月刊 きのこ人

【ゲッカン・キノコビト】キノコ栽培しながらキノコ撮影を趣味とする、きのこ人のキノコな日常

『大地の五億年』

2022-08-14 09:59:22 | キノコ本

『大地の五億年 せめぎあう土と生き物たち 藤井一至 著

地球には最初、土がなかった。

こう聞いて「えっ?」って思わなかった?
もちろん砂や石や岩なら最初からあった。でも、それらは土とは呼べない。土は、生き物のはたらきを通して初めて作られるものだからだ。

光を浴びてエネルギーを作る技をあみ出した植物が、そのエネルギーから酸を作り出して、足もとの岩をちょっとずつ溶かす。これを吸収して大きくなり、子孫を残し、死ぬ。彼らの遺骸は朽ちて消えるが、それでもカスが残る。それが何千年、何万年と積みあがったものが、土だ。

大地の隆起や浸食、氷河期や火山活動といった地球の壮大な動きに翻弄されながらも、植物と動物とが途方もない時間を積み上げてつくってきた土。この本ではその五億年にわたる歴史を、現在の世界各地で見られる地層から読み解いていく。

物理・地学・生物・化学。理科の知識を総動員して見えてくる土の姿は、じつは人間の歴史や文化を大きく左右してきたことを教えてくれる。知の総合競技とも言える「土」の探求は、その地味さに反して、とてもエキサイティングだ。

さて、この土の歴史において、実は菌類も大きな役割を担っている。

まず、地球で最初の土を作ったのが、菌類の一種、地衣類だ。

シダ植物が巨木の森林をつくったとき、その枯れ木を分解したのがキノコだ。彼らのおかげで地球史上空前の便秘(笑)は解消された。

現在アジアの熱帯雨林にみられるような巨木の森林を支えるのもキノコである。菌根菌は植物のパートナーだ。

これらの働きがいまの地球を作ったといっても過言ではない。
大事なのは、今の生態系が最初からこの形だったわけじゃない、ってこと。必要に応じて空白を埋めていった菌類の力が、地球全体の生態系に安定をもたらしたのだ。

大規模農業、森林破壊、砂漠化、温暖化。いま現在、人間の活動が地球の環境に大きな変化をもたらしている。果たして人間はキノコのように「空白を埋める何か」になることはできるのだろうか。

現代の人間がかかえる問題を解き明かすためにも、土とその成り立ちを知ることは有意義だし、何より面白い。ユーモアもまじえ、軽いタッチでそれを伝える著者のこの本は、まさに「空白を埋めるいい仕事」だと思う。

この記事の写真の新書バージョンはいま入手が難しいが、つい最近、加筆された文庫バージョンが刊行されたので、興味のある方はそちらをどうぞ。


『散歩道の図鑑 あした出会えるきのこ100』

2022-07-19 02:05:04 | キノコ本
『散歩道の図鑑 あした出会えるきのこ100』新井文彦 著
 
写真図鑑の老舗、山と渓谷社から新シリーズがリリース!『散歩道の図鑑』登場!
 
図鑑のシリーズとなれば、王道としては虫・鳥・魚・獣、野草に樹木と来て、あとは貝とか海洋生物、爬虫類両生類あたりが出る頃にようやくキノコも出るかな〜って感じなんだけど。
 
このシリーズでは『鳥』と『雑草の花』に次ぐ、堂々3冊目での刊行でアリマス!バチパチパチ。
 
まあ『散歩道で出会える』と銘打つ以上、海洋生物は除外だし、獣はそもそも出会わないし、って事情はあるとしても、虫や樹木に先んじての刊行はちょっと嬉しい(^_^)
 
さて、『あしたの散歩が、今日よりもっと楽しくなる』がキャッチフレーズのこのシリーズは、もっとも身近な100種類をよりすぐって掲載する、初心者専用がモットーだ。
 
右も左も分からない初心者にとっては、例えば1000種類載ってる大図鑑よりも、身近な種類にしぼりこんだ100種類の方がずっと手頃で扱いやすい。目のつけどころがさすがヤマケイやね。
 
さて内容はというと。
 
文章はキノコ写真家の新井文彦さん。
新井さんと言えば『ほぼ日』での軽妙なきのこコラムのイメージがあるんだけど、今回は意外に硬派。種類の見分け方や学術的な話などに多く紙面が割かれている。
 
これはもしかしたらシリーズ図鑑としての統一方針なのかも。しかし、説明がややこしいキノコを『初心者にわかるように、ソフトに正しく、450文字くらいで書いて!あ、もちろん面白くねっ!』って、かなりの無茶ぶりである。
 
1種類につき見開き2ページの紙幅があるとは言え、これは欲張り。新井さんも「え〜、窮屈すぎる!」とか思ったかもしれない。文章はことごとくカツカツのピッチピチだ。
 
それにしても100種類のセレクションが良い。自分が選んでも近いものになるだろうという定番のメンツばかりだ。
 
欲を言えば公園キノコのチチアワタケニオイワチチタケニョロニョロや、芝生キノコのキコガサタケシバフタケスミレホコリタケあたりが欲しかった(などと無理を言ってみる)。
それらとは別に、話題になるような派手なキノコやおいしいキノコはコラムで取り上げるなどしてバランスを取っているようだ。
 
全体として、写真の質が高いのは言うに及ばず、文章もいい。ポップな軽さこそ無いものの、初心者に理解できるように努めていることが感じられ、好感が持てる内容だ。
 
「時々キノコを見かけて気になってるんだけど、わざわざ図鑑買ってまで調べるのはちょっと・・・」という人でも、この本なら薦められるかもしれない。
 
図鑑とも言えるし読み物とも言える、その良い意味での中途半端さが取り柄の一冊だと思う。

役に立たないきのこの本 写真×編みきのこ

2020-08-12 12:48:07 | キノコ本
『役に立たないきのこの本』
嗚呼、なんといさぎよい響きであろうか。

生産性向上!残業削減!働き方改革!おもてなしオリンピック(延期)!!

そんな号令を横耳で聞きながら、しれっと「お役に立てず、すんません(・ω<) テヘペロ」などと言い切ってしまえるその心意気がすがすがしい。

「働きアリの法則」といって、アリのうちの2割がよく働き、6割がふつうに働き、残りの2割はサボっている、というのがあるが、この本の著者はきっと最後の2割に入るであろう。
しかも、その中の50人に1人くらいしかいない、「なんの役にも立たない仕事を全力でやっているアリ」に違いない。
巣の外で砂粒を並べてハチドリの地上絵を作るとか、死んだ昆虫の左の触角の先っぽをコレクションしてるとか、きっとそんなような輩だ。

役に立つのは素晴らしい。しかし、全員が役に立ってはいけない。それは長い目で見ればみんなを疲弊させる上に柔軟さを奪い、創造性をなくしたあげく、マンネリに満ちたカチコチの硬直社会を作り上げてしまうのだ!
今日の訓示は以上!解散!!

