く~にゃん雑記帳

音楽やスポーツの感動、愉快なお話などを綴ります。旅や花の写真、お祭り、ピーターラビットの「く~にゃん物語」などもあるよ。

<12人のチェロアンサンブル> 「セロ弾きのコーシュ(巧手) 爆弦」

2016年06月18日 | 音楽

【「ムジークフェストなら」恒例の人気演奏会、今年で3回目】

 11日開幕した「ムジークフェストなら2016」の一環として17日、奈良市学園前ホールで〝爆弦〟と銘打った「12人のチェロアンサンブル セロ弾きのコーシュ(巧手)」が開かれた。関西ゆかりの演奏家を中心に気鋭のチェリスト12人が結集したコンサートも今年で3回目。今やこの音楽の祭典の看板コンサートの1つになっており、この日も抽選に当たった多くのファンが会場を埋め尽くし、息の合ったチェロの響きに酔いしれた。

     

      

 1曲目は昨年も演奏したユリウス・クレンゲル作曲「12本のチェロの為の讃歌」。この後、メンバー12人の最年長で地元奈良の二名中学・奈良高校出身の西谷牧人(東京交響楽団首席チェロ奏者)がメンバーを1人1人紹介した。3年連続の出演は西谷をはじめ辻本玲、佐古健一、北口大輔(日本センチュリー交響楽団首席チェロ奏者)、福富祥子、高木俊彰、中西哲人、カザフスタン出身のアルトゥンベク・ダスタンの8人。若くして日本音楽コンクール・チェロ部門第1位に輝いた奈良出身の逸材、伊東裕はヨーロッパ滞在中のため今回はメンバーから外れた。昨年から2人が入れ替わり山口真由美と堀田祐司が新しく加わった。最年少は京都・堀川高校出身で東京芸術大学在学中の加藤菜生で、高木良(高木俊彰の弟)とともに昨年に続いて2回目。(写真は上段=左から西谷、辻本、佐古、北口、福富、高木俊彰、下段=中西、ダスタン、加藤、高木良、山口、堀田)

 前半の演奏曲目は4曲。クレンゲルの讃歌に続いてグリーグ作曲の組曲「ホルベアの時代」から「前奏曲」「ガボット」「リゴドン」を12人全員で演奏。続くフォーレ作曲「パヴァーヌ」とアストル・ピアソラ作曲「ル・グラン・タンゴ」はメンバーの1人、佐古が編曲したものを8人で演奏した。「パヴァーヌ」では叙情的な甘美な旋律を優美に奏で、「ル・グラン・タンゴ」では対照的にノック・ザ・ボディー奏法(胴を拳で叩く)も交えながら力強く歯切れのいい演奏を堪能させてくれた。

 休憩を挟んで後半最初の曲目は20世紀を代表する米国の現代クラシック作曲家、サミュエル・バーバーの「弦楽のためのアダージョ」。バーバー自身は意図していなかったそうだが、レクイエムのような旋律は葬送曲、鎮魂歌として度々演奏されたり映画などで使われたりしてきた。J.F.ケネディの葬儀、NY同時多発テロの慰霊祭、オリバー・ストーン監督の映画「プラトーン」……。チェロの深い音色によって、この名曲の素晴らしさも一層引き立つ。2曲目はヴィラ=ロボス作曲「ブラジル風バッハ第1番」。第9番まである中でチェロアンサンブルのみの編成で書かれたのはこの第1番だけで、名チェロ奏者パブロ・カザルスに献呈された。アンコールは威勢のいい「八木節」に続いて、そのカザルスが編曲したスペインのカタルニア民謡「鳥の歌」だった。「私の故郷の鳥はピース(平和)、ピースとさえずる」。カザルス自身が晩年、NY国連本部でこう言って演奏したこの曲は、今や「12人のチェロアンサンブル」の演奏会を締めくくるテーマソングにもなっているようだ。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

<ムジークフェストなら2016> 「我が心のノスタルジア」

2016年06月15日 | 音楽

【「ヴァイオリンで奏でる名曲の調べ」と「甦る昭和の名曲集」】

 奈良の梅雨シーズン恒例の音楽の祭典「ムジークフェストなら」が今年も6月11~26日の会期で始まった。2012年にスタートし5年目。今年はジャズシンガー阿川泰子さんやトランペット奏者日野皓正さん出演の5周年記念コンサート(17日、唐招提寺)やフランス国立リヨン管弦楽団の演奏会(25日、奈良県文化会館)をはじめ、県内各地で連日多彩な音楽イベントが繰り広げられる。(ただ期待していた5周年記念コンサートが抽選で外れてしまったのが残念至極!)

      

 奈良県文化会館で14日開かれた「我が心のノスタルジア」と銘打った演奏会を聴いた。このコンサートは片山勲氏プロジュース・司会で、これまでも大阪府堺市などで毎年開いてきたという。「ムジークフェストなら」への出演は昨年に続き2回目。第1部が「ヴァイオリンで奏でる名曲の調べ」、第2部がクラシック声楽家による「甦る昭和の名曲集」の2部構成だった。

 第1部では奈良県出身のバイオリニスト金関環さんが登場、エレクトーンによる伴奏でアンコール曲も含め7曲を披露した。金関さんは高校卒業後渡米し、NYのジュリアード音楽院に入学。帰国後は内外で著名交響楽団と共演したりゲストコンサートマスターとして迎えられたりするなど、精力的に演奏活動を続けている。この日の演奏曲目は「荒城の月」「トロイメライ」「白鳥」「ライムライト」「エストレリータ」「アメージンググレイス」。馴染み深いクラシックの小曲に日本の愛唱歌や映画音楽などを織り交ぜ、繊細な表現力でバイオリンの伸びやかな響きを聴かせてくれた。アンコールはサラサーテの「チゴイネルワイゼン」だった。

 第2部の懐メロ特集にはソプラノの端山梨奈さんとテノールの山本欽也さんが、同じくエレクトーンの伴奏で交互に1曲ずつ、計10曲を披露した。端山さんは「ガード下の靴磨き」「ケセラセラ」「ボーイハント」「夜明けの歌」「愛燦燦」。最後の「愛燦燦」は昨年の好評を受けての選曲で、この日もブラボーの掛け声とともに万雷の拍手が送られた。山本さんは「かえり船」「夢淡き東京」「哀愁の街に霧が降る」「江梨子」そして「シクラメンのかほり」。クラシック歌手の張りのある格調高い歌唱は、岸洋子や美空ひばり、橋幸夫や布施明とはまた一味違う味わいがあった。

