うたたね日記

アニヲタ管理人の日常を囁いております。

lipstick

2022年07月17日 21時04分52秒 | ノベルズ
薄く纏ったのはスモークローズ。
余分な油を軽く紙に吸い取らせ、これで完成。
コトリとルージュを置いて、ドレッサーの前から立ち上がった私に、メイドたちは<スッ>と頭を下げる。

一昔前は「まぁ、なんてお美しい!」だの「よくお似合いですよ、姫様。」だの、必死に褒めたたえ賛辞を惜しみなく振りかけてきたのは、それだけ私がこうしたドレスに化粧という装いを嫌っていたからだ。人間、誰しも褒めれば多少は(そうだろうか?)と肯定的にとらえて気分も前向きになるものだが、私は徹底的に嫌っていた。
今思えば、本当に子供だった。女性らしい姿をすれば、男たちに舐められるといわんばかりに、正装でも私服でも、女性らしいものは身につけようとしなかった。
真に実力のある―――ラクスのような女性であれば、あんな風に柔らかく美しい姿でも、老若男女問わず安心してついて行けるに違いなかったが、私はまだ若輩だ。本能的にそれを知っていたから、口に出す以前に、そう思わなくても、あくまで男装を意識していたんだと思う。
そいうえばかつて

(―――「ドレスは持ってきたか? 演出も必要なんだよ…」)

そう耳元で囁いた男がいたな。
あの時は「必要ない」と切って捨てたが。
何しろプラント最高評議会議長との対談だったからな。「一国の代表として舐められちゃいけない!」とドレスなんて着たらそれこそ子ども扱いされると、完全否定していた。それでも議長には「姫」呼ばわりされていたがな。

サテンの生地のドレスが<サラサラ>と心地よい衣擦れの音を立てて、私の歩みのBGMを彩る。
ドアが開いて、目の前には―――そう、かつてあの日「演出」と諭した男が立っていた。
「お待ちしておりました、代表。それでは参りましょうか?」
「あぁ」
恭しく差し出されたその手は、あの日よりもっと大きく広くなっていて。
その手をためらうことなくとって、私は姿勢を正して一歩踏み出した。

***

地球国家間代表会議―――
そのレセプションの会場に一歩踏み入る前から、広間からは感嘆の囁きがここまで聞こえてきた。
「…すっかりお美しくなられましたな、アスハ代表は…」
「しかも、亡き御父上顔負けの手腕も見受けられるとか。」
「プラントのクライン代表と並んでも見劣りしませんな。いや、ナチュラルであの美しさなら、天性のものかと。」
それこそ一昔前の私なら、顔を赤くして「そんなことはない!」と食って掛かったに違いない。
でも今は表情一つ変えず、進み出でるまでになった。

何時からだろう…そんな賛辞が聞こえるようになったのは。
(…『これ』か…)
ロンググローブの指先で、触れるか触れないかの辺りで、そっと輪郭をなぞった。
私の唇を色濃く演出してくれる口紅。
最初は嫌々だったが、たった一本、それを付けただけで、鏡を見た私には十分に驚きだった。
無論、ユウナとの結婚式で無理やりつけられたピンクの口紅。周りは称賛するほど私は鏡を見たくなかった。幼い私には不釣り合いな濃い化粧。あの時のトラウマもあって、「二度と化粧なんかするものか!」と半ば意地になっていたかもしれない。
しかし、改めてこうして口紅を引き直してみると、確実に私に対する視線が変わった。

そう―――口紅は「大人の武器」

周囲の…ことに男たちは、敬意を持って私に対するようになり、「大人の女性」として扱うようになった。

そしてもう一つ―――口紅は「男にある程度の距離を取らせる」

こうした場所に集まる者たちは、何処も格式の高い、あるいはマナーを弁えた者たちだから、必要以上の接触はしてこない。
無理に近づけば―――私の口紅が彼らの衣装に付く。
そうして下心のあるやつは、見事に私のマークがついて、マナーの無い…あるいは「敵」として認定され、二度とこのような場所に現れることはできなくなる。
そう、特にこの男に「敵」として認定されれば、もはや命は握られたようなものだ。

