近頃、カエンタケの記事を目にすることがあった。
カエンタケはどちらかと言えば夏のキノコなので、こんな季節になー、と思うわけだけど、それはさておき、その見出しは例によって『触るだけで被害』となっている。
基本的に毒キノコは食べさえしなければ害はない。だけど、カエンタケだけは例外的に、皮膚にも直接害の及ぶ猛毒・トリコテセン類を持ち、「触るだけでも危険」という触れ込みで巷でも有名になっている。
ところがだ。これだけ注意喚起されてる一方で、カエンタケを触って被害を受けたという報告は一件も見たことがない。これはどういうことか?注意喚起が功を奏しているからか?
もちろんそれはある。でもそれ以上に、カエンタケを触って皮膚がどうにかなることは滅多に無い、という事実がある。
実は私も自分の体で人体実験をしてみたことがある。普通に触ってても何も起きないので、業を煮やして折ったカエンタケの断面を腕にゴシゴシこすりつけてみたのだが、それでも何ともなかった。これはどう言うことか。カエンタケの毒はぜんぜん大したことないのか??
答えはNOだ。
過去に中毒死亡事故を起こした際には、中毒患者の吐瀉物が付着して手足の皮膚がただれたとあるし、他にカエンタケの成分抽出に当たっていた研究者の皮膚がかぶれた、カエンタケの切片を顕微鏡で観察する際に顔の皮膚がヒリついた、などの話を仲間うちで聞いたことがある。
強力な毒があることは、やはり間違いない。
さて、これをどう考えたらいいのだろう?
おそらくこういうことだと思う。
動物には、人が触ると激痛を受けるものが結構ある。
たとえばクラゲのカツオノエボシやドクガなどは、その毒から人々に嫌われる。
彼らは獲物をとらえたり身を守ったりするため、刺胞や毒針毛など、毒を相手の体に打ち込む仕組みを持っている。だから触れただけで危険なのだ。
一方で、カエンタケはそのような仕組みをいっさい持たない。持っている毒がいくら強力でも、それはカエンタケの体外には出ないので、ただ触るだけなら大丈夫、という訳だ。
問題はどう言う条件だとこの毒が作用するか、ということだが、これはまだよく分からない。
カエンタケの表面は問題が少ないとしても、断面は危険に違いない。でも私の実験から考えるに、断面も触るだけなら大したことが無いかもしれない。もしかしたら水分を媒介させないと、毒成分は滲み出てこないのかも。
どこに触れるかも重要だ。たとえば手の皮膚は強いし、顔の皮膚は弱い。目や唇・口内などの粘膜はダイレクトに毒が届くのでいっそう危険だ。カエンタケを食べると、消化されて出てきた毒成分が粘膜だらけの消化管を駆け巡るわけだから、胃腸の表面が全部ただれる。そりゃ悲惨だよな・・・。
腐りかけのカエンタケが雨にぬれてたら触るだけでも危なそうだ。体質的に皮膚が弱い人もデータが無いので分からない。
ま、やっぱりお世辞にもカエンタケが安全とは言えんな。
とは言え、巷の印象にあるような「近づくだけでヤバいキノコ」という存在には程遠いものであることは間違いない。
物心つかない子供が折り取って口に入れたりすればもちろん危険だ。カエンタケをベタベタ触った手で目を擦ったり鼻をほじったりしたら、それもかなり心配。腐りかけのカエンタケも危ないが、その頃には赤い色もあせて何がなんだか分からないので、興味をかき立てられることは少ないかも。まあその辺りにさえ気をつけていればいい。要するに
触るなってことだけど(笑)
少なくともスズメバチやマムシ、マダニほどの脅威ではないんじゃなかろうか。なんせ、向こうから噛み付いてくることは無いんだからね。
と言うことで、キノコ愛好家として、私はカエンタケの駆除には反対。注意喚起か、せいぜい立入禁止までで対応すべし、と主張イタシマスのでご理解のほどを!