 第1部、第2部を通じ1人で伴奏をこなしたのはヤマハエレクトーンデモンストレーターの田頭裕子さん。「ステージア」というハイテクのエレクトーンで、両手による2段の鍵盤と足で踏むペダル鍵盤を自由に駆使し、時に壮大なオーケストラのような迫力のある演奏を聴かせてくれた。目を閉じていると、とても1人で奏でているとは思えないほどの見事な演奏。「ムジークフェストなら」のHPやちらしに出演者として田頭さんの名前は見当たらなかったが、この日の主役の一人だったと言っても過言ではない。「時々オーケストラと共演するけど、彼女の演奏のほうがいいなあ」。バイオリンの金関さんもお世辞半分だろうが、演奏後こう漏らしていたそうだ。

コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

<小林沙羅> 奈良で初のソプラノリサイタル

2016年02月23日 | 音楽

【今秋には万葉オペラ「遣唐使物語」にも出演】

 内外で活躍の場を広げる今注目のソプラノ小林沙羅さんのリサイタルが22日、奈良市のなら100年会館で開かれた。東京生まれで幼少時をドイツで過ごし、東京芸術大学・大学院卒業後はウィーンで研鑚。奈良に来たのはこの日が初めてという。小林さんが音楽活動の軸として掲げるのはドイツ歌曲、イタリアのオペラ・歌曲、日本歌曲の3つ。この日の公演もこの3本柱で構成したが、卓越した表現力、豊かな声量、伸びのある声質は期待を上回るものだった。

       

 小林さんは同会館で今秋開かれる万葉オペラ「遣唐使物語」(中村透作曲)にも出演する予定。リサイタル第1部の冒頭、原作・脚本を担当する万葉学者、上野誠・奈良大学教授が登場し、「美しい人・美しい声を聴く前にはまず私を見るという試練がある」といつものユーモアを交えながらオペラについて紹介した。小林さんには「名もなき人(遣唐使船で中国に渡った留学生や送り出した家族や恋人たち)を慰めてくれる鎮魂の歌を歌ってもらう」そうだ。

 第1部の前半は2014年発売のデビューアルバム「花のしらべ」にも収められているドイツ、イタリアの歌曲4曲。シューベルト「野ばら」とシューマン「君は花のよう」「春が来た」、そしてトスティの「バラ」。この後、ピアノ伴奏者森島英子さん(指揮者としても活躍)の独奏、モーツァルトの「幻想曲二短調」を挟んで、後半は歌劇のアリア3曲を披露した。モーツァルトの「フィガロの結婚」より「とうとう嬉しい時が来た」(通称「薔薇のアリア」)では日本語とイタリア語でスザンヌ役を表情豊かに熱唱。プッチーニの「ジャンニ・スキッキ」より「私のお父さん」とドヴォルザークの「ルサルカ」より「月に寄せる歌」では伸びやかな高音の美しさに魅了された。

 第2部は日本の歌曲で構成。「大好きな曲」という山田耕筰の「この道」と「からたちの花」に続いて、同じ詩に中田喜直と別宮貞夫の2人が別々に作曲した「さくら横ちょう」。小林さんは詩の朗読などにも取り組んでいるというだけあって、発音が美しく明瞭なため実に聴きやすく耳にすっと入ってくる。どの歌も情景が目に浮かんでくるようで、日本歌曲の魅力と神髄に改めて触れた思いがした。

 2部後半は橋本國彦の作品を4曲集めた。「お菓子と娘」に続いて「スキーの歌」と「お六娘」。この2曲を作詩したのは林柳波で、小林さんが「私のひいおじいちゃん(曽祖父)です」と紹介すると、ホール内に一瞬どよめきが起きた。最後の曲は「舞」。それまでは若草色や赤のドレス姿だったが、この曲ではあでやかな着物姿に。金地の扇を右手に軽やかな舞を披露しながら熱唱した。アンコールはシューマンの「献呈」と、小林さん自作の「えがおの花」。「♪けれど私は信じている 今日も種を植える いつか世界がえがおの花で あふれますように」。あっという間の2時間。終演後、小林さんのサインがもらえるという初アルバムの販売コーナーには男性を中心に長い行列ができていた。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

<奈良市・学園前ホール> 阿見真依子ピアノリサイタル

2016年02月21日 | 音楽

【ショパン「バラード1番」、ベートーヴェン「熱情」など熱演】

 奈良市西部会館市民ホール(学園前ホール)で20日、奈良県出身のピアニスト阿見真依子さんのピアノリサイタルが開かれた。東京芸術大学・大学院を卒業・修了し、第22回宝塚ベガ音楽コンクール(2010年)1位、第6回パナマ国際ピアノコンクール(14年)3位と入賞を重ね、日本ショパンピアノコンクール2015でも2位入賞。同ホールでのリサイタルは昨年に続き2回目で、ロマン派の作品を中心に表現力豊かな演奏を聴かせてくれた。

     

 第1部はバッハのコラール「主よ、人の望みの喜びよ」(マイラ・ヘス編曲)から始まった。次いでメンデルスゾーンの「無言歌集より〝春の歌〟」と「6つの前奏曲とフーガより第1番」。前奏曲では波が繰り返し打ち寄せるような左手のアルペジオと1音1音力強く刻む右手の主旋律がうまく調和して心地よく響き渡った。続いてショパンの作品4曲、「子犬のワルツ」「24の前奏曲より〝雨だれ〟」「バラード第1番」そして「英雄ポロネーズ」。

 「バラード第1番」はショパン20代前半の作品で、ショパンの作品の中でシューマンが最も好きな1曲として挙げたといわれる。フィギュアスケートの羽生結弦はこの曲を2014/15、15/16と2シーズン続けてショートプログラムに採用した。そして昨年11月のNHK杯と12月のグランプリファイナルで世界歴代最高得点を立て続けに更新したことで、この曲は日本人にとってクラシックファンならずとも馴染み深い1曲になった。阿見さんは10分近いこの大作を緊張感が途切れることなく時に叙情的に、時に情熱的に見事に弾ききった。

 休憩を挟んで第2部最初の曲目はシューマンの「アベッグ変奏曲」。作曲家に転向する以前ピアニストを目指していた頃の作品で作品番号は「Op.1」となっている。続いてシューマンが妻クララに結婚前夜プレゼントした歌曲をリストがピアノ版に編曲した「献呈」。妻への愛と幸せの絶頂期に作られた作品で、明るく伸びやかな演奏は聴き手までも幸福感で満たしてくれた。

  最後の曲目はベートーヴェンの3大ピアノソナタの1つといわれる第23番「熱情」。阿見さんは難聴が悪化する中でベートーヴェンが1802年に書いた遺書の内容や彼の不屈の精神を紹介した後で、雄大な交響曲のようなこの作品を最後まで力強く演奏して締めくくった。鳴り止まない拍手の中で演奏したアンコールはリストの「ラ・カンパネラ」だった。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

<ショパン・ピアノコンクール> 小林愛実(20歳)、ファイナル進出が決定! 

