【奈良県立大学公開講座、城戸英樹講師】
「地方の声を国政運営に反映させたい」「地方のことは霞が関ではなく地方で決められるようにすべきだ」。こう主張する橋下徹大阪市長率いる「大阪維新の会」の動向が注目を集めている。地方の権限、財政力が弱いことを揶揄して「3割自治」という言葉もある。では、日本の地方自治体は本当に弱いのだろうか? 22日、奈良県立大学で「国際比較の中の地方自治」をテーマに公開講座があった。講師は地域創造学部の城戸英樹講師。2010年に京大大学院法学研究科博士課程を修了、同大学に迎えられたばかりの気鋭で、行政学、地方自治論を専門としている。
3割自治という言葉が長く人口に膾炙(かいしゃ)していたこともあって、地方自治体は自主財源(地方税)が少なく弱い立場に置かれているという見方が支配的だった。だが最近の自主財源の割合は歳入全体の4割台(2009年度で47.2%)にアップしているという。ただ残りの5割強は国からの地方交付税と国庫補助金に頼らざるを得ない状況が続いている。
地方政府の自主財源率を国際的に見ると、高いのはカナダ、スイス、米国など連邦制を取っている国々。日本もこれらの国とあまり差がない。デンマーク、スウェーデン、フィンランドなど福祉先進国といわれる北欧諸国が3割前後で続く。英国やイタリア、フランスなどは僅か1割前後にとどまるという。これは意外! これらのことから城戸講師は「日本の地方は大きな役割を担っており、世界の中では財政的自律性は高い」とみる。
では政策決定での役割ではどうか。城戸講師は小泉政権下で行われた三位一体改革による地方への税源移譲と、世界で最も分権的とされ州政府の力が強いといわれるカナダでのクレティエン内閣(自由党)下での財政移転改革を比較した。日本では交付税と国庫補助金を合わせ9.8兆円削減され、地方へ3.3兆円の税源を移譲(所得税)。その結果、地方の歳入は差し引き6.5兆円減少してしまった。一方、カナダでは財政移転で80億ドル(約20%)がカットされたうえ税源移譲額まで削減された。強いはずの州政府は何も勝ち取ることができなかったわけだ。
なぜ日本は税源移譲を勝ち取り、カナダはだめだったのか。日本には国にもの申す地方団体として〝戦う知事会〟をはじめ地方6団体があるが、カナダにも州首相会議があり、行政ルートはほぼ似ている。城戸講師は政治ルートを比較し、「日本では県連という政党組織が中央とつながっているが、カナダではケベック州を除いて中央と地方の政治組織が断裂している。このためカナダでは日本と違って、与党内に州政府を擁護する動きが見られなかった」と指摘する。
城戸講師は最後に維新の会を念頭に地域政党の可能性と限界に触れた。「確かに地方の意見を中央に反映させる点で意味はある。ただトップが大阪市長、府知事を務める地方政党が北海道や東京でどれだけ受け入れられるだろうか。カナダではケベック連合が財政改革に猛反対したが、少数派(議会の20%)の意見は全く反映されなかった。このことから見ても国政レベルではかなり限界があるのではないか」。
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