・・・あ、ゴメン。キノコ本の紹介だったよね。

『役に立たないきのこの本』 役に立たないきのこ(三橋憲行+三橋こずえ) 著

手編みの創作きのこニットの奥さんと、キノコ撮影の旦那さん、ハイレベルなキノコ夫婦が二人三脚で作り上げた非・図鑑?エッセイ?のちょっとアラカルト的な??本。

身近なものから、なかなかお目にかかれないものまで、とがった個性を持つ約50種のキノコを写真と手編みニットで紹介するという斬新な内容。
しかも図鑑として使うことを初めから放棄して、見てて不思議に感じたこととか、どうしても気になることとか、鑑賞するときのイチ押しポイントとか、どうでもいいことに特化したスバラシイ構成だ。さすが働かないアリの鑑。

そして、表紙がよりによってハエのたかるカニノツメっていうのを見てもわかる通り、そのキノコのセレクションは通なラインナップである。

ズキンタケやスエヒロタケといった渋~いものから、ドングリキンカクキンみたいなマニアックなもの、さらにタマハジキタケとかチャダイゴケとか、トリッキーな形のものまで。
ムラサキナギナタタケやクモタケあたりまでくると、これをわざわざ毛糸で編むことにどんな意義があるのか、真剣に悩んで日が暮れてしまいそうだ。

しかし、ギャラリーのそんな疑問もどこ吹く風。
手を抜かない手編みキノコは、細部の工夫までおさおさ怠りがない。
マントカラカサタケのツバを、本物と同様に可動性にしたり、スッポンタケの卵の割れ目から見える寒天質を表現したり。
カニノツメを訪れたハエやクモタケに寄生されたクモまで編んでいるのに至っては、感激のあまり涙があふれそうです( ;∀;)

その手編みキノコの背景を飾るジオラマ風のセットも、100円ショップでそろえた感満載の庶民的な雰囲気にもかかわらず、発生環境を可能なかぎり再現したステキなもので、展示館に陳列するべく、国立科学博物館にアポを取りたくなること請け合いだ。

キノコそれぞれの特徴をきっちりとらえている写真も侮れない。写真だけでも充分に鑑賞にたえる、きのこ愛あふれた作品だと思うのだが、それに加えて、ニットのキノコと本物のキノコを見比べて「いやー。ここがいま一つ表現できてないねえ」「そう!ここ!ここが似てる!!」とか言って楽しめるというのは、なかなか他のキノコ本では無いことだろう。

さらに、『科学的な裏付けや正確性もほとんどありません』と言いながら書かれている、ちょっとすっとぼけたような本文も、実はつぶさな観察と的確なリサーチに裏付けられたものであることが透けて見えるから油断ならない。
「能ある鷹は爪隠す」。この本を読むとき、我々はそれを心せねばなりませんなぁ、ゴッホン。

そのコンセプト、デザイン、クオリティ、どれをとっても独創性に溢れた価値ある一冊は、じつは自費出版で、ごく限られたルートでしか入手できないという・・・。
欲しいという方は、ネットショップ「役に立たないきのこ」へどうぞ。

もしおヒマがあればWebサイト『役に立たないきのこの写真帖』にも足をお運びあれ。



ページ一例。右に写真、左に編みぐるみ、下に文章の構成。お互いが邪魔しないすっきりとしたレイアウトが読みやすい。
なんかこの本の編みぐるみ見てると、普通のキノコ型キノコがすごく物足りなく見えてくるのは気のせいだろうか。作成者の気合いが違う!?

『作り方のヒント』にこだわりが詰まっていて面白い。

『ほなまた』

2020-02-04 12:26:10 | キノコ本
『ほなまた』 こしだミカ著

濃ゆい絵がらのキノコ絵本。
妙に人間味のある動物たちが、地面からにょきにょき生えるキノコを見つけて目を輝かせる。
食べ物として天然キノコを扱いつつ、生き物としての側面にも触れているという純度の高いキノコ本。


動物のメンツはイノシシ・サル・モモンガ・ハエ。獣だけかと思ったら、なぜかハエっていうのが(笑)
でもこのハエの描かれ方がとてもよい。表情まで伝わるようだ。
他の獣たちも挙動や表情が豊かで、なにやらオジサンくさい。イメージ的にイノシシはバブル期のモーレツオヤジ、サルは蘊蓄オジサン?


キノコ(菌根菌)が胞子から発芽して木の根っこに向かって菌糸を伸ばすの図。
学術的だな。こういうのはなかなか珍しく、理系男子としては嬉しいところ。

枯れ木の樹皮をモザイク風に一枚ずつ色を描き分けていたり、背景のあちらこちらで小動物が躍動していたりと、地味な里山にも豊かさがあることを伝えてくれる。
また、そういう細かい部分ももちろんだが、目力の強い獣や人物の造形にもついつい目を奪われる。現代風のカワイイとかには程遠いが、気に入る子供も多いだろう。少なくとも私は好きだ。

文章はそれほど多くなく、3歳くらいから読めそうだが、小学生低学年くらいでも楽しめるハズ。




『ラムネ氏のこと』

2020-01-26 22:46:22 | キノコ本
『ラムネ氏のこと』  坂口安吾 著

『ラムネ氏のこと』は坂口安吾による随筆。ごく短い。青空文庫で無料で読めるので、読みたい方はこちら

【以下ネタバレ】
話は他愛もない話題から始まる。夏まつりの縁日とかに売られているラムネ。あのシュワシュワと冷たくて甘いヤツ。あの瓶のビー玉を発明したのは誰だろうかと。
ビー玉が入り口を見事にふさぐから、飲みかけでも炭酸が抜けずに済む。それはそれで大した発明かもしれないが、それを見出すために一生涯を費やした者がいたとしたなら、滑稽じゃないか、と。

いや待て。およそ世の中にある物は、多かれ少なかれ、そのような犠牲のもとに成り立っているかもしれぬと、坂口安吾は思いを巡らす。

たとえばキノコだ。
キノコを食するという行為もまた、毒による中毒があるゆえに犠牲なくしては語りえない。
坂口本人は、山奥の宿泊先で出された得体のしれないキノコ料理を『幾度となく茸に箸をふれようとしたが、植物辞典にふれないうちは安心ならぬといふ考へ』で、まったく食べることができなかった。

これは私の目から見てもまったく聡明な判断だと思うが、しかし安吾はこうも思う。
『私のやうに恐れて食はぬ者の中には、決してラムネ氏がひそんでゐないといふことだ。』

つまり、己の生涯を犠牲にしてまで新しい知見や発明を手に入れようとする者にしか、ものの在り方は変えられない、と。
それがたとえラムネのビー玉のように他愛のないことであっても、我々は敬意を表するべきなのだろう。
【要約終わり】