2015年10月17日 | 音楽

【8カ国から10人、米とカナダから各2人、韓国期待のソンジン・チョも】

 ポーランド・ワルシャワで開催中の第17回ショパン国際ピアノコンクールで、山口県宇部市出身の若手ピアニスト小林愛実(20)が見事にファイナリスト10人の中の1人に選ばれた。現地時間の16日深夜に発表があった。3日間にわたって行われたセミファイナル(第3次審査)の進出者12カ国20人が8カ国10人に絞られ、18~20日に行われる最終審査に臨む。優勝者をはじめ6人の入賞者は現地時間の20日深夜に発表される予定。(写真は小林さんのCD/DVDアルバム)

   

 日本人出場者は小林をはじめ有島京(23)、中川真耶加(21)、小野田有紗(19)、須藤梨菜(27)の5人が2次審査まで進んでいたが、3次に進出できたのは小林一人だけだった。5年前の第16回大会では2次で日本人全員が敗退していた。小林がピアノを始めたのは3歳のとき。母が小林の人見知りを直そうとピアノ教室に通わせ始めたという。鋭い感性に恵まれた小林はめきめきと腕を上げ、7歳のときに日本のオーケストラと共演デビューを果たした。その後、全日本学生音楽コンクールで史上最年少優勝、ショパン国際コンクールin Asiaで金賞を受賞。ショパン生誕200周年に当たる2010年にはショパンに関する芸術活動で世界の100人の芸術家に贈られる「ショパン・パスポート」をポーランド政府から授与された。現在は米国フィラデルフィアのカーティス音楽院に留学中。

 ファイナルに進出するのは米国とカナダから2人ずつ、そして日本、クロアチア、ラトビア、ポーランド、ロシア、韓国から1人ずつ。10人のうち女性は小林と米国のケイト・リュウ(21、シンガポール生まれ)の2人だけ。韓国のソンジン・チョ(21)は15歳の若さで浜松国際ピアノコンクールを制するなど日本でも知名度が高い。米国のエリック・ル(17)はまだ若いが予備予選免除だけあって実力は折り紙付き。ロシアのドミトリー・シシキン(23)も注目される。地元ポーランドからは15人が本選に出場していたが、ファイナルに残ったのはシモン・ネーリング(20)の1人だけだった。ポーランドと同じく本選最多出場国として注目された中国勢は結局1人も最終審査まで残ることができなかった。

 ファイナルの演奏曲目はショパンのピアノ協奏曲第1番または第2番。オーケストラはワルシャワ・フィル、指揮はヤツェク・カスプシク。最終審査の演奏は現地時間の18日午後6時にスタートする。小林は10人中、韓国、クロアチアのファイナリストに続いて3人目の登場が予定されている。ショパンコンクールでの日本人の最高順位は第8回(1970年)の内田光子の2位。第12回(1990年)には横山幸雄が3位に入賞している。4日後、小林の朗報を心から期待したい。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

<ロシア・ナショナル管弦楽団> 「ムジークフェストなら」の掉尾を飾る熱演

2015年06月29日 | 音楽

【チャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番(ピアノ牛田智大)、交響曲第5番…】

 奈良県内各地で約2週間にわたって繰り広げられてきた「ムジークフェストなら」最終日の28日、奈良県文化会館(奈良市)でロシア屈指のオーケストラといわれる「ロシア・ナショナル管弦楽団」の演奏会が開かれた。指揮は同管創立者で世界的なピアニストでもあるミハイル・プレトニョフ。若き俊英ピアニスト牛田智大との共演によるチャイコフスキーの「ピアノ協奏曲第1番」や「交響曲第5番」などを熱演、掉尾を飾るにふさわしい名演奏で締めくくった。

 同管を率いるプレトニョフ(写真㊧)はまだ21歳だった1978年、チャイコフスキー国際コンクール・ピアノ部門で金メダル・第1位を獲得し一躍脚光を浴びた。ロシア・ナショナル管弦楽団の誕生はソ連崩壊の前年1990年。国内のトップオーケストラから一流奏者を集め、ロシア史上で初めて国家から独立したオーケストラを創設した。長年温めていた夢が実現した背景にはその2年前、米国で開かれたサミット(先進国首脳会議)でのピアノ演奏を機に当時のゴルバチョフ大統領との親交が深まって自由な音楽活動が保証されたことによる。モスクワでの初演からほぼ半世紀、今や世界有数のオーケストラとして注目を集める。

  

 演奏会はチャイコフスキーの「弦楽セレナーデ第2楽章」から始まった。地元の「奈良県立ジュニアオーケストラ」の若いメンバー約30人も加わった総勢100人近い大編成で、プロ・アマが一体となって優美なワルツを奏でた。2曲目は世界的なトランペッター、セルゲイ・ナカリャコフ(写真㊥)を迎えてアルチュニアン作曲の「トランペット協奏曲」。アルチュニアン(1920~2012)はアルメニアの作曲家で、この協奏曲は代表作の1つ。ナカリャコフはNHK朝の連続テレビ小説「天うらら」のテーマ曲演奏などで日本でも広く知られる。その超絶技巧と透明感に満ちた音色はさすが、と思わせるものだった。アンコールのバッハ「G線上のアリア」ではトランペットの多様な表現力の一端も見せてくれた。

