333) オリーブオイルのがん予防効果

図:地中海地域の食事(地中海式ダイエット)ががんや循環器疾患を予防することは多くの疫学研究で明らかになっている。地中海式ダイエットで使用量が多いオリーブオイルが、がんや循環器疾患の予防効果に大きく寄与していると考えられている。オリーブオイルに含まれる一価不飽和脂肪酸のオレイン酸やその他多くの成分には、抗酸化・抗炎症作用や抗菌・抗がん作用や免疫増強作用などが報告されており、これらの相乗効果によって、がんや循環器疾患や感染症や炎症性疾患を予防・治療する効果を発揮すると考えられている。

333) オリーブオイルのがん予防効果

【オリーブオイルの摂取量はがん発生率と逆相関する】
地中海地方の人はがんや循環器疾患による死亡率が低いことが知られており、その理由として地中海地方の食事の特徴が関与していると言われています。
地中海地域の食事(地中海式ダイエット)の特徴は、野菜や果物・全粒の穀類・豆類などの植物性食品や魚介類の摂取が多く、良質のオリーブオイルをふんだんに使用することです。

ギリシャの研究では、地中海式料理を多く食べている人は、全てのがんの死亡率が低下することが報告されています。(N Engl J Med. 348(26):2599-608.2003)
ある総説では、西欧諸国において地中海式料理にすると、がんの発生率は大腸がんは25%、乳がんは15%、前立腺がんと膵臓がんと子宮内膜がんは10%、それぞれ減少するという試算もあります。(Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 9:869–873.2000年)
オリーブオイルの摂取が多いほど、がんが少ないというデータが古くから数多く報告されています。特に乳がんの発生率が低下することが報告されています。
ギリシャ、スペイン、イタリア、フランスで行われた複数の症例対照試験でオリーブオイルの摂取が乳がんを減らすことが報告されています。
例えば、ギリシャの病院の患者をベースにした症例対照試験では、乳がん患者820人とコントロール1548人の比較で、オリーブオイルの使用頻度が1日1回の群に比べて、1日1回以上の群の乳がん発症のオッヅ比は0.75でした。この研究では、マーガリンの摂取は乳がんの発症リスクを増やしています。(J Natl Cancer Inst. 87(2):110-6.1995年)
スペインの症例対照研究では、762例の乳がんと988例の対照との解析で、オリーブ摂取の少ない下位4分の1に比べて、上位4分の1のグループの乳がん発生のオッズ比は0.66で用量依存性が認められました。(Int J Cancer. 58:774–80.1994年)
別のスペインの研究(100例の乳がんと100例の対照)では、上位3分の1のグループの乳がんの発生リスクは下位3分の1のグループの0.30でした。(Eur J Cancer Prev. 3:313–320.1994年)
スペイン領のカナリア諸島からの研究では、オリーブオイルの摂取が少ない下位5分の1の群に比べて、摂取の多い上位5分の3(1日8.8g以上)ではオッズ比が0.27になるという結果が報告されています、 Public Health Nutr. 2006;9:163–167.
その他多くの症例対照研究や前向きコホート研究において、オリーブオイルの摂取量と乳がんの発生率は逆相関することが報告されています。
その程度は研究結果によって様々ですが、多くの研究を総合すると、オリーブオイルを摂取しない場合に比べて、オリーブオイルを多く摂取すると乳がんの発生率は半分以下に減ることが示唆されます。あるいはもっと減るかもしれません。
乳がんの他にも、大腸がんなど消化器系がんの発生率を減らすことも報告されています。
全てのがんの発生率は、オリーブオイルを多く摂取することによって34%減少するという報告もあります。
これら複数の研究のメタ解析の結果が2011年に報告されています。以下のような論文があります。

