【大別すると江戸系、肥後系、伊勢系の3系統】
梅雨時を優雅に彩ってくれるハナショウブ。アヤメ科で、葉が長い剣の形をした端午の節句のショウブ(サトイモ科)に似て、華やかな花をつけるためハナショウブの名前がついた。原種は花弁がやや細く濃い紫色のノハナショウブ。これをもとに多くの園芸品種が生み出されてきた。花の色は紫、紅紫、青、白、ピンクなど、花の咲き方も平咲き、垂れ咲き、台咲きなど様々。これに「覆輪」と呼ばれる縁取りが入ったり脈が走ったり、刷毛ではいたようなまだら状の「絞り」が付いたりして花型・模様は実に多彩だ。
(左上から時計回りに「和田津海」「白鴎」「緑葉黄金」「乙女の鏡」)
大別すると、栽培された地域ごとに江戸系、肥後系、伊勢系の3つがある。江戸系は群生美を楽しむハナショウブ園向き、肥後系と伊勢系は主に室内観賞用の鉢植えとして改良されてきた。江戸系から派生した肥後系は大輪の花が特徴。伊勢系は花弁に繊細な模様が入り「イセショウブ」として三重県の天然記念物に指定されている。ハナショウブは三重県の「県の花」にもなっている。
生け花の素材として室町時代の花道書「仙伝抄」にも登場するが、本格的に品種改良が進むのは江戸時代後半になってから。旗本、松平定朝(通称「菖翁」)は生涯に「宇宙」「和田津海」など300品種近くを生み出し、ハナショウブ中興の祖ともいわれる。肥後系は肥後熊本藩主が菖翁から栽培方法を記した「花菖培養録」と一緒に、門外不出を条件に自作の名花を譲り受けたのが始まり。「肥後花菖蒲」は椿、芍薬、菊、山茶花、朝顔とともに「肥後六花」と呼ばれる。古典園芸植物の多くに相撲番付のようなものが作られていたが、かつて「花菖蒲番付」も発行されていた。ただ戦中に多くの貴重な品種が失われたという。
三重県のほか、ハナショウブを市の花に指定しているところも多い。大阪府堺市、滋賀県彦根市、京都府城陽市……。これらの各市がハナショウブ園を設けているが、そのほかにも名園が各地にでき市民の憩いの場になっている。同じ仲間にジャーマンアイリス(ドイツアヤメ)があるが、これは地中海沿岸地方原産のアイリスをもとに交配して作り出された。ハナショウブは湿地や水辺に生えるが、ジャーマンアイリスは乾燥した場所を好む。「はなびらの垂れて静かや花菖蒲」(高浜虚子)
(左上から時計回りに「座摩の美」「天女の冠」「花の雨」「揺籃」)=いずれも大和民俗公園で
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