 3曲目の「ピアノ協奏曲第1番」では、小柄で細身の牛田智大(写真㊨)がピアノの前では実に堂々として大きく見えた。その演奏は力強く、かつ繊細で自信にあふれ、雄大で華麗なこの協奏曲の魅力を余すことなく披露してくれた。演奏後「ブラボー」が飛び交う中、近く席から「とても15歳とは思えないね」と知人に話し掛ける女性の声が聞こえてきた。アンコール曲はプーランク作曲「即興曲第15番 エディットピアフを讃えて」。牛田はこの後も名古屋国際音楽祭で7月11日この第1番を演奏するなど、ロシア・ナショナル管弦楽団と各地で共演の予定という。

 休憩を挟んで最後の4曲目は演奏時間約50分の「交響曲第5番」。約80人によるフル編成で、第1楽章は短調の暗く重苦しい旋律で始まり、第2、第3楽章と進むにつれ次第に明るく軽快に。そして最終章は全楽器による強奏で頂点を迎える。その高揚感の盛り上げ方は感動的でもあった。またチェロ9本、コントラバス7本の艶のある重厚な音色も印象に残った。アンコール曲はチャイコフスキーの劇付随音楽「雪娘」より「道化師の踊り」だった。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

<12人のチェロアンサンブル> 「セロ弾きのコーシュ(巧手)」

2015年06月28日 | 音楽

【ソプラノとの共演でヴィラ=ロボス「ブラジル風バッハ第5番」も】

 気鋭のチェリスト12人が一堂に会したコンサートが27日夕、奈良県文化会館(奈良市)で開かれた。題して「12人のチェロアンサンブル セロ弾きのコーシュ(巧手)」。地元奈良出身のチェリスト2人が加わっていることもあって、今年で4回目の「ムジークフェストなら」で今や最も人気の高いコンサートの1つ。演奏が終わるたびに会場の国際ホールを埋め尽くした熱心なファンから万雷の拍手が送られた。

 メンバー12人は昨年から3人が入れ替わった。新しく加わったのは加藤文枝・菜生姉妹と高木俊彰の弟、高木良。カザフスタン出身のアルトゥンベク・ダスタンを除く日本人11人のうち10人を東京芸術大学の卒業生や在学生たちで占める。最年長で奈良育ちの西谷牧人は東京交響楽団首席チェロ奏者で、東京芸大非常勤講師。伊東裕はその西谷の奈良高校、東京芸大の後輩。若くして日本音楽コンクール・チェロ部門第1位に輝いた逸材で、今春、東京芸大器楽科を首席で卒業し、大学院音楽研究科修士課程に進学したばかり。

 演奏曲目はアンコール2曲を含め全8曲で、曲目ごとに12人、8人と編成を変えた。17世紀後半にドイツを中心に活躍したダヴィッド・フンク作曲「ソナタ組曲」で開幕。2曲目のヴィラ=ロボス作曲「ブラジル風バッハ第5番」ではソプラノの浅井順子(のりこ)が加わった。9番まである「ブラジル風バッハ」の中でとりわけ有名なのがこの5番のアリア「カンティレーナ」。ヴォカリーズ(母音唱法)で始まる切々とした美しい主旋律を、浅井が強弱のめりはりの利いた豊かな声量で披露すると、チェロのソロを務めた伊藤裕も重厚な味わい深い音色で応えた。

 後半最初の2曲、アストル・ピアソラ作曲「ル・グラン・タンゴ」とフォーレ作曲「パヴァーヌ」はいずれもメンバーの1人、佐古健一の編曲。編曲のために3~4日徹夜したという。1曲目はその佐古と西谷の2人がソロを務め、リズミカルで力強い演奏を披露し、8人編成の2曲目では甘美なメロディーと弦をはじくピチカートの音色が心地よく融合した。続く「12本のチェロの為の讃歌」はあの斎藤秀雄がドイツ留学中に師事したというユリウス・クレンゲルの作曲。チェロの響きの美しさを改めて堪能させてくれる名演奏だった。

 後半最後のバッハ作曲「シャコンヌ ニ短調」(ラースロー・ヴァルガ編曲)はバイオリンの独奏曲として有名な作品。これを12本のチェロの合奏によって、1本のバイオリンとは一味違った魅力を引き出してくれた。アンコールはグリーグの「ホルベルク組曲のサラバンド」に続き、昨年もアンコールを飾ったパブロ・カザルス編曲によるスペイン・カタルニア民謡「鳥の歌」。カザルス自身が晩年、ニューヨークの国連本部で「私の故郷の鳥はピース(平和)、ピースとさえずるのです」と言って演奏したこの曲は、何度聴いても毎回胸に迫るものがある。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

<東大寺金鐘ホール> 奈良県スイスベルン州友好交流記念コンサート

2015年06月16日 | 音楽

【ジャズピアニストのロジェー・ワルッヒ氏、自作の『学園前』など12曲】

 映像作家の傍らジャズピアニストとしても活躍中のロジェー・ワルッヒさん(50、写真)のジャズピアノ演奏会が15日、奈良市の東大寺総合文化センター「金鐘ホール」で開かれた。13日開幕した「ムージックフェストなら」の一環で、題して「奈良県スイスベルン州友好交流記念コンサート」。スイスの首都ベルン市の旧市街は中世の町並みが残り世界文化遺産に登録されている。奈良県とベルン州はともに古都で観光地ということから今年4月、友好提携を結んだ。

     

 ワルッヒさんは1965年スイスのサンクト・ガレン市生まれ。1988年に初来日し、日本の文化や自然に魅了されて2年後に再来日、98年から日本に定住している。この間、奈良市の須山町で4カ月間ホームステイしたり、学園前の6畳一間のワンルームマンションで1年間過ごしたりしたことも。学園前の室内には調律師が倉庫代わりに置いていたグランドピアノがあり、その真下に布団を敷いて寝たそうだ。現在は奈良市に近接する京都府相楽郡在住。ワイフは奈良県出身の日本人女性。

 ジャズピアノは出身地の市立ジャズ学校で学んだ。95年に「スイスマルボロコンテスト」優勝という実績を持つ。来日後も2008年のファーストインパクト主催「第1回街のピアニスト・コンクール」でクリエイティブ賞を受賞するなど、その腕前は折り紙つき。この日のコンサートではユーモアたっぷりに曲やスイスのことなどを紹介しながら、自作の12曲を演奏した。

 その2曲目は学園前に住んでいた頃に作曲したもので、題名もずばり『Gakuenmae(学園前)』だった。その演奏の愉快なこと。演奏の合間に屋根(ふた)の開いたグランドピアノの中に、なんと20個ほどのピンポン玉を放り込んだ。すると、力強いタッチに合わせピンポン玉が弦の振動で踊るように高く低く跳ねていた。遊び心にあふれた演奏だった。

