「巨勢山のつらつら椿つらつらに 見つつ偲はな巨勢の春野を」(万葉集巻1―54、坂門人足)。ツバキは神聖な木、長寿や魔よけの木として古くから大切にされてきた。万葉集にはツバキの歌が9首(長歌1首を含む)あるが、いずれも野生のヤブツバキを詠んだものといわれる。
その種子から取れるのがツバキ油。食用のほか整髪料などの化粧品、くしや刀の手入れ用などの高級油として広く利用されてきた。第二次大戦中には戦闘機ゼロ戦の燃料の代用品としても使われたらしい。
ツバキは樹齢100年を超える銘木、老木が全国各地に残っている。関西では京都市・御香宮神社の「おそらく椿」や等持院の「有楽椿」、京都府与謝野町の「滝の千年ツバキ」、奈良市の三名椿(白豪寺の五色椿、東大寺の糊こぼし椿、伝香寺の散り椿)、兵庫県豊岡市・長楽寺の「散り椿」などが有名。「おそらく椿」は小堀遠州が「おそらく、これほど見事なツバキは他にあるまい」と言ったことから名付けられたとか。「有楽椿」は織田信長の弟、有楽斎が茶花として好んだことに由来する。
ツバキは花びらが1枚ずつ落ちるサザンカと違って、花ごと(首ごと)ポトリと落ちる。それが不吉として、お見舞いでは菊やシクラメンなどとともに贈ってはいけない〝禁花〟とされる。競馬の世界でも落馬を連想させるとして、「ツバキ」を馬の名前につけることが長く敬遠されてきた。1969年の日本ダービーで1番人気の「タカツバキ」がスタート直後に落馬したことも影響しているという。ただ、今年1月には京都競馬場の3歳新馬戦でその名もずばり「ツバキ」がデビューした。「花のように美しく可憐に走るように」。そう願って名付けたそうだ。
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