【保存修理工事を終え今春8年ぶりに公開】
「はっ!」とまさに息をのむ美しさだった。東山動植物園(名古屋市千種区)の植物園ゾーンにある温室前館。全面ガラス張りの建物が青空の下でキラキラと輝いていた。その日の目的は植物会館内にある「伊藤圭介記念室」の見学。動物園を通り抜け植物園側に向かっていると、突然左手にその光景が広がっていた。入園は5年前の2016年以来。この温室を目にするのは初めてだった。それもそのはず、温室前館は2013年から老朽化に伴う修理や耐震補強工事などで長い間閉鎖され、今年4月にリニューアルオープンしたばかりだった。
温室前館は1937年(昭和12年)の「東山植物園」の開園に合わせて建設された。トラス構造の鉄骨造りで、規模は全長66m、最高高さ12.4m、広さ約596㎡。開園当時には「東洋一の水晶宮」と呼ばれたという。正面中央のヤシ室と西翼の多肉植物室、東翼の有用植物室をそれぞれ西花卉室、東花卉室でつなぐ。1960年以降に開設された後館は中南米産植物温室や水生植物室などに充てられている。戦災や台風などを乗り越えてきた前館は2006年国の重要文化財に指定された。国内最初期の鉄とガラスによる本格的な温室建築で、全溶接建築物としても建築技術史にとっても高い価値があるというのがその理由だ。
遠くから温室をしばらく眺めるうち、以前どこかで見たような気がしてきた。設計は東大で建築学を学び1935年に名古屋市の土木部に入庁したばかりの一圓俊郎(いちえんしゅんろう)という若手職員が担当した。彼が参考にしたというのが英国王室植物園キューガーデンの温室「パームハウス」だった。そうだ! どこかで見たと思ったのはキューガーデンだ。約30年前の1991年夏、英国旅行中にキューガーデンに立ち寄った。その時のアルバムを引っ張り出しページをめくった。あった! 1枚の写真に巨大なガラス張りのパームハウスが写っていた。パームハウスのパームはヤシの木。東山の温室の中央ドームもヤシ室と名付けられている。