 ワルッヒさんは東日本大震災の直後、フランスとドイツのテレビ局のカメラマンとして東北を5~6回訪れた。「これまでの人生の中で一番大きな悲しみだった」と振り返る。5曲目に弾いた『Aftermath(アフターマス)』はその時の思いをもとに作った作品。曲名は「大災害の後」を意味する。静かに始まり、途中の激しい演奏を挟んで、また静かに終わる曲は鎮魂歌のように心に染みた。

 父親が亡くなった時に作曲した『Immortal Remains(イモータル・リメインズ)』や長男と長女の名前を付けた作品、先週作ったばかりでまだ無名の作品などの演奏もあった。ワルッヒさんはスイスの大使館・総領事館のイベントなどを中心に各地で演奏活動を続けており、今月21日には大阪市の旭区民センターで開かれる「音楽の祭日2015inあさひ」に出演するそうだ。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

<珠玉のフランス・オペラ> サン=サーンス「サムソンとデリラ」&ビゼー「カルメン」

2015年06月15日 | 音楽

【4年目の「ムジークフェストなら」開幕、28日まで、】 

 奈良の梅雨シーズンを彩る音楽の祭典「ムジークフェストなら2015」(13~28日)が開幕した。今年で4回目。14日には奈良県文化会館で「珠玉のフランス・オペラ」と題してサン=サーンスの『サムソンとデリラ』とビゼーの『カルメン』の演奏会が開かれた。管弦楽は大阪交響楽団、指揮・中田昌樹。声楽はメゾソプラノのマリアンヌ・デラカサグランド、テノールの後田翔平、バリトンの駒田敏章に、特別編成の合唱団(14人)が加わった。

 いずれのオペラも抜粋版の演奏会形式で原語上演・字幕付き。前半の『サムソンとデリラ』は通常約1時間50分の演奏時間が半分の55分だった。このオペラは旧約聖書に基づく物語。マリアンヌはよく通る深みのある響きで、怪力の英雄サムソンに敵対する異教の美女デリラ役をこなした。とりわけ「彼は私の奴隷」と歌うアリアや、「ああ、私の愛に応えて、私を酔わせて」とサムソンを誘う歌声は聴き応え十分だった。

 マリアンヌはフランスのパリ音楽院やCNIPAL(国立オペラ研修所)で学んだ後、国内外のオペラ公演などで活躍中。3年前には大阪いずみホールで同じデリラ役として出演したことも。後半の『カルメン』には真っ赤なロングドレスにショール姿で登場し、自由奔放に生きる妖艶な女性カルメンとしてアリアの「ハバネラ(恋は野の鳥)」などを披露した。

 テノール、バリトンの若手2人の豊かな声量や伸びやかな響きにも会場から温かい拍手と「ブラボー」の掛け声が送られた。テノールの後田は昨年1月の第44回イタリア声楽コンコルソ(日本イタリア協会主催)でミラノ大賞を受賞し、現在イタリアのパルマ国立音楽院に留学中。バリトン駒田は東京芸術大学大学院を修了し、昨年の第83回日本音楽コンクール声楽部門の第1位。2人ともその実力を遺憾なく発揮してくれた。今後の一層の活躍に期待したい。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

<ショパン国際ピアノコンクール> 事前審査スタート、日本勢25人参加

2015年04月15日 | 音楽

【秋の本審査に進めるのは何人? 前回は本選2次で全員敗退・入賞ゼロ】

 今年は5年に1度開かれる「ショパン国際ピアノコンクール」イヤー。1927年に始まったこのコンクールは今や世界的に最も権威のあるピアノコンクールといわれる。今年で17回目。13日からポーランド・ワルシャワで、まずビデオ審査で選ばれた27カ国・地域の160人が参加して事前審査が始まった。日本人の参加者は25人。審査は24日まで続く。日本人は果たして10月の本選に何人進出できるのだろうか。

 過去5大会の国別上位入賞者

第12回(1990年) ①なし ②米国 ③日本(横山幸雄)……⑤日本(高橋多佳子)

第13回(1995年) ①なし ②フランス、ロシア ③米国……⑤日本(宮谷理香)

第14回(2000年) ①中国 ②アルゼンチン ③ロシア……⑥日本(佐藤美香)

第15回(2005年) ①ポーランド ②なし ③韓国の2人 ④日本の2人(山本貴志と関本昌平)

第16回(2010年) ①ロシア ②ロシア/リトアニア、オーストリアの2人 ③ロシア

 本選出場者は160人の半数の80人と見込まれ、事前審査終了直後の今月25日に発表される。本選は10月17日のショパンの命日を挟んで約3週間にわたって繰り広げられる。1次~3次審査で80人が40人、20人、そしてファイナリストの10人に絞られていく。この間、出場者は1次と2次で各4曲、3次で3曲のショパンの作品を披露し、ファイナルではオーケストラとの共演でショパンのピアノ協奏曲第1番または第2番を弾く。もちろん全て暗譜。入賞は6位までで、1位には3万ユーロ(約400万円)の優勝賞金が贈られる(2位2万5000ユーロ、3位2万ユーロ)。

 日本人のこれまでの最高順位は第8回(1970年)に出場した内田光子の2位。その前の第7回(1965年)には中村紘子が4位、第11回(1985年)にも小山実稚恵が4位。第12回(1990年)には横山幸雄が3位に選ばれ、その後も毎回、日本人が入賞を重ねてきた。ところが5年前の前回は2次審査までで全員姿を消してしまった。

 前回の1次~3次審査は審査員12人による100点満点の得点制と次のステージに進ませたいかを問う「YES/NO」制の2本立て。日本人出場者は審査員の「YES」を多く獲得できなかったというわけだ。一方でロシア勢はファイナルに5人が進出し、上位をほぼ独占した。第13~15回に審査員を務めた中村紘子に続いて前回初めて審査員席に座った小山実稚恵は、日本人の演奏に「タッチが浅い印象を受けた」という。同時に「自分の個性に合った曲ではなく名曲を選んでしまいがち」と日本人出場者の選曲にも疑問を呈している。