「いかがされましたか?代表。」
私が含み笑いをしたせいか、そういって翡翠が不思議そうに私の顔を覗き込む。が、
「いいや、何でもない。ちょっと昔を思い出してな。」

軽く視線で往なし、私はそのまま広間の中央―――私の舞台へと躍り出た。

***

「はー、疲れた。」
用意されたホテルの一室で、ハイヒールを脱ぐなりキングサイズのベッドに身を放り投げた私に、アスランが苦笑する。
「ほら、そんな風にしたらドレスが皴になる。せめてシャワーを浴びてからにしたらどうだ?」
この男は私の衣装を賛辞しない。寧ろ最近はマーナ以上に世話を焼いてくれるので、賛辞より説教の方が多い。これも以前の私だったら五月蠅がっていただろうけれど。
「クス…」
「?なんだ?」
「いや、安心できるな、って。」
「はぁ?」
「いや、気にするな。何でもない。」
私は手を広げて止める。そう、こうして私のすることに、説教を垂れてくれるのは今やアスランくらいだ。それが凄く安心する。
こうした日常があることが幸せだと、つくづく感じているのに…だがアスランは眉を顰める。
「『安心』か…俺は安心できなかったが。」
「何でだ?」
これまで歩んできた私たちの関係からいって、今までにないほど近しい距離感だと思っていたのは私の思い込みか、と一瞬不安がよぎったが、アスランは仏頂面で備え付けのピッチャーから水を汲み、一口二口と喉に流してこういった。
「以前から気にはなっていたんだが、最近君の周りにたかってくる男どもが遠慮が無さすぎる。「我先に」とばかりに君に近づいて…」
「そりゃ、オーブやモルゲンレーテとお近づきになれば、国益にもつながるから、必死なんだろう。パイプつくりに。」
「いや、それだけじゃない。」
グラスをいささか乱暴にワゴンにたたきつけると、アスランは不満を顔じゅうに張り付けた。
「あの『スカンジナビア王国』の第一王子。「君を離さない」とばかりにずっと張り付いていたじゃないか。あと赤道連合の代表も。君の腕を取ろうとしてばかりで、何度俺が割って入ろうとしたことか。」
「あ~お前、酔っていないか? あそこで出ていたお酒、結構飲んでいたじゃないか。お前にしては珍しく。」
「何とか気を紛らわそうとしていたんだ。無理に止めれば国同士の問題に発展しかねない。だからこっちも必死だったんだ。」
アスランにしては珍しい。でも心配をかけたなら安心させてやらなきゃな。
「大丈夫だって。何しろ私は今夜は目立つ口紅を引いていたからな。」
「口紅?」
「あぁ、口紅効果は結構あるんだぞ? これ一つで大人の女性としての貫禄も出てくるから、子ども扱いされない。お前が昔「こういった演出も必要なんだよ」って言ったとおりだ。それに―――」
私は小指でそっと唇の端を拭う。そして小指の先をアスランに向けた。
「こんなに濃い色の口紅が、近づいてきた男の服についてみろ。奥方は怒るだろうし、服の手入れをする執事たちから不信の目で見られる。「そんなリスクを負ってでも、私に近づきたいか?」と私自身が宣戦布告しているんだ。だから距離はこれ以上詰めてこないさ。」
私は得意気に視線を流す。が、何故かアスランは不服そうだ。
「…君はまだわかっていないようだな。」
ため息を零すアスランに、私は怪訝になる。
「何だよ?私の理論を否定する気か?」
「いや、そうじゃない。ただ君は口紅の大きな効果を知らないから。」
「はぁ?これ以上、何があるって…」
「聞きたいか?」
「うん。」
「後悔しても知らないぞ?」
「うん。…は?後悔?」
キョトンとしたままの私にアスランが近づいてくる。そして―――
「ンーーー!」
頭を引き寄せられたかと思うと、そのまま口づけられた。
(!?!?)
時間にして数秒…いや、数十秒だろうか。
「ぷはっ」
ようやく解放された唇を拭う。すると、アスランの唇にも見事に私の口紅の後が残された。
「い、いきなり何するんだよ!?///」
驚きと、戸惑いで頭がパニックになる。しかし、アスランは自分の唇についた私の口紅を、どこか嬉しそうに拭いながら―――自分の服で拭い取った。
「お前、そんなことしたら服が―――」
「いいんだ。これで。さっきカガリは言っただろう?口紅が付くほど近い距離にいるって…つまり俺が君の一番近くに―――君の所有物だと宣言しているようなものだ。それに…」
アスランの指がそっと私に触れ、頬をなぞり、そして口紅を拭う。
「君は分かっていない。…口紅で大人の女と認める代わりに、どれだけの男の心を鷲掴みにしているのかを。だから―――」
私から拭い取った口紅を、また遠慮なく今度は自分の首筋で拭い取る。そして私の両手を取って、そのまま押し倒された。
「アスラン///」
「一番近くで俺を誘惑し続けていた君の負けだ。責任取ってもらうよ。」
そう告げて近づいてくる翡翠の中に映る私は、口紅もない、いつもの私。
(口紅、関係ないじゃないか…)
そう、不服を申し立てたのは一瞬の理性だけ。
再び唇を覆われて、口内を責め立てられる。その度に私の背筋がビクンと跳ねあがってしまう。
「今度は君に、俺の所有の証を刻むから…」
首筋に零れ落ちる熱い吐息―――

