自分の周りの空を写します
北東気流の街に生まれて
童話を書きました
よろしかったら読んでみてください。
感想もいただけたらうれしいです。
蓮(はす)の花
トムはいつも一人でいるのが好きだった。
家の近くの池まで散歩するのが好きだった。
ある日いつものように池まで行き、ぼーっと池をながめていた。
するとおじいさんがトムに話しかけてきた。
「坊や。君は毎日この池に来ているので、ひとついい事を教えてあげよう」
そう言って、今までトムが行ったことがない池の奥の方まで二人で歩いて行った。
そして奥の方に生えている大きい蓮を指さして
「いいかい坊や。この大きい葉っぱの蓮は八十年に一度、一日だけ大きなピンクの花を咲かせるんだ」
「君ぐらいの年の頃、わしはあの蓮が大きなピンク色をした花を咲かせたのを見たんだ」「甘い香りがして大きい花に包まれている気分がして、とても幸せだった」「わしはもう若くない。もう一度あの花を見たいが、それはかなわない夢だ」「もし坊やが覚えていたら、ここに来て、この蓮の花を見るがよい」
トムがその蓮をながめていたら老人はいつの間にか見えなくなっていた。
それ以来トムはその蓮の花を見ようと、毎日池の奥に来てその蓮をながめていた。
「いつ咲くのだろう」「どんな花なのだろう」
冷たい雨の日もカサをさして見に来た。
日差しが強い日も大汗をかきながらいつ咲くか見ていた。
そして冬が過ぎ、夏が来て、また寒い冬が来た。
そして暖かい春の日差しがまぶしい、
そんな日に池に来たら、その蓮がつぼみを付けていた。
その日以来、毎日朝起きて見に来て。昼にも来て、夕方に来て、
いつ咲くかほんの一日だけの日を思い浮かべていた。
雨の日に見に来たら、ぬれたままで着替えなかったのでトムはカゼをひいてしまった。
お医者さんから「すぐ治るので家の中で寝ていなさい」と言われて家にいた。
3日後に熱が下がり、いそいで池の蓮を見に行った。
すると池の蓮の花は咲き終っていて大きなしなびた花びらが残っていただけだった。
トムは家から出なかったことをくやんだ。何で無理してでもあの蓮の花を見に行かなかったんだ。
トムは悔しかった。もう外になんか出ない。もう蓮の花は見られないんだ。
トムはこころを閉じてじっと部屋に居て何も考えたくなかった。もうどうせ蓮の花は見られないんだから。
ひと冬の間、トムは池に行かなかった。行くと蓮の花が見られなかったことを思い出すからと。
トムには何も楽しみが無くなってしまった。
春になり明るい日差しが窓から入るようになった。
トムはいつもの様に何もしたくなくただ部屋のイスに一日中座っていた。
その日もいつものようにただイスに座っていた。
でも、ふとトムは外に出かけてみたくなった。もしかしたらあの蓮のピンクの花が咲いているかもしれない。
トムは息を切らして蓮のある池の奥まで必死に走って行った。でも花は咲いていなかった。
トムはがっかりした。
僕はもうピンクのとても大きい花は見れないんだ。トムは池の水面に写る表情の無い自分の顔を見つめた。
するとそこに、トムに蓮の花のことを教えた老人が来た。「探すのだ。探し続ければ、きっと見つかる」
トムは池の蓮を眺めていた。その間に老人は居なくなった。
「そうなんだ。探さなければ見つけられないんだ。また探してみよう」
その日からトムは隣の池にも行って蓮を探した。
夏になり汗をかきながら一生懸命に探した。
するとトムと同じぐらいの年の少年が池の奥まで来ては一生懸命探し歩いていた。
その少年がトムに気がついた。そしてトムに話かけてきた。
「ピンク色の大きい花が咲くという蓮を知りませんか」と言った。
それからは二人で毎日2つの池の周りを探しながら歩いた。
いろいろな話をしながらいつかそのピンクの大きな蓮の花を見たいねと話した。
いつかきっと二人で大きな蓮の花を見るんだ。
二人がその大きな蓮の花に包まれるのを夢見ている。
二人はお互いに信じていた。
そしてトムはふと気がついた。
僕にとても大切な友達が出来たんだと。
蓮の花を探し続けているから大切な友達ができたんだと。
それは大きな蓮の花よりもさらに大きい大きいきれいな温かい花なのだと思った。
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