 参加資格は1985~99年生まれ。今回、日本からはビデオ審査をパスした25人(うち21人が女性)が事前審査に臨む。最も多いのは中国の27人で、日本は2番目に多く、これに韓国の24人が続く。アジアの音楽大国3カ国に続いて地元ポーランド22人、ロシア11人、米国10人。2012年の第8回浜松国際ピアノコンクールで2位だった中桐望は事前審査免除で本選に出場できる7人のうちの1人に選ばれている。

 日本勢25人の中には5年前2次予選まで進んだ片田愛理や須藤梨菜も含まれる。片田は前回出場時、日本人最年少の17歳で、今春に東京音楽大学大学院に進学したばかり。小林愛実も注目の1人だ。若くして内外のオーケストラと共演したりピアノアルバムを発表したりするなど着実に実績を積み上げている。野上真梨子は昨春、桐朋学園大学音楽学部を首席で卒業した逸材。最年少は16歳の丸山凪乃で、高校生の古海行子や近藤愛花も挑戦する。

 日本人が初めてこのコンクールに参加したのは78年前の第3回(1937年)。〝伝説のピアニスト〟といわれる原智恵子だった。「結果が発表され、入賞者に原智恵子がいないことが分かると、人々は会場で審査員とホールがどうなることかと危ぶまれるほど暴れ出し、聴衆の1人としてその場に居合わせた富豪が、すばやくその場で不当な扱いを受けた東京の少女に<聴衆賞>を寄贈することで、やっと最悪の状況を回避し嵐が静められたほどだった」(『ものがたりショパン・コンクール』イェージー・ヴァルドルフ著、足達和子訳)。

 今年は4年に1度のチャイコフスキー国際コンクールも開かれる。会期は6月15日~7月3日。ピアノとバイオリン部門がモスクワで、チェロと声楽部門がサンクトペテルブルクで行われる。このコンクールでは第9回(1990年)にバイオリンの諏訪内晶子、第12回(2002年)にピアノの上原彩子が1位に輝いている。さて、今年はクラシック界にどんな新星が出現し、どんな伝説が生まれるのだろうか。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

<東京大学管弦楽団> 100人超の大編成でマーラー第5番を熱演!

2015年01月18日 | 音楽

【大阪のザ・シンフォニーホールで第100回記念定期演奏会】

 東京大学音楽部管弦楽団の「第100回記念定期演奏会」が17日、大阪市のザ・シンフォニーホールで開かれた。100回目という節目の演奏会に選んだ曲目はシューベルトの「ロザムンデ(魔法の竪琴)序曲」「交響曲第7番(未完成)」とマーラーの大曲「交響曲第5番」。管と弦が一体となって1つのものを作り上げていこうとする学生たちの熱気が充満し、力強く瑞々しい演奏にブラボーと拍手が鳴り止まなかった。1週間後の25日には東京・サントリーホールで同じ曲目が演奏される。

     

 指揮は常任指揮者の田代俊文(東京音楽大学指揮科准教授)。この日は阪神大震災20年目ということもあって、午後2時の開演に先立ち「1.17へ気持ちを込めて演奏します」との場内放送が流れた。「ロザムンデ序曲」に続いて「未完成」注目の冒頭部分。低弦チェロ、コントラバスの深い音色、さざ波のようなバイオリンのトレモノ、オーボエとクラリネットが奏でるふくよかな旋律。実に心地よい出だしで、かつ緊張感が漲った演奏だった。

 マーラー第5番は全5楽章の大規模編成の交響曲。演奏時間は優に1時間を超える。この日も弦だけで70人弱、管が約30人、それに打楽器やハープも加わって100人を超えた。一番の聴きどころは第4楽章「アダージェット」。ヴィスコンティ監督の仏伊合作映画「ベニスに死す」(1971年)で使われ、マーラーブームを呼び起こしたともいわれる。弦とハープが奏でる甘美な旋律にはただ酔いしれた。大編成による全奏者による総奏(トゥッティ)の醍醐味も味わうことができた。とりわけ弟5楽章終結部の演奏は迫力満点だった。

 東大管弦楽団が「学友会音楽部」として発足したのは1920年(大正9年)。その翌年に第1回定演を開いた。初代指揮者に迎えたのは「軍艦マーチ」の作曲で知られる海軍軍楽隊の瀬戸口藤吉だった。長い定演の歴史には往時の世相も映し出されている。1938~44年の定演では毎回冒頭に「君が代」や「海行くば」が演奏された。終戦後、定演が復活したのは10年後の1954年(第40回)。70~80年代にはマーラーブームを反映してマーラーの交響曲がしばしば演奏された。定演での第5番の演奏は76年(第61回)と85年(第70回)に続いて3回目。

 アンコール曲は同じマーラーの「花の章」だった。交響曲第1番(巨人)の中で第2楽章として演奏されることも多い。トランペットをはじめ管楽器のソロが奏でる旋律が伸びやかで美しい。余談だが、会場内の各トイレの手洗いの脇に、管弦楽団名に「演奏を楽しんでください」と添えて1輪の大きなバラの花が飾られていた。その気遣いもうれしかった。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

<BOOK> 「絶対!うまくなる 合唱 100のコツ」

2014年10月14日 | 音楽

【田中信昭著、ヤマハミュージックメディア発行】

 著者田中信昭氏は1956年に東京芸術大学卒業と同時に声楽家有志と東京混声合唱段を創立し常任指揮者に就任。2007年から理事長を務める。この間、桐朋学園大学客員教授、国立音楽大学招聘教授などを歴任。田中氏は「新しい日本の合唱曲を創る」ことを活動の柱としてきた。本書末尾に13ページにわたって合唱曲リストが「田中信昭のレパートリーより」として掲載されているが、その中にも作曲家に委嘱し自らの指揮で初演したものが多く含まれる。

    

 「よい歌を歌うことと、身体との関係」「豊かな表現を実現するために」などの8章で構成、タイトル通り合計100項目を立てて〝うまくなるコツ〟を伝授する。その第1項目は「声楽とは自分の身体を楽器にして自由自在な息づかいで歌うこと」とし、①発声法を身につける②呼吸法を身につける③音程をよくする――の3つを持続できる健康な身体を保つことが重要と説く。続いて「足の指10本を地面にぺったりつけた形で立とう」「息を送り出すのは腹筋ではなく横隔膜。筋トレでは横隔膜は鍛えられない」など、立ち方と呼吸のヒントを挙げる。