そのまま目を閉じて身を任せる私に、サテンの衣擦れの音だけが耳に届いていた。


・・・Fin.


***


こんばんは。萌えが暴走しているかもしたです。
昨日大阪のイベントで、参加された方々の情報によりますと、福田監督が劇場版SEEDに関して「カガリが口紅付けたらいい感じになったので、他の女性キャラも付ける、という話でスタッフで盛り上がった」みたいなことを話していたらしいです。
ツイッターでイベントに参加された方からの情報を見て、もう興奮冷めやらず!(笑)\(≧▽≦)/♥
姫様が口紅塗って大人っぽくなったなら、アスランとの関係も大人なものに…?♥と馬鹿な妄想(/ω\)イヤンを繰り広げてしまい、興奮を抑えるために(苦笑)駄文書きなぐったらようやく落ち着きました♥( ̄▽ ̄) とりあえず、出来不出来はどうであろうと、書いたら一回落ち着けるから、あくまで自分の精神衛生のためにです。でなければ書かない。
―――というのも、腱鞘炎だった左手首が今までなかった感覚が生じてまして。左手の薬指と小指がなんか感覚が鈍いんですよ。お鍋とか持っても力が入らなくって、落としそうになるくらい。なので昨日病院に行ったんですが、そうしたら「腱もですが、手根骨の軟骨にひびが入ってますね」となΣ(・ω・ノ)ノ! 2,3週間安静にしていれば治るそうですが、そのために左手首固定するため、もう包帯グルグル巻きさ┐(´∀`)┌ヤレヤレ 家事ができないのも大変ですが、介護で父ちゃん支えるの、どうしても必要なので、滑り止めとかいっぱい買ってきて、足元注意するようにして、なんとかその場しのぎですけど対策して。もう大変💧
で、正直PCも叩けないのですが、先生曰く「大事にし過ぎて動かさないでいると、今度は筋肉が落ちてリハビリしなきゃならないので、『手首は動かさず、指先だけ動かすのはOK』」というご指示の元、手首動かさずにこうして打ち込みできました。
よかった。発散できて。ちょっとすっきりしました✨(´∀`*)ウフフ

コメント
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