身につまされる話だ。私自身も、食えるかどうか判然としないキノコを幾度か食べたことがある。
べつに無一文というわけでもなし、今どき100円も出せば安全でおいしいキノコなぞどこでも買うことができる世の中である。
わざわざ危険を冒してまで、しかもたいして美味しくないキノコを食べることに、いったいどんな意味があるというのか。

理屈で考えれば、褒められるべきことなど何もない。無意味、阿呆。まったくもってその通りだと思う。でもね。それだけじゃない、それだけじゃないんだ。

私たちはできるだけ合理的にふるまう。むろん計算を間違えたり、感情的になってしまったりして不合理な決断を下してしまうことだってあるが、とりあえず損はしたくないし、なるたけラクをして、たくさんの利益を得たい。
たとえば高性能なAIを作って、決定をすべてそいつに委ねれば、人はつねに合理的な判断を下せるようになるだろう。そしたら絶対損しない。

でも、それって。人間やってる意味なくない?あなたがあなたである意味なくない?
完全に合理的な判断に身をゆだねた途端、あなたは取り換え可能な社会の部品に成り下がる。飯食って寝てCO2と糞尿を排出して。生まれて死ぬまで。それだけの機械だ。

だからね、私たちは人間であり続けるために、できるだけ不合理なこともしなくちゃならないのさ。

ということで!そう、ラムネ!ラムネを飲みましょう!!
そしてビー玉をどうにかして取り出せないものかと瓶をガラガラ振りませう!!

『ダンジョン飯』

2020-01-14 22:37:17 | キノコ本
以前こちらで紹介した漫画『ダンジョン飯』が、キノコネタで溢れかえってきたのであらためて紹介!

『ダンジョン飯』(九井諒子著)は、迷宮ロールプレイングゲーム(ダンジョンRPG)の世界を舞台にしたファンタジーグルメ漫画。

◎地下迷宮でドラゴンにより全滅寸前に追い込まれたライオスの一行。だがライオスの妹・ファリンが命と引き換えに脱出魔法を唱え、どうにか地上に戻ることができた。ドラゴンに食われてしまった妹をどうにか蘇生させたいライオス。しかし、再び地下に潜るには食糧が足りなかった。ついでに言えば、時間もなければお金もない!そこでライオスは苦肉の策として、突拍子もないアイディアを提案する・・・それは自給自足!魔物を料理して食べながら進む!!

見よ!めくるめく魔物グルメの世界が、いまここに花開く!


・・・今回、きのこリッチなのは7巻と8巻。

7巻では、円を描くようにして生えるキノコの『菌輪』が登場している。
このキノコ、ただのエリンギのようにしか見えないが、実はキノコではなくキノコの形をした魔物なのだ。チェンジリングと呼ばれるこの輪をくぐると、その人(あるいは生き物)は別の種族(近縁種)に変身してしまうという。たとえば人間がドワーフに、ドワーフがエルフに。さまざまな架空の種族が暮らすファンタジー世界で活躍する面白いモンスターだ。

おーい、思いっきり踏んづけてるぞー。

作中でも触れているとおり、これは『取り替え子』伝承をふまえたネタだろう。ヨーロッパには、『妖精(フェアリー)によってかわいい子どもが醜い子どもと取り換えられてしまうことがある』という言い伝えが存在する。


「取り替え子」の英訳もまさしくchangeling(チェンジリング)。でも、輪っかの英語スペルはringだから、LとRのリング違い!当然、チェンジリングという名前の輪っかも言い伝えには出てこない。この漫画で具体的な「リング」が出てくるのは、作者による自由な連想だろう。でもその輪っかに、あえてキノコの菌輪(フェアリーリング)を選んだのはお見事と言うしかない。フェアリーつながり!!


8巻では、『歩きキノコ』が大量発生!
表紙も見事に無数のキノコで彩られているぞ!あ、アミガサタケめっけ~


歩き茸は本作中の最弱モンスター。もちろん食材にもなるぞ。種類がいっぱい・・・やっぱり「歩き茸図鑑」とかあるんだろうか。


さらに巨大歩き茸出現!肉厚でバランスのとれた傘のふちに被膜があるからハラタケ系っぽい雰囲気。


こっちもいいねえ。右はヒダが粗すぎるけどドクササコがモチーフ??だとすると左はシビレタケ系かもしれない。


緊迫してるはずなのに妙にゆるい戦闘(どっちかというと狩り)とか、ほんわかとした調理&食事シーンとか、過酷で危険な道中を楽しそうに行くのが「ダンジョン飯」的ドラゴンクエスト。
さらに地下迷宮の魔物を生物学的に解釈するSFテイスト、これが病みつきになる。魚人の生態サイクルとかミノタウロスのメスとか!
『ダンジョン飯』は漫画誌『ハルタ』にて好評連載中。今回はキノコばかり紹介しちゃったけど、ストーリー展開も目が離せないぞ!




 




小学館の図鑑NEO きのこ

2019-09-24 23:49:45 | キノコ本
『小学館の図鑑NEO きのこ』

学校の図書館でもおなじみ小学館の図鑑NEOシリーズから2017年に『きのこ』が登場!

昆虫、動物、鳥、魚、恐竜・・・これら定番中の定番に比べると、マイナーな上に扱いが難しいキノコは子供向け図鑑からながらく避けられ続けていた。だが今回、NEOシリーズのリニューアルを機にとうとう出版。祝!\(^_^)/

しかし、子供向けと言いつつその作りこみがハンパじゃない。

掲載種数は今まで出版されている平均的な図鑑をかるく凌駕する約700種!
キノコ撮影の第一人者・大作晃一さんの白バック写真をメインに、色鮮やかな生態写真もてんこ盛り!
近年の分子生物学的な分析を用いた最新分類にも対応していて!
しかも他の図鑑に載ってないような新種の珍しいキノコがしれっと載っていたりする!

・・・たしか『三歳から高学年まで』が売り文句だったと思うんだが。


バカモノー!!

オトナでも十分使えるわい!いやむしろ子供にはもったいない!横取りしてでもワシが使うわい!

ハァハァ、ちと大人げなかったか。え?なに?それだけじゃないだと!?


キター!!
ドラえもんのきのこDVDがついとるやないかい!!


みんながおなじみ、ドラえもんとのび太が、さまざまな林ごとに生えるキノコを探索する形式で数十種を紹介。キノコの生長の微速度撮影や、胞子を飛ばす映像など、これまた盛りだくさんの40分!