 以下、うまくなるコツを列挙すると――。「顎の開け方がよい音程を作る」「『うがい』を長く続けることは音程を保つ能力を育てる」「声の揺れは音程を乱すもと。毎日、横隔膜のトレーニングを」「ひとりだけ目立つのは最低のあり方。常にまわりとのアンサンブルを大切に」「アンサンブルは『30人31脚』の精神で」「さまざまな配置を試してみるとアンサンブルの上達に新しい道が開ける」「指揮を凝視するのではなくメンバーの様子を感じ取ろう」「届きづらい子音は長めに発音し表現の方向性をしっかり設定しよう」「表現豊かな演奏には『気持ち』ではなく客観的で確かな技術が必要」。

 第5章「豊かな表現を実現するために」ではベートーヴェンの「第九」第4楽章を取り上げて、楽譜をどう読み解いていけばいいかを説く。第7章では西洋と日本の合唱の歴史を紹介し、最終第8章は「お悩み相談コーナー」に当てている。その中で「曲が難しくてついていけません」という設問には「未知の曲も少しずつ読み解けば必ず道が見えてくる」とし、「歳をとるにしたがって音域が狭くなってしまいました」には「出ない音は人に任せたり、曲を変えたり工夫しながら歌い続けよう」と回答する。長く合唱の指導に携わってきただけに、経験を踏まえた指摘の数々は実に説得力に富んでいる。

    ☆☆☆  ☆☆☆  ☆☆☆  ☆☆☆  ☆☆☆

【Nコン中学生の部】町田市立鶴川二中が初の金賞!

 13日行われた「第81回NHK全国学校音楽コンクール」中学生の部は4年連続4回目出場の東京都町田市立鶴川第二中学が初の金賞に輝いた。2年連続の銅賞から一気に頂点に立った。銀賞は福島県の郡山第二中学。2008年から連続4年金賞を受賞した実力校で、一昨年は銀賞、昨年も銅賞を受賞している。

 銅賞2校は東京の豊島岡女子学園中学と札幌市立真栄中学。豊島岡は昨年の金賞校、真栄中は2年ぶり9回目の出場。真栄中は初出場の04年から4年連続して金、銅、金、金と圧倒的な存在感を示した。ただ、このところ全国大会出場を逃すなどやや精彩を欠いていただけに、銅賞受賞は生徒をはじめ関係者にとって大きな喜びに違いない。

 ちなみに私が勝手に選んだ上位5校は真栄中、郡山二中、豊島岡、山鹿中(熊本県山鹿市)、鶴川二中。山鹿中はNコン常連校で過去に銅賞を受賞したこともある。今年は演奏順がトップだったが、緊張感が漂う中で見事なハーモニーを聞かせてくれた。山鹿市には山鹿小と山鹿中の合唱部メンバーでつくる「山鹿少年少女合唱団」があり、毎年定演を開いているという。その山鹿小は全国大会で1昨年、昨年と2年連続銅賞を獲得、そして今年は銀賞を受賞した。  

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

<松村容子フルートコンサート> 古典派のクラシックから「荒城の月」まで全15曲

2014年07月27日 | 音楽

【生駒市の北コミュニティセンターで、ピアノ伴奏土居由枝さん】

 生駒市の北コミュニティセンターで26日「松村容子フルートコンサート」が開かれた。古典派のバッハやモーツァルトから、印象派のドビュッシー、超絶技巧で有名なパガニーニ、アルゼンチンの作曲家ピアソラ、さらに日本の唱歌までという幅の広い構成。アンコールも含め15曲でフルートの魅力をたっぷり堪能させてもらった。ピアノ伴奏は土居由枝(よしえ)さん。(写真㊧松村さん、㊨土居さん)

      

 松村さんは大阪教育大学特別教科音楽課程フルート専攻卒業、同大学院修了。その後、英国や米国に渡って研鑽を積み、海外オーケストラと協奏曲を協演したり、ウィーンフィル首席フルーティストの故ヴォルフガング・シュルツ氏親子とジョイントリサイタルを開くなど多彩な演奏活動を展開、後進の指導や病院でのボランティア活動などにも力を注いでいる。現在は大阪府立夕陽丘高校音楽科フルート講師。ピアノの土居さんは松村さんと同じく大阪教育大学教養学科芸術専攻音楽コース卒業後、同大学院修了。第18回吹田音楽コンクールピアノデュオ部門第2位(1位なし)。現在は大阪樟蔭女子大学児童学部非常勤講師などとして活躍している。

 1曲目はバッハの『管弦楽組曲第2番』よりポロネーズとバディネリ。続いてグルックの『妖精の踊り』、モーツァルトの『アンダンテ』。古典派に続いて19世紀フランスの作曲家ビゼーのオペラ『カルメン』よりハバネラと組曲『アルルの女』よりメヌエットの2曲。第1部最後はドップラーの『ハンガリー田園幻想曲第1部』だった。松村さんは1曲ごとにエピソードを交えながら分かりやすく紹介してくれた。

 「バッハの管弦楽組曲は4つの舞曲でできています。貴族階級が確立したのはバロック時代で、貴族には乗馬、剣術、そして踊りという3つの条件が不可欠でした」「日本とハンガリーの間には『塩』など発音が似た単語が多い、お尻に蒙古斑がある、音階が似ている――など共通点が多い」。横溝正史が推理小説「悪魔が来りて笛を吹く」を執筆中、毎晩のように近くの学生が練習を重ねるドップラーの『ハンガリー田園幻想曲』が聞こえてきたそうだ。このドップラーの名曲、国内のフルートコンサートでは定番の1つだが「ヨーロッパでは演奏される機会がほとんどない」という。なぜだろうか。

 後半はパガニーニの『カプリース』、続いてリムスキー=コルサコフの『くまんばちの飛行』から始まった。目にも止まらない速さの指使いやハチの羽音に似た独特な音色(巻き舌によるフラッター奏法)などに、観客からは溜め息も漏れていた。この『くまんばちの飛行』のハチは、実はクマバチではなくてマルハナバチだったという。フォーレの『ファンタジー』、ドビュッシーの『シリンクス』(この曲だけ無伴奏だった)、そしてピアソラの代表曲『リベルタンゴ』と続いた。

 松村さんは毎回、演奏会の中に日本の曲も織り込んできたという。この日も最後の3曲は『荒城の月』によるファンタジア(安田芙充央編曲)、『ふるさと』によるポエム(同)、『浜辺の歌』だった。アンコールは『小さな木の実』(ビゼー作曲)。短い休憩を挟んでたっぷり2時間10分。フルートとピアノの呼吸もぴったり。実に内容の濃い演奏会だった。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

