恋愛ブログ

世にも不思議な物語。
出会いの数だけドラマがある。
一日一話愛の短編物語。
〜ショートストーリー〜

1.空港

2006年11月13日 | 自分の恋
 秋から冬へと変わる骨の髄から冷たくなる様な雨が降り、北風が吹いていた。
 午前5時30分。外は、まだ薄暗く、飛行機すら飛んでいない。空港の警備会社に入って、かれこれ二ヶ月経とうとしていた。寮から空港まで20分くらいかかり、空港から私が勤務している第2ターミナルまで10分だ。空港も広いから大変である。
 手と手をこすり合せ、寒さをこらえ、縮こまり、飛行機を見ながら歩いていた。 飛行機は遠くから見たら模型みたいだが、近づくにつれ、私の背丈よりも遥かに大きく、JALの飛行機とANAの飛行機が何も言わずこちらを見て4機止まっていた。
 この大きな鉄の塊が飛ぶのだからたいしたものだ。人類も発達したものだと感心した。ライト兄弟万歳である。
 警備用のユニホームに着替えて、朝の挨拶があり、勤務に入るのだ。
 毎日毎日、飛行機に乗り込むお客様の荷物を検査する。絶え間なく流れて来るルイヴィトンのバッグやキャスター付きバッグを検査しなければならない。
 休憩に入るとき、キャリー付きバッグをゴロゴロと引きながら、5、6人のキャビンアテンダントの人達とすれ違うのだが、私が「お疲れ様です。」と言うと、100万ドルの笑顔で「お疲れ様です。」と返事をしてくれる。
 今となってはそれが唯一の楽しみだ。その後、振り返るとキャビンアテンダントの人たちもタメ息をついて疲れた表情をしていた。
 人前で笑顔を絶やさないという事がどれほど辛いのか垣間見れた。私も頑張らないといけないなと感じた。
 その後、私が空港内のパン屋さんでパンを買っていると、指を顎の所に持って行って、「どれにしようかな。」と悩んでいるJALカウンターの受付の人がいた。
 私が荷物にシールを貼る時いつも「ありがとうございます。」と言ってくれる人だった。
 私も悩んでパンを取ろうとしたらJALさんも同じものを取ろうとして、彼女が笑った。
 「あ、すみません。僕も毎回このパンを買うんですよね。」
 「私もなんですよ。このパンおいしいですよね。」
 「そうですね。すこぶるおいしいです。」変な言葉になったのでまた彼女が笑った。向日葵の様な笑顔に見とれていると、あっという間の休憩時間が終わってしまった。
 短い休憩時間が終わると荷物のゲートを通るお客様を案内する係になった。
 案内に立っていると、様々な人達が出会い別れを惜しんでいる。外国のカップルは、フランス映画の様に何度もキスをしていた。
 日本人の家族は、父親だけが飛行機に乗るらしくて、子供が泣いて手を振っていた。それをなだめる様に母親が抱き寄せていた。
 家族って暖かいなと心の底から思った。
 私も父親や母親に物凄く逢いたくなった。家の喫茶店でオムライスや母がいつもいれてくれるコーヒーを飲みたくなった。かれこれ一ヶ月くらい家族にあっていない。時間だけが荷物の様に流れている。
 父と母は元気だろうか。
 寮に帰ってから電話でもしてみようかな。
 きっと父親の老いた声を聞くと泣いてしまうだろうなと思った。
 空港の帰り、寒さに震えながら寮まで歩いていた。夜空に浮かぶオレンジ色の月が美しく、飛んでいる飛行機と月が重なっていた。
 人生において、これほど美しいモノはないだろうか。
 私は今まで恋よりも愛よりも素晴らしいものはないだろうと思っていたが、ここに来て考え方が少し変わった。
 もちろん恋や愛は人間にとってなくてはならないものだと思っている。
 それよりも人間の生きる意味を深く林檎の様に味わう事が素晴らしい事ではないだろうか。
 
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2 コメント

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情景が素敵☆ (ゆば)
2007-02-24 00:18:04
よんでてやっぱりキュンってなる小説私の中でNo.1です☆素朴な思いが大好きです(*´▽`*)
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ユバさんありがとう。 (キーボー)
2007-03-01 16:25:33
 空港は、出会いと別れの場所で、恋愛にはぴったりです。
 私の素朴な感じが伝わってよかったです。
 また来てください。
返信する

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