大盤振る舞いにもほどがある。完全なるオーバースペック!金魚を解体するのにエクスカリバー使う、的な!
これで税抜き2000円だから必携どころか、買ってから近所に配らないといけないレベルだな。



白い背景に美しいキノコ写真がずらりと並べられ、必要があるものは幼菌や傘の裏、断面などもわかるようになっている。また、そのすき間をう埋め尽くすようにキノコの生態写真や豆知識コラムが。かなりの情報量だ。


分類にはけっこうこだわって作ってある。最新の分類は複雑で、多少勉強した大人でも説明が難しいが、それでもできるかぎりかみ砕いて説明しようとする工夫が見てとれる。

なお、各キノコの解説は最低限なので、自分のような観察屋さんが実用で使うにはさすがに物足りない。当たり前か(^-^;
きのこ初心者が最初の一冊として使う分にはじゅうぶんに役立ってくれるだろう。観賞用とし眺めるだけでも満足できる仕上がりだしね。

ただ、子どもが使うにはいささか情報過多な気がしなくもない。まあ今どきの子供は情報処理能力が高そうだし、自分の気に入ったとこだけ見ればいいんだから、どうにでもなるか。

『冬虫夏草』

2019-06-30 01:41:43 | キノコ本
『冬虫夏草』 梨木香歩 著

《こうも雨が続くと、さすがに散歩も億劫になる。机の前に端座して、原稿の進み行きもおぼつかぬまま、じわじわと湿気が、ついに皮膚の内側にまで及んだ、と感覚された。すると、肘の側のほくろが、俄にもぞもぞと動いた。そして見る間に立ち上がり、虫となって歩み去った。ほくろでいることに飽いたのだろうか。》(引用終わり)

ひと昔前の京都の町はずれ、疎水沿いの古い家屋を舞台に、自然の動植物に混じってもののけたちが立ち現れては消えていく、非現実的なはずの日常が、ごく自然にさりげなく描かれた小説『家守綺譚』の続編、『冬虫夏草』。

キノコ的だとして以前紹介した小説の続編のタイトルが、くしくもキノコそのものになろうとは。


駆け出しの小説家である主人公・綿貫は、今は亡き親友から古い家をあずかってひとりで暮らしている。この家の周りでは、妖怪だったり、あるいは動物が人間に化けたりしたものがよく出没するのだが、周囲の人々や、そして彼自身も、そのことをあまり気にかけることはない。
そんな中で、飼い犬・ゴローが姿をくらましてしまった。こころもとない目撃情報や手がかりを頼りに、彼は鈴鹿の山中にゴローを探す旅に出かけることを決意する。
滋賀の能登川の駅に降り立った彼の向かう先には、川のほとりで彼らなりの暮らしを生きる素朴な人々が居り、そしてやはり、そのまわりに立ち現れては消える、動物やもののけの姿があるのだった。


前作は、疎水沿いの家屋の周囲だけに終始した閉じられた物語であったが、今回は世界が広がり、近江から三重につながる古道「八風街道」を行くことになる。
こう書くとそれなりのストーリーがあるように思われるが、その実、この小説にストーリーらしきストーリーはない。

いくらかの個性的な登場人物にくわえ、カッパやら天狗やら竜やらイワナやら、たしかに非現実的なキャラクターも登場するし、それなりのドラマがあったりもする。
しかしそれでいて、その道中の奇妙さが強調されることも無い。ただ淡々と、主人公の道行きがつづられていく。
それどころか終いの方では、だんだん人間ともののけの差がわからなくなってきて、なんだかぼんやりしている。

これでいいのか?これでいいのだ。


作中、タイトルの『冬虫夏草』が活躍する場面はほとんどない。
序盤に「サナギタケ」と題した章が数ページあるのみだ。
それでもタイトルに冬虫夏草をすえたことに、作者の真意を見ることができる。

冬虫夏草は、虫が生きたまま菌類に侵されることで、はた目には動物とも植物ともつかない生態をとる。
この作品でタヌキやイワナが人間に化けたりするのと同じように、その姿は柔軟で形にとらわれない。
かつて我々が暮らす世界では、科学的な知識もなく、もっと世界が曖昧だった。
そこでは木や石や山が神だったり、霊性を持ったりしていた。たとえそこに証拠や実益などなくとも、彼らにとって、それは確かに存在したのだ。
それを信じることで、たとえ物質的には貧しくとも、限られた自然の恵みを分かち合い、病や災害などを耐え、精神的には豊かな暮らしを営むことができた。

合理性と経済性にしばられて身動きの取れなくなった私たち現代人を自由にしてくれるものがあるとしたら、それはさらなるイノベーションとか解決策とか、あるいは自己実現とかでもない。
それを与えてくれるのは、たとえばサナギタケが見せるような自然を生きる動植物たちが持つ柔軟さ、形を持つようで持たない生き方そのものにあるのではなかろうか。


・・・なにやら小難しいことを書いてしまったなー。
思想とか信条とかはさておき、この作品、古い近江地方を歩いて旅してるような感覚になる紀行文としてだけでも充分に楽しむことができる。
美しい自然や風物、人々の習俗や方言が詰まった旅路は、それだけで心を解放してくれる。




『しっかり見分け観察を楽しむ きのこ図鑑』

2018-04-03 23:22:26 | キノコ本
『しっかり見わけ観察を楽しむ きのこ図鑑』  中島淳志・著  大作晃一・写真

お~?また大作さんの白バック写真の図鑑が出とる!前出た『くらべてわかるきのこ』とどう違うねん。大して違わんやろ~( ゚Д゚)

とか思ってましたがスンマセン。ぜんぜん違いましたm(_ _)m


この図鑑を簡潔に表現すると、ズバリこれだ!

≪観察屋さんの観察屋さんによる観察屋さんのためのキノコ図鑑≫


キノコ図鑑はこれまでたくさん出されてきた。いい図鑑ももちろんたくさんある。でもね。それらの図鑑のほとんどが読者層としてどうしても意識しなければいけない人達がいる。それはね、「キノコ狩りはしないけど、見かけたキノコを食べれるかどうかだけ知りたい初心者」だ。

正直言ってそんなに図鑑を読みこんでくれなさそうな人達ではあるが、いわばキノコの無党派層、人数としてはかなり多い。彼らを読者層に取り込めれば売り上げはかなり計算できる。出版する側からすれば、取りこぼしちゃいけないターゲットなのだ。そのために、各図鑑は誰にでもわかりやすいレイアウトや写真を吟味したり、解説に食味やレシピを入れてみたり、いろいろと工夫している。

ところが。これをやるとだいたいみんな似たような内容になっちゃうのよね~。読みやすさを心掛けると無個性になってしまうジレンマ!

そこんところ、この『しっかり見分け図鑑』は違う。もう無党派層なんて無視!ムシムシ!!

