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話を聴いてくれるヒマそうな大人~土佐いく子の子どものまなざし⑭

2008年06月07日 | 土佐いく子の教育つれづれ

 退職後は週3日間、専門員として小学校で勤務し、週1日は大学で非常勤講師をしています。小学校では、担任を持たず、教職員や子どもたちのオタスケマンをして働かせてもらっています。
 にこにこしているヒマそうな大人がいると感じるからでしょうか。職員室へやって来て「マジョリーン(私のあだ名)、鳥の巣みつけてん。来て来て来て来て!」と手を引っぱって連れて行ってくれるのです。
 「ここ見て、その木の中や。鳥が飛んできたからじぃっと見てたら、この木の中に入っていってん。そうっと木に登って見たら巣みつけた。ほら見て、あそこ!あそこ!卵もあるでえ」と目を輝かせている4年生のやんちゃ軍団です。

 ■教室に戻らない山口君
 職員室へ戻って来たら、今度は6年生の山口くんがキレて、先生に引きづられるようにして入って来ました。しばらく校長室で担任と話をしていましたが、教室には戻らないと突っ張っています。
 そこで、バトンタッチしてヒマな私が彼の横へ行きました。正面よりも横に座る方が話しやすいと思い、ソファの彼の横に座りました。
 聞くと、ぼくを怒らせたらキレるから、それがおもしろいから嫌がらせをするのだと言うのです。担任からもそう聞いていました。
 「そうか、そうか、嫌だったなあ」と話を聞いているうちに落ち着いてきたので、尋ねました。
「なあ、この前、子ども会があった時、あんたの教室に行ったやろ、あんた”自分の一番楽しい時は家の仕事をしている時”って書いてたやろ。どんな仕事してるの?」
 風呂洗いでも、2歳と4歳の兄弟の世話でも、何でもしていると言うのです。家の仕事をするとほめてもらえるから、その時が一番嬉しいのでしょう。
 汚れのしみ込んだ洋服にこの子の暮らしぶりが見えます。
 今度は、自分の方から口をきいてきました。
「先生の名前『土佐いく子』やろ。どこから来たん?」
「下の名前まで覚えてくれてたんやなあ。嬉しいわあ。先生かテンゴクから来たんや」「えっ、天国?」
 「よう聞かんかいな、泉北や」と言うと大笑いするのです。子どもらしい笑顔でした。「なあ、あんた服のポケットえらい破れてるなあ、縫ったろか」と言うと、「お母さんにしてもらうのに…」と言いながら服を脱いで渡すのです。 きれいに縫ってやりながら、
「山口くん、もうすぐ給食やで、教室に帰らな」
「いや帰らへん」と言い張ります。
「先生もな、あんたみたいに自分は、何も悪いことしてないのに、いやな言葉投げつけられて悔しかったことがあったわ。大人も一緒やなあ」
 私の縫ってやったポケットをじっと見ています。「服の修理代500円いただきまーす」と言うと、また笑います。
「それでな先生、悔しかったけど、そんな時は笑顔で入って行くねん。それ見て相手はハッとするやろ。なあ山口くん、相手をにらんだりせんと笑顔で教室に帰り。そうしたらこのケンカ、あんたの勝ちや」
「うん、給食食べに行くわ。腹減ったし」
 大人が忙しいと、子どもは近寄って来れません。ヒマそうな大人がいると「なあなあ」と話をしに来ます。子どもは聞いてほしい話をいっぱい持っているのです。38年間忙しい教師生活でしたが、話を聞いてほしかったのに近づいて来れなかった子がどんなにかたくさんいただろうに、とちょっと心が痛んでいます。
(とさ・いくこ 中泉尾小学校教育専門員・和歌山大学講師)

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