾に着いたらマスクをもう一枚渡して二重にさせて、一番前の席に座らせた。換気を良くするため、戸は開け放し、他の生徒全員にマスクを配ってから授業を始めた。女子生徒は何度も咳き込みながらも健気に勉強を続けている。しかし、他の生徒のことを思うといたたまれない気持ちになる。どこで感染したっておかしくない状況だとはいえ、誰しもインフルエンザには罹りたくない。体調が悪ければ塾に来ないように言っておかなかった私が悪いのだろうが、まさか誰が見てもインフルエンザを疑うような体調で塾にやって来る者がいるとは思わなかった。あらゆる場合を想定して危機管理を万全にするのが塾長の務めだから、意識が低いと言われたら返す言葉もない。自分の甘さを大いに反省していたら、なんだかあっという間に授業時間が終わってしまった。その生徒も少し落ち着いたのか、途中から咳もほとんどしなくなり、さほど気にならなくなったが、あまりいい気持ちはしなかった。
 帰りのバスに乗り込むと、その生徒が友達と並んで座っていた。
「離れて座ったほうがいいんじゃないの?」
と私が言うと、その友達が
「私なら大丈夫。毎日ヤクルト2本ずつ飲んでいるから」
「ヤクルト?」
「うん、ヤクルト飲んでるとインフルエンザに罹らないって」
「本当?誰が言ったの?」
「誰だか知らないけど、本当らしいよ」
俄かに信じられない話だったが、その子があまりに自身ありげだったので、家に戻ってから事情通の妻に尋ねてみた。
「そう言えばそんなこと聞いたことがあるなあ・・。ヤクルトの乳酸菌が腸を活性化させることで、免疫力を強めるとか何とか・・」
「ふ~ん、本当なのか・・・。じゃあ、しばらく飲んでみようかな、ヤクルト」
「うん、色々試してみるといいよね。インフルに罹ったら困るものね」

と言うわけで今我が家の冷蔵庫にはヤクルトが一週間分入っている。


どこまで効果があるのか分からないが、これだけインフルエンザのウィルスが蔓延っている状況では、いいと言われることはすべて試してみなくてはいけない。何せ、私が1週間寝込んでしまったら、塾生、特に受験を控えた生徒たちが困ってしまう。できる限りの方策は試し、万全に近い状態で毎日頑張っていかねばならないから、毎朝ヤクルトを一気飲みしようと思っている。
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