≪縦に裂くと基部に黒いしみがあるという特徴がよく知られている。傘と柄の境目につばのような隆起があることも特徴である。発光性も有名だが、微弱なので野外では確認しにくい。食用の「ムキタケ」(p.141)は本種に類似し、しばしば誤食されるが、上に挙げた特徴で識別可能。確実な同定にはグアヤクチンキや硫酸バリニンなどの試薬を用いることができる。≫(ツキヨタケ)

≪形の似たキノコにナギナタタケ(黄色)(p.197)、「ベニナギナタタケ」(橙赤色)(p.197)、「シロソウメンタケ」(白色)などがあるが、色が異なるので間違えることはない。特殊な細胞を持ち、もともと異質といわれてきたが、DNAを使った研究の結果、本種はそれらとは全く異なり、コケの上に発生するハラタケ型のきのこに近縁なグループと判明した(Dentinger&McLaughlin,2006)。≫ (ムラサキナギナタタケ)

どうだ!!

判別に必要な情報をきっちり提示、これを第一としつつも、追加する情報はあくまで「分類」。
学術的にもしっかり裏のとれた、最新の情報だ。だが内容が高度すぎて無党派層には理解不能!(^-^;


さらに!この方針がもっとも色濃く出ているのが「グループのページ」だ。「ヒラタケのなかま」「イグチのなかま」みたいな感じに、キノコの分類グループごとの特徴を数値化、グラフなどで一目でわかるようにしてある、のだが……


なんかよくわかるような……わからんような!!

≪グループごとに形質の陽性尤度比(pLR)という指標を算出しています。pLRが1よりも大きいほど、そのグループに有用な形質といえます。≫

おおう!?漢字が読めん!ようせいゆうどひ??なんかすごい飛び道具が出てきた!

じつはそんなに難しいこと言ってるわけじゃないんだけど、表現がすっごく理系なので、こういうのにアレルギーがある人は近寄らん方がいいかも(笑)

これはきっとアレだ。野球ファンにたとえるなら、ただの野球観戦じゃ飽き足らずに、チームや選手のデータとかランキングとかを見てニヤニヤしてる奴!そういう人に向いてるページだ。

シメジ科やキシメジ科など、まとめ効果がいまひとつあがらないグループもあるけど、意外な発見もある。データ集めに相当な労力がかかったろう。オツカレサマ。



各キノコの解説ページは、かなーり優秀。

◎あるキノコを判別するのに、重要な情報をピックアップ!
野外での生態写真とは別に、傘の上面や下面、柄の基部など、判別に重要なパーツの拡大写真を掲載。重要な特徴は箇条書きにまとめてある。

◎よく似たキノコとの相違点を重視した解説!
あまり図鑑に載っていないマイナーな種類も書いてあるので助かる。顕微鏡で調べるミクロな特徴も重視。

◎キノコ分類の最新情報も盛り込む!
分析技術の発達で毎年のように新しい発見があり、新種発表や変更がつづくキノコ界。新情報はありがたい。


……掲載種309種、美しい写真とメリハリのある構成。アカデミックすぎて読者がついていけない面もあるけど、とりあえず『観察屋さんは買い』で間違いないと思ふ。


ちなみに著者の中島淳志氏は、キノコ最強データベース『大菌輪』の運営も手掛ける。こちらもよろしければどうぞ。








『御松茸騒動』

2017-11-29 21:44:21 | キノコ本
『御松茸騒動』 朝井まかて 著

榊原小四郎は名家として名高い徳川御三家のひとつ、尾張藩の藩士。今は江戸の藩邸に勤める下っぱだが、頭脳には自信がある。いつかは重臣へのし上がろうと意欲に燃えていた。
けれども小四郎は人づきあいが苦手。職場での無能な上役とのやりとりや、家での人づきあいにいつもうんざり。そんなある日、彼は家老に呼び出された。
新しい役目をたまわるというのだ。ところが・・・

『御松茸同心を命ずる』

家老が告げたのは予想だにしない役回りだった!
江戸から尾張に引っ越してマツ山を巡察、マツタケの増産が任務?しかも同心といったらヒラ同然、要するに左遷じゃないか!そもそも松茸ってどうやって育てるのよ!?

……無気力がはびこる職場、慣れぬ山での力仕事、そしてボロボロになっても守らねばならん松茸ノルマ。
職場では産地偽装が日常茶飯事になっており、それがまた生真面目な小四郎のいらだちを募らせる。直談判すると立場がさらに悪くなり・・・

はたして松茸の増産は可能なのか?小四郎に出世の目は残ってる?マツタケ山を舞台に、地に足のつかない若者が駆けずり回る「江戸時代お仕事小説」!!



これは珍しい時代劇キノコ小説『御松茸騒動』。
コミカルに仕立ててあるおかげか、300ページ弱もあるのを一気に読み通してしまった。

以下引用
≪とにもかくにも二千本の御用は果たせた。久しぶりに味わう達成感が、ごくりと生唾を呑み下させる。いや、そんなことはどうでもいい。俺はたぶん、喰いたい。そう、己の手で掘り取った御松茸を喰ってみたい。
「では、御免」
頭からかぶりつくとしゃきりと音がした。熱い汁が舌を焼くが、そのまま咀嚼する。七年物の漬松茸とは段違いの歯応えだ。
何なんだ、これ。
思わず目を閉じた。味はよくわからない。だが、噛むたびに秋の山の匂いが口の中に広がる。まるで、香りを束ねて喰らっている感覚だ。歯触りも、他のどんな喰い物にも似ていない。≫


……松茸を収穫し、食べたときの体験が描かれたこの一節。当時としても至宝の高級キノコを自分の手で掘り取り、それを食べたときの驚きと幸福感がにじみ出るような描写になっている。
主人公の小四郎も「たかが松茸」と小馬鹿にしていたのがこの時に一変、何かに憑りつかれたように松茸増産という難題に向き合うことになる。

豊作不作の予測がつかない、松のまわりに輪をえがくように生える、動物はもちろん植物とも異なる、謎に包まれたマツタケ。その生態を謎解きしながら進むストーリーはミステリー小説としても楽しめる……かもしれない。


そしてこの小説、松茸とともにもうひとつストーリーの柱がある。それは江戸時代の武家の経済事情だ。

時代は徳川吉宗が改革を取り仕切ったあと。幕府財政の再建はいちおう成功を収めたものの、経済の引き締めによって世間は不景気まっただなか。なかでも小四郎が仕える尾張藩は、さらにいろいろな事情で大赤字を抱えていたんだけど、その実情が情けないというか、なんというか……。
一度増やすと削れない予算、リストラできない余剰人員、見栄最優先の形式主義、くわえることに縦割り行政……って、なんかどこかで聞いたような!?

バブル経済からの失われた20年、前例を踏襲するだけの無能なサラリーマン、旧来の人づきあいに馴染まないドライな若者、派閥闘争、産地偽装……他にも現代社会に通じるさまざまな味付けをしてるのがポイント高い。しがらみだらけの中、悪戦苦闘しながら成長していく小四郎にも注目してほしい。


……丹念に描きこまれた時代背景の中、お仕事に励むサラリーマン侍を縦糸、マツタケの奥深さを横糸にして、織りなされたストーリにさらに尾張方言を大量にトッピングしたのが、この『御松茸騒動』なのだ。そんなん読まなあかんに決まっとるがね~!!








