『役に立たないきのこの本』
嗚呼、なんといさぎよい響きであろうか。
生産性向上!残業削減!働き方改革!おもてなしオリンピック(延期)!!
そんな号令を横耳で聞きながら、しれっと「お役に立てず、すんません(・ω<) テヘペロ」などと言い切ってしまえるその心意気がすがすがしい。
「働きアリの法則」といって、アリのうちの2割がよく働き、6割がふつうに働き、残りの2割はサボっている、というのがあるが、この本の著者はきっと最後の2割に入るであろう。
しかも、その中の50人に1人くらいしかいない、「なんの役にも立たない仕事を全力でやっているアリ」に違いない。
巣の外で砂粒を並べてハチドリの地上絵を作るとか、死んだ昆虫の左の触角の先っぽをコレクションしてるとか、きっとそんなような輩だ。
役に立つのは素晴らしい。しかし、全員が役に立ってはいけない。それは長い目で見ればみんなを疲弊させる上に柔軟さを奪い、創造性をなくしたあげく、マンネリに満ちたカチコチの硬直社会を作り上げてしまうのだ!
今日の訓示は以上!解散!!
・・・あ、ゴメン。キノコ本の紹介だったよね。
『役に立たないきのこの本』 役に立たないきのこ(三橋憲行+三橋こずえ) 著
手編みの創作きのこニットの奥さんと、キノコ撮影の旦那さん、ハイレベルなキノコ夫婦が二人三脚で作り上げた非・図鑑?エッセイ?のちょっとアラカルト的な??本。
身近なものから、なかなかお目にかかれないものまで、とがった個性を持つ約50種のキノコを写真と手編みニットで紹介するという斬新な内容。
しかも図鑑として使うことを初めから放棄して、見てて不思議に感じたこととか、どうしても気になることとか、鑑賞するときのイチ押しポイントとか、どうでもいいことに特化したスバラシイ構成だ。さすが働かないアリの鑑。
そして、表紙がよりによってハエのたかるカニノツメっていうのを見てもわかる通り、そのキノコのセレクションは通なラインナップである。
ズキンタケやスエヒロタケといった渋~いものから、ドングリキンカクキンみたいなマニアックなもの、さらにタマハジキタケとかチャダイゴケとか、トリッキーな形のものまで。
ムラサキナギナタタケやクモタケあたりまでくると、これをわざわざ毛糸で編むことにどんな意義があるのか、真剣に悩んで日が暮れてしまいそうだ。
しかし、ギャラリーのそんな疑問もどこ吹く風。
手を抜かない手編みキノコは、細部の工夫までおさおさ怠りがない。
マントカラカサタケのツバを、本物と同様に可動性にしたり、スッポンタケの卵の割れ目から見える寒天質を表現したり。
カニノツメを訪れたハエやクモタケに寄生されたクモまで編んでいるのに至っては、感激のあまり涙があふれそうです( ;∀;)
その手編みキノコの背景を飾るジオラマ風のセットも、100円ショップでそろえた感満載の庶民的な雰囲気にもかかわらず、発生環境を可能なかぎり再現したステキなもので、展示館に陳列するべく、国立科学博物館にアポを取りたくなること請け合いだ。
キノコそれぞれの特徴をきっちりとらえている写真も侮れない。写真だけでも充分に鑑賞にたえる、きのこ愛あふれた作品だと思うのだが、それに加えて、ニットのキノコと本物のキノコを見比べて「いやー。ここがいま一つ表現できてないねえ」「そう!ここ!ここが似てる!!」とか言って楽しめるというのは、なかなか他のキノコ本では無いことだろう。
さらに、『科学的な裏付けや正確性もほとんどありません』と言いながら書かれている、ちょっとすっとぼけたような本文も、実はつぶさな観察と的確なリサーチに裏付けられたものであることが透けて見えるから油断ならない。
「能ある鷹は爪隠す」。この本を読むとき、我々はそれを心せねばなりませんなぁ、ゴッホン。
そのコンセプト、デザイン、クオリティ、どれをとっても独創性に溢れた価値ある一冊は、じつは自費出版で、ごく限られたルートでしか入手できないという・・・。
欲しいという方は、
ネットショップ「役に立たないきのこ」へどうぞ。
もしおヒマがあればWebサイト
『役に立たないきのこの写真帖』にも足をお運びあれ。
ページ一例。右に写真、左に編みぐるみ、下に文章の構成。お互いが邪魔しないすっきりとしたレイアウトが読みやすい。
なんかこの本の編みぐるみ見てると、普通のキノコ型キノコがすごく物足りなく見えてくるのは気のせいだろうか。作成者の気合いが違う!?
『作り方のヒント』にこだわりが詰まっていて面白い。