『しっかり見わけ観察を楽しむ きのこ図鑑』 中島淳志・著 大作晃一・写真
お~?また大作さんの白バック写真の図鑑が出とる!前出た『くらべてわかるきのこ』とどう違うねん。大して違わんやろ~( ゚Д゚)
とか思ってましたがスンマセン。ぜんぜん違いましたm(_ _)m
この図鑑を簡潔に表現すると、ズバリこれだ!
≪観察屋さんの観察屋さんによる観察屋さんのためのキノコ図鑑≫
キノコ図鑑はこれまでたくさん出されてきた。いい図鑑ももちろんたくさんある。でもね。それらの図鑑のほとんどが読者層としてどうしても意識しなければいけない人達がいる。それはね、「キノコ狩りはしないけど、見かけたキノコを食べれるかどうかだけ知りたい初心者」だ。
正直言ってそんなに図鑑を読みこんでくれなさそうな人達ではあるが、いわばキノコの無党派層、人数としてはかなり多い。彼らを読者層に取り込めれば売り上げはかなり計算できる。出版する側からすれば、取りこぼしちゃいけないターゲットなのだ。そのために、各図鑑は誰にでもわかりやすいレイアウトや写真を吟味したり、解説に食味やレシピを入れてみたり、いろいろと工夫している。
ところが。これをやるとだいたいみんな似たような内容になっちゃうのよね~。読みやすさを心掛けると無個性になってしまうジレンマ!
そこんところ、この『しっかり見分け図鑑』は違う。もう無党派層なんて無視!ムシムシ!!
≪縦に裂くと基部に黒いしみがあるという特徴がよく知られている。傘と柄の境目につばのような隆起があることも特徴である。発光性も有名だが、微弱なので野外では確認しにくい。食用の「ムキタケ」(p.141)は本種に類似し、しばしば誤食されるが、上に挙げた特徴で識別可能。確実な同定にはグアヤクチンキや硫酸バリニンなどの試薬を用いることができる。≫(ツキヨタケ)
≪形の似たキノコにナギナタタケ(黄色)(p.197)、「ベニナギナタタケ」(橙赤色)(p.197)、「シロソウメンタケ」(白色)などがあるが、色が異なるので間違えることはない。特殊な細胞を持ち、もともと異質といわれてきたが、DNAを使った研究の結果、本種はそれらとは全く異なり、コケの上に発生するハラタケ型のきのこに近縁なグループと判明した(Dentinger&McLaughlin,2006)。≫ (ムラサキナギナタタケ)
どうだ!!
判別に必要な情報をきっちり提示、これを第一としつつも、追加する情報はあくまで「分類」。
学術的にもしっかり裏のとれた、最新の情報だ。だが内容が高度すぎて無党派層には理解不能!(^-^;
さらに!この方針がもっとも色濃く出ているのが「グループのページ」だ。「ヒラタケのなかま」「イグチのなかま」みたいな感じに、キノコの分類グループごとの特徴を数値化、グラフなどで一目でわかるようにしてある、のだが……
なんかよくわかるような……わからんような!!
≪グループごとに形質の陽性尤度比(pLR)という指標を算出しています。pLRが1よりも大きいほど、そのグループに有用な形質といえます。≫
おおう!?漢字が読めん!ようせいゆうどひ??なんかすごい飛び道具が出てきた!
じつはそんなに難しいこと言ってるわけじゃないんだけど、表現がすっごく理系なので、こういうのにアレルギーがある人は近寄らん方がいいかも(笑)
これはきっとアレだ。野球ファンにたとえるなら、ただの野球観戦じゃ飽き足らずに、チームや選手のデータとかランキングとかを見てニヤニヤしてる奴!そういう人に向いてるページだ。
シメジ科やキシメジ科など、まとめ効果がいまひとつあがらないグループもあるけど、意外な発見もある。データ集めに相当な労力がかかったろう。オツカレサマ。
各キノコの解説ページは、かなーり優秀。
◎あるキノコを判別するのに、重要な情報をピックアップ!
野外での生態写真とは別に、傘の上面や下面、柄の基部など、判別に重要なパーツの拡大写真を掲載。重要な特徴は箇条書きにまとめてある。
◎よく似たキノコとの相違点を重視した解説!
あまり図鑑に載っていないマイナーな種類も書いてあるので助かる。顕微鏡で調べるミクロな特徴も重視。
◎キノコ分類の最新情報も盛り込む!
分析技術の発達で毎年のように新しい発見があり、新種発表や変更がつづくキノコ界。新情報はありがたい。
……掲載種309種、美しい写真とメリハリのある構成。アカデミックすぎて読者がついていけない面もあるけど、とりあえず『観察屋さんは買い』で間違いないと思ふ。
ちなみに著者の中島淳志氏は、キノコ最強データベース『
大菌輪』の運営も手掛ける。こちらもよろしければどうぞ。