おすすめキノコ図鑑まとめ

2017-05-26 20:38:07 | キノコ本
図鑑もふくめ、キノコ本の紹介をたくさん紹介してきたけど、「どんな図鑑がおススメ?」みたいな文章は書いたことがなかったな。
ちょっとまとめてみたぞ。

私もすべての図鑑を網羅しているわけではない(特にローカル図鑑)ので異論はあるかも。あったら教えて。

空母クラス たくさんの掲載種、細部にわたる情報、分からないキノコだって調べられる。ただし大きくて持ち運び不能。自宅にどっしり構えて使用するタイプ。
『日本のきのこ』(山と渓谷社)  中~上級者 観察/鑑賞向け 
数あるキノコ写真図鑑の筆頭。美しい写真図鑑でありながら、たくさんの掲載種(約1000種)を誇り、質実を兼ね備える欲張りな一冊。空母クラスの中ではいちばんとっつきやすい。
それでも掲載種数が多いので、使いこなすためにはある程度の知識が必要。大型図鑑には珍しく、食毒にも詳しい。
旧版と増補改訂版があり、改訂版では刷新された新分類に対応しているが、値段は旧版の倍近い。掲載種はわずかな追加をのぞけばほぼ同じなので、学術的な分類とかを気にしない人は旧版の中古品を使うのも一手かも。
無理して持ち運び続けると本が崩壊するという弱点がある。

『原色日本新菌類図鑑Ⅰ・Ⅱ』(保育社) 上級者 観察向け
きのこ図鑑の古典、もはや原点といっていい存在。
いかにも図鑑然とした古めかしい装丁はとっつきにくいが、内容はやはり王道、それだけのものはある。『日本のきのこ』で物足りない向きには必携だろう。
イラスト図鑑は写真図鑑にはない使いやすさがあるし、なによりスケッチそのものが美しい。
情報はかなり古いが、簡単な検索表もついており、専門的な内容に関しては『日本のきのこ』とは比べ物にならないくらい上。ただし、利用にはある程度の知識と経験とモチベーション(←重要)が前提。
ハラタケ系の第一巻とイグチ・ベニタケ、サルノコシカケその他もろもろの第二巻がある。現在オンデマンド版が再販されてるけど、13000円×2。高い!!

『北陸のきのこ図鑑』(橋本確文堂) 上級者 観察向け
掲載種数1403、オバケ級のローカルきのこ図鑑。そのスケールゆえに、北陸在住ならずとも利用可能という恐るべき性能を持つ。
掲載種数、情報量をとっても前述の2図鑑に引けを取らず、自前のイラスト図版を含め、オリジナリティが高い(独自にデータを収集)点でも価値が高い。
亜高山帯で観察されたものをはじめ、未知種が大量に収録されているのもポイント高いが、調べにくい要因にもなっている。活用にはかなり高度なキノコリテラシーが必要。
旧版とそれに修正のはいった新版、それに追加される形で発行された追補版が存在する。追補版は予備資料って感じなので、なくても問題ない。


戦艦クラス 空母クラスにおよばないものの、多くの掲載種と豊富な情報量を持ち、かろうじて携帯可能な大きさの図鑑。なぜかこのクラスの図鑑はほとんどない。
『きのこ図鑑』(家の光協会)中級者 観察向け
発刊前は『日本のきのこ』のあとを継ぐ図鑑として大いに期待されたが、結果はスケールダウン、一部きのこフリーク筋の失望を招いたと言われる。しかし、今に至ってこのサイズは唯一無二の貴重な図鑑になった。
作りは省スペースの実用重視。小さいながら特徴をとらえた写真に、目立った特徴を箇条書きにしてまとめてあるのが素晴らしい。専門性はやや高めだが信頼度も高い。
そしてひそかに表紙はビニールの防水仕様なのが高ポイント!野外で携帯するには微妙にデカすぎるんだけどな(^-^;

巡洋艦クラス キノコ図鑑の中堅どころ。携帯が可能で「フィールド図鑑」と呼ばれるものは多くがここに属する。用途に応じたさまざまな種類がある。
『山渓フィールドブックス きのこ』(山と渓谷社) 上級者 観察向け
フィールド図鑑の古典にして傑作。ハンディサイズにもかかわらず空母クラスにも匹敵しようかという掲載種数(1155種)を誇る。
冬虫夏草や植物寄生菌、粘菌など、特殊な種類も多数カバーしているのが大きな特徴。観察屋さんが使いやすいように特化している。
新装版が出ているが、旧版と内容は大差がない。むしろ防水ビニール仕様の表紙を持ち、耐久性にすぐれる旧版のほうがいいかも。

『くらべてわかるきのこ 原寸大』(山と渓谷社) 初級~中級者 観察/鑑賞/きのこ狩り向け
国内屈指のキノコ撮影家・大作氏の白バック写真による最新図鑑。
美しい写真・さらに白抜き写真が省スペースなのを生かしたコンパクトな説明・すっきりとしたデザイン性で実用性と美しさを両立。
掲載種数も堂々の400種オーバーでなおかつ原寸大という欲張った構成は、数ある写真図鑑のなかでもずば抜けている。
あらゆる用途に使えるオールラウンダー。

『よくわかるきのこ大図鑑』(永岡書店) 初級者 観察/きのこ狩り向け
きわめてスタンダードな写真図鑑。本のサイズは大きいが、内容は簡素で初心者向け。掲載種数約300も初心者にはほどよい。
写真点数が多いのと写真サイズが大きいのは、大型図鑑ならでは。
持ち運びには向かないが、値段が安くコストパフォーマンスにすぐれる。

駆逐艦クラス 小さくまとまっていて携帯性を重視、手のひらにおさまる程度のサイズ。いわゆるコンパクト図鑑。
『ポケット図鑑 日本のキノコ262』(文一総合出版) 初級~中級者 観察/きのこ狩り向け
コンパクト図鑑としては頭一つ抜けた存在。
写真が美しく、さらにひとつの種類に複数枚の写真を使うのは従来の小型図鑑になかった優れた特徴。
注目が高いと思われる主要キノコにスペースを多めに割き、注目の低い、たとえばサルノコシカケ系のキノコは始めから掲載しないなど、メリハリの利いたセレクトもいい。
解説がこまかく、初級者はもちろん中級者まで利用可能。正直、コンパクト図鑑はこれさえ持っていれば他はいらないとすら思う。
(なお「ポケット図鑑」と銘打たれているが、ポケットに入れるには分厚すぎるので、ここではコンパクト図鑑として扱う)

