むかし昔ある村に、ねずみの親子が住んでいた。
なに不自由なく、それはそれは幸せだった。
その村は、なかなかに豊かな村で、たくさんの村人が皆で助け合いながら、暮らしていた。
村人は犬や猫といった家畜だけでなく、熊や鹿、猪や猿といった野生の動物も大事にしていたし、普通なら忌み嫌われるねずみやヘビ、イタチのような害獣でも、自由に暮らすことを許していた。
それがもう何十年も前のことになるが、突然、村人が消えてしまった。
なぜだかわからないが、村人がひとりもいなくなった。
さあ、残された動物たちは何が起こったか誰もわからず、家畜として優雅に暮らしていた犬も猫も、害獣たちでさえ、その日の暮らしにも困る有様になってしまった。
野生の動物たちも、村人がいなくなると同じ頃に、野山にたっぷりあった木の実や野いちごなどが急に減り始め、やっぱりその日の暮らしにも困ることになってしまった。
そして恐ろしいことに、まるでなにかの病気にでも罹ったように、次々と仲間が死んでいった。
村の一番大きな屋敷に住み着いていたのが、父親のチュウ蔵、母親のチュウ美、長男のチュウ太郎、次男のチュウ次郎、三男チュウ三郎の、一家五匹のねずみの親子だった。
そして、一家は渡り鳥の雁の鶴男から恐ろしい噂話を聞かされたんだ。
「禍々しいもの」が、村からさほど遠くない場所にあって、目に見えない毒を吐き散らしているのだと。それは「294魔」と呼ばれているのだと。そのせいで、村人は去り、動物たちが次々に死の病に倒れているのだと。
それさへ追い出すことができれば、また村人が戻ってきて、豊かな村に戻るに違いない。チュウ蔵一家はそう考えた。
村からさほど遠くないと言っても、空を飛べる鶴男の話だから、実際はなかなかに遠そうだったが、チュウ蔵一家は、その「禍々しい」ものを退治することにした。
そうでなければ、誰一人、幸せになれそうもない気がしたから。
母親のチュウ美を残して、チュウ蔵親子四匹は、鶴男に教えられた通りの方角へ、悪戦苦闘、艱難辛苦、遠路遥遥、必死の思いで「294魔」に辿りついた。
確かに「294魔」は、禍々しかった。荒れた海を背景に、これ以上ないほどに荒れ果てた、魔物の栖としか思えない場所だった。
だが、そこにはなぜか人の姿をしてはいるが、顔のないまるで幽鬼のような白いモノが蠢いていた。
チュウ蔵親子は、作戦を練った。だが、なにをすればいいのか皆目見当もつかなかった。だが、この親子は勇気だけはあった。
とにかく、潜り込めるところに潜り込むことにした。それが習い性のようなものだから。
だが、それは無謀なことだった。
それでもチュウ蔵親子は、手分けして潜り込めるところを探し、次々に潜り込んでいった。
そして。
ついに誰一匹も戻ってこなかった。
チュウ蔵は「冷却装置の配電盤」とやらのあたりで、感電死した。チュウ太郎も「燃料プールの変圧器端子部」とやらのあたりで、黒焦げになった。
チュウ次郎とチュウ三郎は「屋外にある変圧器の内部」とやらで、やはり感電死。
人の姿をしてはいるが、顔のないまるで幽鬼のようなモノが、チュウ蔵親子の死骸を次々に見つけ、右往左往していたが、「このねずみのせいで『294魔』様は、より禍々しくなり申した」と大声で嬉しそうに喚いていた。
チュウ美は夫と子どもたちの身を案じながら、いつまでも待ち続けていたが、ある日、村一番の大きな屋敷の土蔵の天井裏のポッカリと空いた窓から、教えられていた「294魔」の方角を見ながら、命が尽きた。
その背中には、大きなコブがあったとさ。
……あ~あ、辛い話になっちゃった。
