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東京「昭和な」百物語<その41>切符

2018-06-19 02:06:18 | 東京「昔むかしの」百物語
切符というものがあった。

もっとも典型的な切符は、国電の乗車券だった。丈夫な厚紙でできた切符に、各駅の改札口で切符を切る専門の駅員が待機し、ハサミを入れる。

ハサミと言っても、いまの髪切り鋏やキッチン鋏のようなモノではなく、どちらかと言えば工具の小型ペンチに近い形状で、切符の一部を型抜きするようにカットした。

駅員はそれぞれのリズムに合わせて、ハサミをカチカチと軽快に鳴らしながら入場者の切符を切っていく。

と同時に、退場者の切符を目視で確認し、正当な切符かどうかを瞬時に判断するという、名人芸の持ち主ばかりだった。

電車の乗車券ばかりでなく、切符はいたるところに存在した。映画館、遊園地、食堂、観光地、名所旧跡、動・植物園……。

切符は、万能だった。

今のような改札システムは、オムロンという体温計なんぞを作っている会社が、昭和40年代には作り上げていたそうだ。

正直、余計なことを……と思ったりもした。人が介在しない何事も、いずれ破綻するとボクは思っているから 。

だが、昭和は遠くなりにけり、だ。

AIという化け物じみた存在が何事かを支配する時代は、すぐそこまで来ている。

切符は、ひょっとすると、アナログの世界を思い出させる最後のアイテムだったのかもしれない。