ローカル図艦
日本各地から出版されるローカルきのこ図鑑。都道府県名を架したものだけでも北海道青森秋田岩手宮城栃木群馬新潟東京山梨長野静岡福井京都兵庫岡山広島愛媛徳島熊本宮崎、とあり、もはやキノコ図鑑の一大ジャンルともいえる規模だ。今や『北陸のきのこ図鑑』というモンスターさえ生み出している。数が多すぎて、正直なところ、私も半数ほどしか把握していないけれど、特に近年発行されたものは質の高いものが多い。

中でも『北海道きのこ図鑑』および『北海道のキノコ』はいずれも約800種と、ずば抜けた掲載種数を持ち、また『東北きのこ図鑑』は477種というスケールに加え、クオリティも高い。
『兵庫のキノコ』は、実用度には劣るものの写真がきれいで文章にも親しみやすさがあり、西日本のキノコ初心者におススメ。

特殊艦 特定の利用に特化した図鑑。キノコの種類を限定したもの、ある用途に特化したものなど、さまざまな種類がある。
毒キノコ専
『日本の毒きのこ』(学研) 上級者 観察向け
毒キノコに特化したフィールド図鑑。説明が異常に専門的で、解説の内容の濃さだけなら空母なみ。初心者はまったく読みこなせない。
ただ、その専門性と信頼度の高さゆえに、キノコフリーク筋からの支持は厚い。
増補改訂版が出ているが、装丁がダサくなったのは残念無念。

きのこ狩り専
『詳細図鑑 きのこの見分け方』(講談社) 初級~中級者 きのこ狩り向け
きのこ狩りにはたくさんの種類数の掲載は無用、厳選した種類のみにしぼった方が実用的になる。本書はきのこ狩りに特化したフィールド図鑑。
おいしいキノコ66種に絞り、それらの解説に紙面を割く。いろんな角度・いろんな状態のキノコ写真を多数掲載しているのが心強い。

極小艦
『持ち歩き図鑑 おいしいきのこ 毒きのこ』(主婦の友社) 初級~中級者 観察/鑑賞/きのこ狩り向け 
極小!ポケットに入るサイズという意味で、真の「ポケット図鑑」。
大作氏の美麗な白バック写真の省スペース性を最大限に生かして、掲載種数はハンディ図鑑もビックリの275種!ちいさなボディの中はキノコ情報でぎうぎうだ。
ちなみに、内容的には同社の『おいしいきのこ毒きのこ』の縮小版。あしからず。

粘菌専
『日本変形菌類図鑑』(平凡社)
正確に言うと菌類じゃないんだけど、特定の種類に特化した図鑑を代表して紹介。こういう図鑑はコアなファンの手によるものが多いので、概して質が高い。
解説のほか、写真もすばらしく、粘菌愛があふれる一冊。
他に冬虫夏草図鑑地下生菌図鑑などがあり、いずれも素晴らしい。

鑑賞専
『キノコの世界』(朝日新聞社) 実用不可 観賞向け
インテリア向けの大型本。図鑑の体裁を持っているが、事実上のキノコ写真集。キノコ写真の草分けといえる井沢氏の手による、見開き2ページぶち抜きの大写真は破壊力抜群。粘菌も有り。

『きのこの絵本』(ハッピーオウル社) 子ども~初心者 鑑賞向け
キノコ画家・小林路子さんによるキノコ絵本。丁寧に描かれた水彩画には動物のイラストも添えらえれ、メルヘンチックでかわいい雰囲気だが、体裁はキノコ図鑑そのもの。









きのこ小ネタ集……『ダンジョン飯』

2015-01-28 19:34:38 | キノコ本
『ダンジョン飯』(だんじょんめし) 九井諒子 著

徹底的な手抜き料理を題材にした『花のズボラ飯』。なんてことのない料理を一人で黙々と食べる『孤独のグルメ』。戦国時代にタイムスリップした料理人の物語『信長のシェフ』……グルメ漫画が多様化する中で、なんかよくわからんのがまた出てきた。その名も『ダンジョン飯』!

舞台はファンタジー世界の地下迷宮。冒険者は仲間たちと数人のパーティを組み、その最奥に眠る財宝を手に入れるため、モンスターを倒しつつ地下深くへ向かう。
主人公のライオスも冒険者のひとり。彼は迷宮最深部でドラゴンに食われてしまった妹を救出するため、無一文の状態でふたたび迷宮に挑む。しかし腹が減っては戦はできぬ。食べ物を買う金もなく、さりとてお金を稼ぐ時間の猶予もないライオス一行は、モンスターをとっつかまえて料理する自給自足生活に挑むハメに。
……はたしてモンスターは食べても大丈夫なのか?ライオスたちの運命やいかに!?


なんと舞台設定は、コンピュータRPGゲームの元祖とも言われる『ウィザードリィ』の世界観まるまんま。種族や職業によってキャラクターがいろいろな能力特性を持っていたり、仲間が死亡しても寺院に連れていけば蘇らせることができたり。しかしこんな仮想ゲームな世界にあって、妙にリアルなモンスター料理を描くのがこの作品のミソ。特にモンスターの形態的な特徴や習性に対する解説が、やたら生物学にのっとって描かれているのがおもしろい。

人食い植物の分類とか,スライムの内部構造とか、バジリスクの習性を利用した正しい狩り方とか……これはもはやサイエンス・フィクション(SF)!素敵だよね。


さて、この漫画のきのこネタは迷宮のモンスター「歩き茸」。文字通り、歩くキノコな下級モンスター。初心者向けの食料で、肉厚で癖のない味わい、だとか……。観察がやけにこまかい。
 

「大サソリと歩き茸の水炊き」。レシピと栄養バランスパラメータも。野営しているシチュエーションも手伝って、けっこう美味そうだ。干しスライムって食材としてどうなんよ(笑)


「うっ」
(死んだか?)

なんかこういう状況、どこかで見た気がするなぁ・・・(^_^;)


ファンタジーに見えて実はSFなグルメ漫画は、まだ連載が始まったばかり。正直言ってかなり面白いので、続きに期待したい。


きのこ小ネタ集 ……『ハチミツとクローバー』

2015-01-26 21:13:41 | キノコ本
「キノコ本」とまではいかないけど、小ネタとしてキノコが登場してくる漫画を紹介してみるぞ~

『ハチミツとクローバー』  羽海野(うみの)チカ
美術大学を舞台に繰り広げられる、仲良し五人組の笑いあり、涙ありの青春活劇。ほんわかタッチの絵柄に、「美大あるある」的な小ネタをはさんで話は軽快に進んでいく。しかしその裏で、どこまでも叶うことのない恋心の切なさ、けっして口にはできない心情の吐露といったものを、その場の情景と重ね合わせつつ丁寧に描くのがこの作者の真骨頂。女性を中心に根強いファンが多い。