なに不自由なく、それはそれは幸せだった。
その村は、なかなかに豊かな村で、たくさんの村人が皆で助け合いながら、暮らしていた。
村人は犬や猫といった家畜だけでなく、熊や鹿、猪や猿といった野生の動物も大事にしていたし、普通なら忌み嫌われるねずみやヘビ、イタチのような害獣でも、自由に暮らすことを許していた。
それがもう何十年も前のことになるが、突然、村人が消えてしまった。
なぜだかわからないが、村人がひとりもいなくなった。
さあ、残された動物たちは何が起こったか誰もわからず、家畜として優雅に暮らしていた犬も猫も、害獣たちでさえ、その日の暮らしにも困る有様になってしまった。
野生の動物たちも、村人がいなくなると同じ頃に、野山にたっぷりあった木の実や野いちごなどが急に減り始め、やっぱりその日の暮らしにも困ることになってしまった。
そして恐ろしいことに、まるでなにかの病気にでも罹ったように、次々と仲間が死んでいった。
村の一番大きな屋敷に住み着いていたのが、父親のチュウ蔵、母親のチュウ美、長男のチュウ太郎、次男のチュウ次郎、三男チュウ三郎の、一家五匹のねずみの親子だった。
そして、一家は渡り鳥の雁の鶴男から恐ろしい噂話を聞かされたんだ。
「禍々しいもの」が、村からさほど遠くない場所にあって、目に見えない毒を吐き散らしているのだと。それは「294魔」と呼ばれているのだと。そのせいで、村人は去り、動物たちが次々に死の病に倒れているのだと。
それさへ追い出すことができれば、また村人が戻ってきて、豊かな村に戻るに違いない。チュウ蔵一家はそう考えた。
村からさほど遠くないと言っても、空を飛べる鶴男の話だから、実際はなかなかに遠そうだったが、チュウ蔵一家は、その「禍々しい」ものを退治することにした。
そうでなければ、誰一人、幸せになれそうもない気がしたから。
母親のチュウ美を残して、チュウ蔵親子四匹は、鶴男に教えられた通りの方角へ、悪戦苦闘、艱難辛苦、遠路遥遥、必死の思いで「294魔」に辿りついた。
確かに「294魔」は、禍々しかった。荒れた海を背景に、これ以上ないほどに荒れ果てた、魔物の栖としか思えない場所だった。
だが、そこにはなぜか人の姿をしてはいるが、顔のないまるで幽鬼のような白いモノが蠢いていた。
チュウ蔵親子は、作戦を練った。だが、なにをすればいいのか皆目見当もつかなかった。だが、この親子は勇気だけはあった。
とにかく、潜り込めるところに潜り込むことにした。それが習い性のようなものだから。
だが、それは無謀なことだった。
それでもチュウ蔵親子は、手分けして潜り込めるところを探し、次々に潜り込んでいった。
そして。
ついに誰一匹も戻ってこなかった。
チュウ蔵は「冷却装置の配電盤」とやらのあたりで、感電死した。チュウ太郎も「燃料プールの変圧器端子部」とやらのあたりで、黒焦げになった。
チュウ次郎とチュウ三郎は「屋外にある変圧器の内部」とやらで、やはり感電死。
人の姿をしてはいるが、顔のないまるで幽鬼のようなモノが、チュウ蔵親子の死骸を次々に見つけ、右往左往していたが、「このねずみのせいで『294魔』様は、より禍々しくなり申した」と大声で嬉しそうに喚いていた。
チュウ美は夫と子どもたちの身を案じながら、いつまでも待ち続けていたが、ある日、村一番の大きな屋敷の土蔵の天井裏のポッカリと空いた窓から、教えられていた「294魔」の方角を見ながら、命が尽きた。
その背中には、大きなコブがあったとさ。
……あ~あ、辛い話になっちゃった。
やめてけれ、やめてけれ、やめてけ~れ核核♪