昨夜、NHK・ETVの新藤兼人監督特集番組を観た。98歳、最高齢の映画監督が手がけるのはご自身の戦争体験を元にした『1枚のハガキ』という作品。年齢からしてこれが最後ではと仰ってる。番組は監督の孫娘である新藤風さんの撮影するプライベート映像を交えながら、約2ヶ月間、車椅子姿で演技指導に当たる姿を中心に追った。
徴兵検査で甲・乙・丙のうち最も(戦争の)役に立たない丙種という分類に所属することになった新藤2等兵の任務は、軍に接収されてた奈良・天理教団の施設で予科練訓練に当たる14~15歳からの若者たちの世話をする定員部隊という係。戦争が悪化するに連れてその100人の部隊員、ほとんどは30歳以上の仕事や家族を残して招集された人たちだが、彼らも戦地へ赴くことになった。
まず60人が上官のクジで選ばれてフィリピンへ行くことになったが、輸送船が撃沈されて全員死亡、次に同じく上官のクジで30人が選ばれ潜水艦に乗ることになったがこれも撃沈され、残った10人は雑役班として海軍に接収された「宝塚少女歌劇団」の施設、宝塚海軍航空隊に異動し、大量の予科練習生を迎えるため掃除、改修などの任務に就いた。そしてさらに途中で4人が海防艦に移り(消息不明)、結局新藤監督を含む6人が戦後に生き残った。
「なぜ私は生き残ったのか。それを自らの『原罪』として受け止めて映画を作り続けてきた」という監督。
『1枚のハガキ』は輸送船に乗ることになった同室の2等兵から見せられたハガキのことである。そこには「きょうは祭りです。あなたがいないので何の風情もありません」と妻からの言葉が書かれてあった。
兵士たちが赴いた戦場は確かに悲惨だ。そして300万人以上の日本人が殺され死んだ。だが見えないけれども、そのウラには無数の「家族の崩壊」もあった。無理矢理戦争に駆り出されて、暮らしを破壊された無数の庶民たち。
戦争指導者たちのような上から目線ではなくて、2等兵という下級兵士であったからこそ見ることのできた本当の戦争の姿を描く監督。
250枚以上のスケッチを準備しながらも、地味な内容故になかなかスポンサーが付かずに制作費のメドが立たないままずっと抱え込んでいた企画だったが、ようやく半分の費用のメドがつきそうだということで撮影が可能となった。主役に大竹しのぶ、他に倍賞美津子、柄本明、豊川悦治、大杉漣など。公開は2011年8月予定。
*コチラにも関連記事あります。