きのこネタは4巻に登場。料理をさせるといつもとんでもないモノを作ってしまうヒロイン二人が、キノコにも挑戦、という小ネタ。


「あやしいまでに鮮やかなレモンイエローのキノコ」「ヌメリなんとか茸って言う」「彫刻棟のウラに雨が降ったあとによくはえる」
などの情報から察するに、ヌメリイグチによく似て、黄色っぽい個体の多いチチアワタケあたりじゃないかな~というのが私の推定。松さえ生えてれば、けっこう校庭なんかにも出てくるからねー。


さてこの『ハチミツとクローバー』には「森田先輩」というキャラクターがいるのだが、これが典型的なトリックスターとして描かれていて興味深い。「天才だけどバカ」「帰属意識が薄い」「人に迷惑ばかりかけるが憎めない」「浮世ばなれしてる」「子供っぽい純粋さと、全てを見通す賢人の眼を合わせ持つ」……トリックスターは日本の漫画や小説にも多く描かれているけど、これだけ典型的な人物が描かれることは少ない。

私が勝手に「キノコ的人物」としてマークしている「トリックスター」。これを描く羽海野さんも、やはりキノコ的作家、と言ってしまってもよいのではなかろうか。


同じ作者による将棋漫画『三月のライオン』も良いぞ!

毒きのこ 世にもかわいい危険な生きもの

2015-01-14 21:07:42 | キノコ本
本邦初、毒キノコ写真集!

雄大で美しい北海道・阿寒の森をフィールドに、自然ガイドのかたわら、キノコ撮影をてがける新井文彦さんによるビジュアル系きのこ本。

新井さんといえば、老舗ウェブサイト「ほぼ日刊イトイ新聞」の人気コンテンツ「きのこの話」で有名だが、なぜだか今回は毒キノコ縛りで登場!なぜだ?毒キノコ愛に目覚めてしまったのだろうか??

新井さんのあとがきによると・・・

≪毒があろうが、きのこはかわいい。毒があろうが、きのこは美しい。ぜひ、先入観なしに、ありのままの毒きのこの姿を見てください。≫

いつも悪者あつかいを受ける毒キノコを応援するためにつくった、のだそうだ。

なるほどな……キノコを分け隔てなく愛する私としては、おおいに歓迎!!


なんといっても、神々しいまでに美しい阿寒の自然を背景にしたキノコ写真が見どころ!


各キノコの紹介は毒性の話などを中心に平易でソフトな言葉で仕上げてある。キノコ判別のこまかな説明はなく、図鑑というよりはやっぱり写真集って感じ。キノコの知識のない人でも楽しめる。ちなみに、文章を書いているのは新井さんではないらしい。
ページレイアウトは、ほどよく変化をつけながらすっきりまとまっている感じ。このへんはプロのお仕事。


掲載種数は約40種。カラカサタケやムラサキシメジなど、あんまり「毒」って感じじゃないキノコが大半を占めるために、このカエンタケのページまで来て「そういえば毒キノコの本だった」と思いいたる。

それにしても見事なカエンタケ!北海道には滅多に発生しないと思うんだけど、わざわざどこかに出向いたんだろうか。コイツがいるだけで雰囲気が全然違ってくる。役者だねぇ。
他にも猛毒組ではドクササコを押さえてるのがポイント高い。でもねぇ、できるんなら、毒キノコ御三家のクサウラベニタケ・カキシメジと、あとドクヤマドリも欲しい!(欲張り)


全体として、ものすごくバランスが良くてリーズナブルな本。筋金入りのキノコ好きはさておき、きのこ初心者にはもってこいの本だ。

ただ、本が変則の横長なので、新井さんが多用している縦長写真は上下がカットされちゃったり、サイズが小さくなったりしてるのが残念なところ。なーんちゃって、ページレイアウトを美しくして、なおかつ写真の良さをフルに生かす!なんてやっぱゼータクか。新井さんの本格的な写真集でないかなぁ。

「毒キノコの悪いイメージをぬぐいさりたい」との新井さんの言葉が見事に体現された写真集だと思う。個人的にはもっと毒毒しててもぜんぜん大丈夫だけどねっ!(笑)

『きのこ旅』

2014-10-10 21:03:25 | キノコ本
高い空、白い雲、心地よい風、おだやかな日の光。秋になると、旅に出たくなる。
ああ、でも、でも!秋って、キノコの季節じゃないか!!どっちを選んだらいいんだ!?
旅、キノコ、旅、キノコ、旅・・・野菊の花びらを一枚ずつちぎってどちらかを選ぼうとしているそんなあなたに……コレ!『きのこ旅』!!

日本全国津々浦々、キノコにゆかりのあるスポットを巡る「きのこツーリズム」。近年広がりを見せてきたキノコ好きのキノコ女子が提案する、新しいキノコの楽しみ方だ。

キノコにゆかりのある博物館や美術館、おいしいキノコが食べられるレストランやペンション、きのこグッズがたくさん並ぶ雑貨店に、もちろんリアルきのこがたくさん生える公園や庭園も!

食べる、観る、泊まる、買う……いろんな角度から楽しむキノコは、いつもとは全然違う表情を見せてくれるかもしれない。それに、春夏秋冬どんなシーズンでも楽しめる!

なじみのキノコ仲間でワイワイと。パートナーと2人で。もちろん一人旅だって。

今まで気付かなかった、新しいキノコの楽しさを見つけるためにも、どうですか?『きのこ旅』。


『きのこ旅』  とよ田キノ子 著

たくさんの写真で彩られた本邦初の「きのこツーリズム」ガイドブック。種種雑多な内容を盛り込んだレイアウトは変化に富んでいて、おもちゃ箱をひっくり返したような眺め。それでも雑然とした雰囲気を感じさせないのはさすがプロのお仕事。全体をつつむパステルの色調が女性らしいやわらかさを感じさせてくれる。

第一章『きのこ旅 モデルプラン』
キノコの潜在能力(?)の高い地域をピックアップ!各種きのこポイントをハシゴできるような、魅力的きのこ旅プランを提案する。掲載のエリアは長野、阿寒湖、鳥取、東京、八丈島、石川、そして南方熊楠ゆかりの和歌山。どこも魅力的なきのこスポットばかり!

第二章『いざ、きのこ狩りへ』
リアルなキノコを探していざ行こう、森の中へ!きのこ好き少女「きのこちゃん」とともに、キノコを見つけるのにはどうしたらいいのかを学べる。大きな漫画イラストがかわいらしい。分量こそ多くないものの、きのこ狩りのエッセンスがしっかり盛り込まれており、なかなかあなどれない内容。

第三章『旅先では、お買い物』
これぞキノコ女子の専売特許!厳選したきのこグッズやきのこスイーツを紹介。見てると全部欲しくなる。あっ、財布の中にも秋風が(-_-;)

巻末に特製きのこポストカードのオマケつき!


「立派な“きのこ狩~ル”になるために」。これをマスターされるとネイティブきのこ人の地位が危ない!?
『きのこ探しは旅である。』のページだけ、なぜか熱い文体でつづられていてこれがまた素敵。