月刊 きのこ人

【ゲッカン・キノコビト】キノコ栽培しながらキノコ撮影を趣味とする、きのこ人のキノコな日常

『よくわかるきのこ大図鑑』

2013-02-22 22:35:14 | キノコ本
『よくわかるきのこ大図鑑』 小宮山勝司 著

キノコ大図鑑!

いや、ま、たしかに大図鑑にはちがいねえ。サイズがデカいからな。……ってゆーかそんだけじゃねーか!よくもその程度で大図鑑ヅラできたもんだなァ、ッああぁァ?

……などとキレやすいチンピラを演じているわけにもいかないので、ここは『よくわかるきのこ大図鑑』を「ヨクワカルキノコオオズカン」と読むことでひとまず納得することにしよう。

端的に言って、標準的なコンパクトカラーきのこ図鑑の内容はそのままに、サイズだけ大きくした感じ。サイズだけ大図鑑。
もっとも、サイズがでかいだけで役立たずかと言えば決してそうではない。写真は枚数が多い上に一枚一枚が大きく、レイアウトにも余裕があるので全体を通して読みやすいし、掲載種数300種は並のコンパクト図鑑の約200種の5割増し。著者の小宮山氏は写真撮影に定評があるが、ソフトな文章もなかなかのもので、キノコ初心者が最初に手にする一冊としては、かなり上位に入る出来栄えだと思う。

惜しむらくはその記述量の少なさか。読みやすいということは情報量が少ないことの裏返しでもある。特徴のはっきりしたキノコならばそれでもかまわないが、地味で似かよった種をこの図鑑で区別するのは厳しい。あと、キノコのサイズが記されていないのも手落ちと言えよう。

しかし、それらの弱点を帳消しにしてしまうほどの強みがこの図鑑にはある。そう、それは、コストパフォーマンスだ。

以下に、代表的な大型きのこ図鑑の重量と税込価格、さらに100gあたりの価格を計算して列挙してみた。

日本のきのこ(改訂版・山と渓谷社) 1510g・8400円……100gあたり556円
北陸のきのこ図鑑(橋本確文堂)   1450g・15000円……100gあたり1034円
世界きのこ大図鑑(東洋書林)   2470g・18900円……100gあたり765円
よくわかるきのこ大図鑑(永岡書店) 1100g・1575円……100gあたり143円

見ろ!ブッチギリだ!アメリカ牛より安い!

ちなみにポケット図鑑が200g弱で1000円ほど、コンパクト図鑑が300~500gで1200円前後、一般的な写真図鑑が500~800gで1500円~3000円といったところか。いずれも「よくわかる大図鑑」には遠く及ばない。

図鑑の価値が目方に比例するわけがないし、収納や携帯性の問題もあるから、もちろんこれはジョークなんだけど、それにしてもこのサイズにこの内容で1500円は安いなー。



「ペンションきのこ」のオーナーとして名の通っている小宮山氏。写真の腕はさすが。ただ、この本に関して言えば、たまに画質がすごく厳しい写真が混ざってる。古い機種で撮った写真かな?ま、コスパ最高ですから。
一種類のキノコに、白バック写真を含めたたくさんの写真がついているのはありがたい。

キノコは発生場所別に掲載。著者が長野在住なので、きのこのセレクションは高冷地に発生するものに偏っている。

テキストは文字が大きく読みやすい。専門用語も可能な限り使わない方針で、初心者でも安心して読める。


巻末には写真目次とレシピ集がある。特に写真目次は使いやすいと思う。

あと読んでて気になったのは、毒キノコに関してかなりうるさいこと。ナラタケなんかは「5本以上食べないようにしましょう」なんて書いてある。「軽い下痢くらいだったらいいじゃん」ってのが食いしん坊としてのホンネだよね。

中島みゆき

2013-02-07 23:26:53 | キノコ本
中島みゆき。歌手歴30年オーバー、ユーミンや竹内まりあと並ぶ、最古参の女性シンガーソングライター。すでに普遍的名曲の地位を確かにした「時代」をはじめ、これまでたくさんの曲を送り出し、いまなお現役。かつては「暗い歌ばかりつくる」と評されていたが、最近はそんなでもない。TOKIOに提供してヒットした「宙船(そらふね)」が記憶に新しい。

さて、この人、基本的にマスコミ露出が低い(歌番組に出ない)ので、あまり知られていないけど、たとえばラジオの深夜番組でパーソナリティをやらせたりすると、こんな感じに。