  • Olive oil intake is inversely related to cancer prevalence: a systematic review and a meta-analysis of 13800 patients and 23340 controls in 19 observational studies.(オリーブオイルの摂取はがん罹患率と逆相関する:19の観察研究における13800人のがん患者と23340人のコントロールの系統的レビューとメタ解析) Lipids Health Dis. 2011; 10: 127.(Published online 2011 July 30. doi:  10.1186/1476-511X-10-127)
    【要旨】
    食事中の脂質は、その量と質によって、がんを抑制的に作用する場合と促進する場合のどちらかの作用を示す。この研究の目的は、オリーブオイルあるいは一価不飽和脂肪酸の摂取ががんの発生率に影響するかどうかを評価することである。
    1990年から2011年3月1日までの間に英文で発表された論文を検索し、系統的レビューを行った。
    検索で38の研究を選び出し、そのうち19の症例対照研究(case-control study)を最終的にメタ解析した。対象は13800例のがん患者と23340人の対照者であった。
    オリーブオイルの摂取量の最も少ないグループに比べて、最も多いグループでは、全てのがんの発生率が低く (log odds ratio = -0.41, 95%CI -0.53, -0.29) 、これは国の違い(地中海地域かそうでないか)とは関係なかった。
    オリーブオイルの摂取が多いほど乳がん(logOR = -0,45 95%CI -0.78 to -0.12)、消化器系がん (logOR = -0,36 95%CI -0.50 to -0.21)が少なかった。これらの結果は、オリーブオイルががんの発生を防ぐ作用があることを示している。
    しかし、オリーブオイルのがん予防効果は、それに含まれる一価不飽和脂肪酸によるものか、抗酸化成分によるものかは不明である。

この論文は、オリーブオイルと発がん率に関するメタ解析(meta-analysis)や系統的レヴュー(systematic review)としては最初の論文です。
エクストラ・バージン・オリーブオイルにはポリフェノール類、フラボノイド、リグナンなどの抗酸化作用や抗炎症作用やがん予防効果を持った成分が豊富に含まれます。
また、オリーブオイルには一価不飽和脂肪酸のオレイン酸が豊富で、一価不飽和脂肪酸は多価不飽和脂肪酸に比べて酸化されにくく、オレイン酸自体に抗がん作用があるという指摘もあります。
この論文では、オリーブオイルのがん予防効果が抗酸化成分によるのか一価不飽和脂肪酸によるのは判らないと考察していますが、その両方の相乗効果かもしれません。いずれにしろ、オリーブオイルを多く摂取すると多くのがんの予防に有効だと言えます。

【オリーブオイルに含まれる抗がん成分】
オリーブ(Olea europea)は地中海地域原産のモクセイ科の植物で、オリーブ・オイル (olive oil) はオリーブの果実から得られる植物油です。食用のほか、化粧品、薬品、石けんなどの原料としても用いられます。
オリーブは7000年以上前から栽培され、食品や病気の治療の目的で利用されています。現在でも、世界中で栽培されているオリーブの98%は地中海沿岸地域で栽培されています。
酸化されにくい一価不飽和脂肪酸(オレイン酸)を多く含むため、他の食用の油脂に比べて酸化されにくく固まりにくい性質を持ちます。
果実を絞って得られる果汁から遠心分離などによって得られた油をバージン・オリーブオイルと呼び、その中でも香りが良好で品質も高いものを特にエクストラ・バージン・オリーブオイルと呼んでいます。
バージンオリーブオイルは、一価不飽和脂肪酸を豊富に含むとともに、天然の抗酸化物質(ポリフェノール)やビタミン・ミネラルを豊富に含みます。特に、エクストラバージンオリ-ブオイルは、オレイン酸を約80%含んでおり、天然の抗酸化物質(ポリフェノール類)を豊富に含み、栄養価の高い最高級オイルです。
オリーブオイルに含まれるポリフェノール類として、オレウロペイン、チロソール、ヒドロキシチロソールなどが知られており、オリーブ油の高い抗酸化作用はこれらに由来していると考えられています。
これまでの疫学研究では、オリーブオイルの摂取が多いと心臓病などの動脈硬化性疾患が少ないことが示されていますが、その理由として、一価不飽和脂肪酸としてのオリーブオイルの抗動脈硬化作用の他に、オリーブオイルに含まれるポリフェノールによる抗酸化作用や抗炎症作用が指摘されています。オリーブオイル由来のポリフェノールには骨粗鬆症予防作用も報告されています。
オリーブオイルを日常的に多く摂取する人はリウマチ性関節炎が少ないという報告があります。
また、前述のように、オリーブオイルの摂取が乳がんや消化器系がん(大腸がんなど)の発症リスクを減らすデータが報告されています。
オレイン酸自体にがん細胞の増殖を抑制したり、細胞死(アポトーシス)を誘導する作用が報告されています。その他、ポリフェノール類やリグナンやトリテルペン類など多くの成分にも抗がん作用が報告されています。このような複数の成分の相乗効果によって、がんの予防や抗がん作用を発揮すると考えられています。

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