オホクニは妻であるセスリヒメの
“甚為嫉妬<イタク ウハナリ ネタミ タマヒキ>”
そうです。あまりにもひどい妻の嫉妬に辟易して、出雲から倭へ逃避されようとしたのです。その時に妻からの返歌です。
「我が夫よ。あなたは凛々しくて男の中の男です。何処へ行っても、遠くの島に行っても、国境の辺鄙な御崎辺りに行かれても、どこでも若草のような美しい乙女を妻に屹度なさるでしょう。」
と歌います
“和加久佐能。都麻 母多勢 良米<ワカクサノ ツマ モタセ ラメ>”
「良米<ラメ>」は、助動詞「らむ」の已然形で、『するでしょう』です。あなたはそれぐらい男の中の男です。ここまでは、はっきりとその夫に向って大きな声で言います。
「あなたは大変立派なお方です。」
と。
でも、古事記の文章にはそれらしい説明は無いのですが、その毘売の歌った次の歌を見ていると、何となくそこら辺りの文字の中から、声の大きさも聞こえるか聞こえないか分からないような小声で、上代の女性のしなやかと云いまそうか奥ゆかしさといいましょうか、女性らしさと云いましょうか、そのような小声で下向きに歌っているような姿が読みとれるように思うのですが。その歌は
”阿波母與 売邇斯阿禮婆<アワモヨ メニシアレバ>”
です。