……なにこのテンション。

どうやらこれが素(ス)の彼女らしく、このあっけらかんなトークで幻滅するファンも多いとか少ないとか。
ところが、このネジのはじけ飛んだオバチャンがいざステージに立つと、多感で繊細な詞に、悲喜の混沌ともいえる情感を乗せ、その圧倒的な存在感で聴衆を魅了する。その豹変ぶりは「魔女」「きつね憑き」などとファンの間でささやかれるほどだ。

無邪気な子供の相が、喜びも悲しみも受け入れる大人の相と同居している。典型的なトリックスター

そういう目で見れば、彼女の作った曲にも、相反するものを仲介する、という普遍的なテーマに基づくものがとても多いことに気づく。男と女、希望と諦め、愛と別れ、生と死。

たとえば、悲しいばかりの失恋の歌……しばしば歌の中で失恋が死のイメージと重ねあわされるが……これも彼女の魔法にかかると、それも人間の世界で繰り返される輪廻の一環なのだ、なんともしょうがない、しょうがないよね……と暗に諭され、励まされてるような気がしてくる。暗い歌が多くても、世代・性別を問わず、彼女が広い層に支持される理由は、そういうところにあるのかもしれない。

曲中に色濃くあらわれる水のイメージもまた象徴的だ。生命のゆりかごたる海、赤ん坊を包む羊水、あるいは死者を隔てる三途の川、そして最終的にすべてが還るところでもある海。生死をつなぐ仲介者がはたらく場所としてふさわしい。

話がずいぶん観念的になってしまたけど、中島みゆきがトリックスター(≒キノコ的)歌手だということ、ご理解いただけましたでしょうか?私ファンなので、文章が偏重かつ暴走気味なのはご容赦を。

写真は2002年発売のアルバム『おとぎなばし』(英題・FairyRing)から。キノコ入りの歌詞は探してもなかったんで、こじつけで。

※参考
『宙船』 ロック調。破壊的な相
『ファイト!』 代表作のひとつ。抒情的。水のイメージ。明暗ごちゃまぜの混沌。
『とろ』 子供の相。「とろ」は子供時代の彼女のあだ名。何をやっても「とろ」かったらしい。

『世界きのこ大図鑑』

2013-02-01 20:27:56 | キノコ本
ジョン:やあ、みなさん。リビングに居ながらお買い物が楽しめる「KIN・ショッピングTV」へようこそ!今日紹介するのはコレ!『世界きのこ大図鑑』だ!

マイク:ワオゥ!なんだいこのデカさ!自由の女神が小脇にかかえてそうだよ!

J:ビックリしたかい?縦が28センチ、横19センチ、厚みも5センチ近くあるんだ。数あるきのこ図鑑の中でもトップクラス。見てよこの貫禄。なんたって『大図鑑』だからね!

M:フー、こりゃすごいや。これなら家に泥棒が入ってきても一発で退治できるね。

J:おいおいマイク、せっかくの図鑑なのにそんな使い方をしちゃいけないよ。まあ武器として使うにしても、君の場合はこの図鑑を誰にも見つからない場所に隠しておいた方がいいかもしれないね。

M:?? そりゃどういう意味だい?

J:じゃないと浮気性のマイクはすぐにでも奥さんに退治されちゃうからね。

(マイク、肩をすくめる。観衆、笑う)

J:そんなことはいいとして、見てよ。この綺麗な表紙のキノコたちを。

M:ああ、とってもカラフルだ。まるでお花畑のようだよ。こんなにきれいなキノコがあるなんて!早く中も見せてほしいな。

J:マイク、そんなにせかさないで。この図鑑の売りはスケールの大きさだけじゃない。すぐれているのはそのビジュアル性だってことが一目でわかるよね。ちなみにこの図鑑、シカゴ大学出版から出版された『THE BOOK OF FUNGI』を日本語訳したものなんだ。約650ページはもちろんフルカラー。ヨーロッパやアメリカだけじゃない、世界中のキノコを載せているよ。

まあ前置きはこのくらいにしておこうか。さあ見てごらん、この中身を。

M:ウオゥ、これは……とても綺麗だ。写真が、すごく上手に撮れてて……なんかとてもリアルだよ。

J:その通り。収められているキノコは全部で600種。1ページにつき1種類ずつ、丁寧に撮られた白バック写真はそのキノコの特徴を的確にとらえていて、しかも原寸大で掲載されている。巨大サイズの図鑑にしかできない芸当だね。

