新学期が始まりました。
「先生、もうくたくたです。3年生なのにまだ文字が習得できず、落ち着きがなくてなんかみんなから浮いているんです。どうしていいかわからなくて…」と若い先生から相談がありました。
私はこんな話をしたのです。
早く字を覚えさせよう、きちんとしつけようとあせっていませんか。もっとその子のことを知ることから始めようよ。きっとその子、勉強がわからなくて、辛い思いをしてきたと思うなあ。ぼくはアホや、ぼくなんかって自分に見切りをつけるような気持ちでいると思うよ。勉強のわからない子ほど賢くなりたいって思ってるもん。まず先生自身がきみのこと見捨てないよ、とコールを送ることから始めたいね。
■先生は助けてくれる
それから、クラスの子の中には、あいつは…とその子のことを否定的に見ている子もいるでしょ、その友だちの見方を変えていくことがとっても大事やね。
お手本を見ながら文章をていねいに視写するとき、その子が遅かったら先生が付いてていねいに教えてやる。みんなに向かって「圭ちゃんは今、字覚えて書こうとがんばってるから待ってやってね」と頼む。そして、できた字を見せて「ほら、ていねいに書けたね、ほめてやってよ」とエールを送る。
こんな先生の姿を見て、少しずつ圭ちゃんへの見方を変えていくと思うなあ。それを見てぼくも困ったら先生は助けてくれるんだ、この教室は安心だ、とほっとするのよね。
それから、何よりも大切なことは、その子のことをもっともっと知っていく努力をすることだね。子どもを知るとかわいくなるから、子どもを知る探検の旅はおもしろいよ。
■興味や絵から知る
その子が何に興味を持って、何に心動かしているのか、何を喜び、何に悲しんだりイラついたり、何を不安がっているのか知りたいね。
外へとび出して行ったらついて行って、どこに心をとめているか見たらおもしろいよ。石を除けてだんご虫ばっかりさがしている子がいて「これがお母さんだんご虫やね」なんて一緒に遊ぶのよ。その日、だんご虫の本を読み聞かせると目を輝かすよ。これがだんご虫の「だ」という字だよねって入っていくと、文字への関心も出てくると思うなあ。
その子の描く絵の中にもいっぱい願いやサインが入っているよ。「これ妹やで。でももういっしょに王将行かれへんねん。自転車こけて泣いてかわいそうやった」と離婚して別れ別れになって暮らす妹へのいとおしさを絵を見ながら語ってくれた子がいて、ああこんな思いを抱いて今日も学校に来たんだなあと思うと、なんかその子がいじらしくてね。
子どもを知るって、その子の暮らしを知ることが大事なのよね。親の暮らし、家族の人間関係などをよくつかんでいくと、何をしたらいいのか、どこに寄り添っていけばいいのかが見えてくるよ。
こんな話をすると、その青年は「明日、圭ちゃんに会うのが、なんか楽しみになりました」と明るい表情で帰って行きました。(とさ・いくこ 中泉尾小学校教育専門員・和歌山大学講師)