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月刊 きのこ人

【ゲッカン・キノコビト】キノコ栽培しながらキノコ撮影を趣味とする、きのこ人のキノコな日常

『カイエ・ソバージュ I 人類最古の哲学』

2012-09-22 00:39:30 | キノコ本
『カイエ・ソバージュI 人類最古の哲学』 中沢新一

宗教学者・中沢新一が「比較宗教論」の名でおこなった講義をまとめた「カイエ・ソバージュ」シリーズの一冊目。

なんだか小難しそうなテーマとタイトルの人文書だけれど、大学生にわかりやすいように組み立てられた講義をもとにしているので、わりとすんなり読めてしまう。

この本のテーマとするのは「神話」。神話と言えばギリシャやエジプトなどの古代文明に伝わっているもの、という先入観があるけど、ここでいう神話は、それよりもっと古くて、文字による記録を残していないようなもの、世界中で親から子へ口から口へと代々語り継がれてきた「神話のプロトタイプ」とでもいうようなもののことを指す。それは、万物を治める神や国を治める王の存在を権威づけるためといった不純なものではなく、もっと、人間の無意識の混沌から生まれたような、人類最古にして最高の純度を持つ「哲学」のエッセンスを含むものだ、と著者はいう。

「なに言ってんだワケわかんねえよ」という声が聞こえてきそうだけど、意外や意外、その“古”神話の原型を残したまま現代まで生き残っている物語を私たちは知っている。

「竹取物語」と「シンデレラ」。その中でも特にシンデレラ物語を論の中心に据えて、講義が展開されていく。
抽象的なテーマを誰もが知っている物語で解きあかしていくという著者のテクニックは鮮やかで、元になった講義もとてもスリリングなものであったろうな、ということがうかがえる。

まあそれはさておき、本書の終章にはベニテングタケが登場する。

古代インドの宗教儀式でトリップするために用いられた「ソーマ」の原料として有名なキノコと、そのキノコが登場するカムチャッカの神話を引きあいに出し、現代日本でバーチャル世界へ埋没しつつある人の姿を、キノコの誘惑に負けて現実を放りだす神話上の人物になぞらえる、といった内容だ。
神話的世界は、実は日本文化に色濃く残っていて、とりわけサブカルチャーの分野で開花している。ただ、バーチャル空間のように実体をともなわない文化は、ベニテングタケに似てとても危険だ、ということらしい。なんだかすごく説得力があるような……。

このベニテングタケの章以外にも興味深い話がたくさんあるんだけど、この人は文章力や構成力がハンパじゃなくて、読むとその手際にうなってしまう。これはもう学術というより、ちょっとエンターテインメントの世界に入ってるような気すらするが、文化人類学あたりに興味を持つ人にはお勧めの本だ。

B面に続く
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3 コメント

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マルテンサイト千年グローバル (サムライ鉄の道リスペクト)
2024-09-22 20:58:31
最近はChatGPTや生成AI等で人工知能の普及がアルゴリズム革命の衝撃といってブームとなっていますよね。ニュートンやアインシュタイン物理学のような理論駆動型を打ち壊して、データ駆動型の世界を切り開いているという。当然ながらこのアルゴリズム人間の思考を模擬するのだがら、当然哲学にも影響を与えるし、中国の文化大革命のようなイデオロギーにも影響を及ぼす。さらにはこの人工知能にはブラックボックス問題という数学的に分解してもなぜそうなったのか分からないという問題が存在している。そんな中、単純な問題であれば分解できるとした「材料物理数学再武装」というものが以前より脚光を浴びてきた。これは非線形関数の造形方法とはどういうことかという問題を大局的にとらえ、たとえば経済学で主張されている国富論の神の見えざる手というものが2つの関数の結合を行う行為で、関数接合論と呼ばれ、それの高次的状態がニューラルネットワークをはじめとするAI研究の最前線につながっているとするものだ。この関数接合論は経営学ではKPI競合モデルとも呼ばれ、トレードオフ関係の全体最適化に関わる様々な分野へその思想が波及してきている。この新たな科学哲学の胎動は「哲学」だけあってあらゆるものの根本を揺さぶり始めている。こういうのは従来の科学技術の一神教的観点でなく日本らしさとも呼べるような多神教的発想と考えられる。
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科学と宗教の文明論的ダイナミクス (歴史国際政治学関係)
2024-09-22 21:03:08
一神教はユダヤ教をその祖とし、キリスト教、イスラム教が汎民族性によってその勢力を拡大させたが、その一神教の純粋性をもっとも保持し続けたのは後にできたイスラム教であった。今の科学技術文明の母体となったキリスト教は多神教的要素を取り入れ例えばルネサンスなどにより古代地中海世界の哲学なども触媒となり宗教から科学が独立するまでになった。一方でキリスト教圏内でも科学と宗教をむしろ融合しようとする働きにより、帝国主義がうまれた。宗教から正当化された植民地戦争は科学技術の壮大な実験場となり、この好循環により科学と宗教を融合させようというのである。その影響により非キリスト教圏で起きたのが日本の明治維新という現象である。この日本全土を均質化した市場原理社会する近代資本主義のスタートとされる明治維新は欧米などの一神教国が始めた帝国主義的な植民地拡張競争に危機感を覚えたサムライたちが自らの階級を破壊するといった、かなり独創的な革命でフランス革命、ピューリタン革命、ロシア革命、アメリカ独立戦争にはないユニークさというものが”革命”ではなく”維新”と呼んできたのは間違いない。しかしその中身は「革命」いや「大革命」とでもよべるべきものではないだろうか。
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日本人の誇り (ブレイドソウル)
2024-09-22 21:24:36
それにしても古事記はすごいよな。ドイツの哲学者ニーチェが「神は死んだ」といったそれよりも千年も前にイザナミ神についてそうかいてある。この神おかげでたくさんの神々を生まれたので日本神話は多神教になったともいえる。八百万の神々が出雲に集まるのは、イザナミの死を弔うためという話も聞いたことがある。そしてそこから古事記の本格的な多神教の神話の世界が広がってゆくのである。
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