M:あと……ページの余白がすっきりと映えてキノコをひき立てているね。なんていうのかな、とても上品で……図鑑を観ている僕をエレガントな気持ちにさせてくれるよ。

J:いいところに目をつけるね、マイク。レイアウトには細心の注意を払っているんだ。特に調べものじゃなくても、こうしてペラペラめくるだけでも楽しいよね。

さあ、写真やレイアウトもいいんだけど、見逃しちゃいいけないのが、キノコを解説するテキスト。そのキノコの分布や発生環境、発生頻度、胞子の色、食毒なんかが一目でわかるようになっているのとまた別に、名前の由来や生態、食味、分類学の知見など、豆知識がたっぷり詰まった解説がついているんだ。もちろん、日本語訳はていねいでとても読みやすいよ。

M:ふむふむ。たしかに読みやすそうだよ。これを読めば僕も賢くなるかな。

J:どうかなぁ。君は食味のところしか読まなさそうだからね。そうだ、頭の良くなるキノコがあったら探してみるといいよ。

М:ああ、こりゃまいったね。その口の悪さが治るキノコも探してみるよ。

(観衆、笑う)

J:さあ、これでこの本がどんなスゴイ図鑑なのかわかったかな?本来、こんなすごい内容の本を日本語訳なんかで出しちゃうと、専門書扱いで大変なお値段になっちゃうんだけど、今回は大まけにまけてのびっくり価格!

なんと!18900円!

さらに今回は、南米原産のキノコ・ガルガルから抽出した成分を元にしたサプリメント、女性の骨の健康を守る「ガルガルガール」のお試しセットもお付けして……

М:(ひじでジョンを小突きながら小声で)ジョン!ちょっと。

J:なに?なんだよ?

М:(二人、後ろを向いて、ひそひそ声で)18900円?むしろ高すぎてビックリだよ。こんなの買ったら女房にお小言もらった上に図鑑を口に突っ込まれて、返品させられちゃうよ。

J:(同じくひそひそ声で)いいんだって、持ち運べばダイエットできるんだから健康にもいいし。それに日本の最大クラス『北陸のきのこ図鑑』は400ページで15000円だったから、650ページでこの値段だったら格安じゃないか。

М:英語の原書が5000円で買えても?

J:シッ!それは内緒!いいね、ビッグマックのタダ券あげるから、今は黙ってて!

(マイク、渋々引き下がる。ふたり正面に向き直る)

さあみなさん。『世界きのこ大図鑑』いかがでしたか?注文をご希望の方はこちらの番号へファックスか電話でお申し込みください。番号にくれぐれもお間違えのないよう。なお、数に限りがございますので、できるかぎり早めの注文をおすすめいたします。

М:さあ、お時間です。今回の「KIN・ショッピングTV」いかがでしたか?

J:ショッピングを通じて、人々に金と奉仕の祝福がありますように!

M&J:それではみなさん、ごきげんよう、さようなら!

(観衆、満場の拍手)


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『世界のきのこ大図鑑』 ピーター・ロバーツ シェリー・エヴァンズ著 斉藤隆央 訳





イラストや縮小写真などで全体像をしめした上で、原寸大キノコを部分的に取り上げるなど、ページレイアウトに工夫がなされている。分布を表わす世界地図がわかりやすい。

ちなみに掲載キノコは分類順に並ぶ。新分類に対応。ただし、ベニタケ目がハラタケ目といっしょになっちゃってるなど、多少の違いはある。あと、たとえばハラタケ類の中での掲載順は、学名のアルファベット順になるので、日本のものとは順番が異なる。

テキストは、一番上に科・分布・発生地・発生環境・生え方・発生度・胞子の色・食毒の一覧表
次にキノコの大きさと、キノコの学名・英語名・あれば和名も(日本語名称のついていないキノコがたくさんある)。さらにメインの解説、類似種との見分け方、小さな文字での形態の解説、と続く。

形態の記述はあまり細かくないので、この図鑑だけでキノコを同定しようと思うとちょっと厳しい。大判のビジュアル系きのこカタログってのが、いちばん近い評価だと思う。



珍菌・キッタリアがある!

冬虫夏草のほか、地衣類まで載ってるのが珍しい。



カンゾウタケ:BEEFSTEAK FUNGUS(ビフテキ茸)
テングタケ:PANTHERCAP(豹の帽子)

などなど、英語名と、その命名理由を読むのがことに楽しい。その解説分はそこはかとないウィットとユーモアを感じさせるもので、このあたりはなにか、欧米に対する言い表せない劣等感を感じてしまったりする。

ニオイオオタマシメジ:FRAGRANT STRANGLER(かぐわしい絞殺者)はすごい名前だ。

あっ!誤植みっけ!  「発生度:まれによく発生する」(どっちやねん)

誤植探し楽しいかも(←まちがった楽しみ方)

和訳はこなれいるし、原文のテイストをうまく表現している(気がする)。ちなみに訳者の斉藤隆央氏は、あのゴルゴ13で有名な漫画家……とはなんの関係もない。