朝日新聞の「慰安婦」問題報道検証記事へのバッシングが、副教材や辞典・辞書の内容などにもひろがってきています。
先月、出版労連がこのような事態に対して声明を発表しましたので、以下に転載させていただきます。
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2014年10月24日
【声明】朝日新聞「従軍慰安婦」記事問題を利用した辞典・辞書等教材全般への不当な攻撃に抗議する
日本出版労働組合連合会
中央執行委員長 大谷 充
2014年10月17日の衆議院文部科学委員会において、自由民主党の義家弘介議員は、本年1月の教科書検定基準の見直し等により、今後は不適切な教科書の記述に文部科学省として意見を述べることができるのか、また教科書だけでなく副教材や辞典・辞書にも不適切なものが多い、特に朝日新聞の「従軍慰安婦」に関する吉田証言記事取り消しによって軍による強制性の根拠が崩れたとして、文部科学省は教育現場で使われている副教材や辞典・辞書などの記述にも注意すべきだと求めた。
下村文部科学大臣は、「朝日新聞は、(昔の左翼の用語として)自己総括すべきだ」、「朝日新聞的なるものが戦後の中で現在もあり、それが副教材や辞書にもある」として、「それはそれで表現の自由だが、教育の現場でそのまま導入することは大きな問題がある」と答弁した。さらに、義家議員は、歴史の教科書だけの問題ではないとして、国語の教科書に掲載されている芥川賞作家の池澤夏樹氏の作品『母なる自然のおっぱい』や、その他の副教材なども実物を掲げて「一面的な思想」「一部の偏向したイデオロギー」などと問題視し、全ての副教材をチェックしていないのかと問い質した。また翌18日の産経新聞は、この質疑・答弁をとりあげ、各社辞典の「従軍慰安婦」についての記述を並べ、あたかもそれぞれの記述が誤っており、修正が必要でもあるかのように、「朝日の誤報受け慰安婦『強制』国語辞典是正を 衆院委議論」との見出しを付けて報道した。
今回のこうした国会での質疑と答弁、およびこれを煽り立てる報道は、朝日新聞「従軍慰安婦」記事問題を利用して、この攻撃をさらに辞典・辞書から文学作品まで含む教材全般へとエスカレートさせた言論・出版・表現の自由に対する重大な挑戦である。言論・出版・表現の自由を守り、さらに発展させることは、出版産業の基盤であり、これへの不当な攻撃は、出版産業にたずさわるものとして決して看過することはできない。出版労連はこれに強く抗議する。
そもそも「従軍慰安婦」に関する吉田証言記事が取り消しとなっても、その強制性の根拠は全く崩れていない。政府も、「従軍慰安婦」が「強制的な状」にあったとする1993年8月の「河野談話」を取り消したり、修正したりするようなことはしていない。これ以上に問題なのが、こうした国会での質疑・答弁と報道が、言論・出版・表現の自由を脅かし、侵害するものであるということである。国会という公の場で政治家が個々の出版物を恣意的に解釈して非難し、担当行政府の長が、その発言をさらに増幅した答弁をすることは、政治権力、国家権力による言論・出版・表現の自由の侵害にほかならない。ま
た、この侵害を何ら問題にすることなく、辞典記述への攻撃を助長するような報道を行うことは、言論機関としての見識に欠けるものであると言わざるをえない。
戦前における言論・出版・表現の自由の抑圧と攻撃により、多くの出版人がその犠牲となって戦争体制が作られていった。この悲惨な教訓は、私たち出版労働者の胸には痛烈に刻み込まれている。
出版労連は、今回の辞典・辞書等教材全般への不当な攻撃に強く抗議する。そして言論・出版・表現の自由を守り、発展させていくためにこれからも全力でとりくんでいくことを表明する。
以上