<吹奏楽団「A-Winds」> ピーター・グレイアム作曲「地底旅行」など 

2014年07月07日 | 音楽

【やまと郡山城ホールで第43回定期演奏会】

 「A-Winds」(奈良アマチュアウィンドオーケストラ)の「2014年夏の演奏会」が6日、大和郡山市のやまと郡山城ホールで開かれた。1999年の発足から今年で丸15年。四季折々に開催してきた定期演奏会も回を重ねて今回で43回目を迎えた。

 

 前半の第1部は英国の作曲家の作品を集めた。幕開けは「オリエント急行」や「宇宙の音楽」などで知られるフィリップ・スパーク(1951~)の「ハンティンドン・セレブレーション」。明るいファンファーレで始まるテンポの速い曲。2曲目もスパーク作曲の「タイム・リメンバード(追憶されるべき時)」だが、曲調は一転してゆったりとした叙情的な作品だった。

 この2曲は団員指揮者の魚谷昌克がタクトを振ったが、3曲目から後半の第2部にかけては松下浩之が客演指揮した。松下は元大阪市音楽団のトロンボーン奏者で、現在は大阪音楽大学や神戸山手女子高校音楽科などの講師を務める。3曲目はグスターヴ・ホルスト(1874~1934)作曲の「吹奏楽のための第二組曲ヘ長調」。あの「惑星」で有名なホルストが吹奏楽の分野でも多くの作品を残していることを初めて知った。

 第2部最初の曲は米国の作曲家ラリー・クラーク(1963~)の「デジタル・プリズム」。25人という小編成での演奏だったが、次の合田佳代子(1973~)作曲の「『斎太郎節』の主題による幻想」ではコントラバスも加わり50人近いフルメンバーによる演奏だった。この曲は今年の全日本吹奏楽コンクールの課題曲の1つ。作曲者の合田は阪神大震災の被災者の1人として、東北地方の民謡をテーマとしたこの曲に東日本大震災復興への思いを込めたそうだ。

 第2部最後の演奏曲は英国出身の作曲家ピーター・グレイアム(1958~)の「交響的情景『地底旅行』」。もともとは金管と打楽器のための作品として2005年に発表されたが、大阪市音楽団の委嘱で吹奏楽版が出来上がったという。演奏時間は約15分で、ピアノも加わってトロンボーン、フルート、クラリネット、パーカッションなどの聴きどころが次々に表れる壮大な演奏。吹奏楽の醍醐味を十二分に満喫させてくれた。アンコールは天野正道(1957~)編曲の「キラキラ星変奏曲」だった。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

<ムジークフェスト奈良⑤> 12人のチェロアンサンブル「セロ弾きのコーシュ(巧手)」

2014年06月29日 | 音楽

【2週間余にわたった音楽の祭典もきょう29日で閉幕】

 関西にゆかりのある12人のチェリストが一堂に集結したチェロアンサンブルの演奏会が28日、奈良市の奈良県文化会館で開かれた。宮沢賢治の作品に引っ掛け、題して「セロ弾きのコーシュ(巧手)」。編成は曲目に応じて8人、12人と毎回変化し、アンコールの2曲も含め8曲を演奏した。あらためてチェロという楽器の表現力の深さを再確認し、同時にアンサンブルの醍醐味も味わわせてもらった。

  

 メンバーの多くは主要オーケストラや室内楽グループの一員、または独奏チェリストとして活躍中。メンバー紹介では地元奈良出身の西谷牧人と伊東裕にひときわ大きな拍手が送られた。西谷は現在、東京交響楽団の首席チェロ奏者。伊東は東京芸術大学在学中で12人中最年少の22歳だが、高校在学中に日本音楽コンクールで1位に輝き、若手のホープとして将来を嘱望されている。しかも2人は同じ奈良高校、東京芸大の先輩後輩でもある。

 外国出身者2人も加わっていた。米国出身のドナルド・リッチャーはジュリアード音楽院在学中から首席チェリストとして活躍し、現在は京都市交響楽団に在籍。アルトゥンベク・ダスタンはカザフスタン出身で国立音大大学院を卒業。2人とも妻は日本人女性という。12人のうち女性は3人。第6回東京国際室内楽コンクール優勝者の水谷川(みやがわ)優子、第2回ローマ国際室内楽コンクール優勝者の福富祥子、「四次元三重奏団」の一員として活躍中の池村佳子。他に日本センチュリー交響楽団首席チェロ奏者の北口大輔ら、実に錚々たるメンバーが一堂にそろった。

 演奏曲目はパブロ・カザルス編曲のスペイン・カタルーニャ地方の民謡「カニグーの聖マルタン祭」▽ブラームス「インテルメッツォ」▽ヴィラ=ロボス「ブラジル風バッハ舞曲第5番」▽ナンダヤーバ編曲のメキシコ民謡「ラ・サンドゥンガ」▽ユリウス・クレンゲル「賛歌」▽ヴィラ=ロボス「ブラジル風バッハ舞曲第1番」。アンコールはカザルス編曲のカタルーニャ民謡「鳥の歌」とトーマス・ミフネの「ワルツ・コラージュ」。

 3曲目の「ブラジル風バッハ舞曲第5番」ではソプラノの浅井順子が加わってチェロ8人の伴奏でアリアを熱唱した。チェロの深みのある音色と伸びやかなヴォカリーズ(母音歌唱)。その2つの響きが温かく溶け合って、いつまでも耳に残る心地よい演奏だった。この曲のチェロアンサンブルでトップを務めた辻本玲は演奏後「いつも自然の声のように弾きなさいといわれているので大変勉強になった」と話していた。

 アンコール曲の「鳥の歌」はカザルス自身がニューヨークの国連本部で「私の故郷カタルーニャの鳥はピース(平和)、ピース、ピースとさえずる」と話して演奏したことで有名。亡くなる2年前の1971年、カザルス94歳のときだった。この曲の演奏も心の奥底まで染み込んだ。この日の演奏会は関西が〝名チェリストの宝庫〟であることを内外に強く印象付けるものとなった。アンサンブルのメンバーは前日、本番に備え焼肉で英気を養ったという。その成果(?)も遺憾なく発揮されたようだ。 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする