カンゾウ伝 その二より つづき
カンゾウの身体から湧き上がる赤黒い妖気のようなものは、やがて霧のように一帯に広がって三人を包みこむ。
ほどなくして、もはや誰がどこにいるかさえ分からぬほど霧は濃くなり、見る景色の全てを赤く染め上げた。それはあたかも地獄のような光景であった。
するとどうだろう、三人が急にうめき始めた。
「う、体が、うごかぬ」
「この霧、すっぱいぞ、すっぱい・・・」
「いかん。逃げよ、逃げるのだ」
みな口々につぶやくが、ただただ独り言をくりかえすだけで、行動にうつることはない。どうやら意識が遠のいているようだ。
この術は忍法「紅い霧」!!すっぱい酸を大量に含んだ汗を蒸発させ、霧を作り出して相手を幻惑し、戦意を奪ってしまうという、もはや妖術と言ってもいい離れ業である。カンゾウおそるべし!
「フフフ、どうだ、私の汗は?」
カンゾウは霧の中から姿を現すと、つかつかと三人に歩み寄った。そしてさきほど切ったロープを手にすると、またたく間に三人を縛り上げてしまった。
「さて、おまえたちにいくつか聞きたいことがある。・・・まず、お前たちは何者だ?」
問うと、黄色い忍者が答えた。「我々は『闇菌』・・・強大な忍者の組織だ」
「ヤミキン・・・聞いたことがある。菌幾地方に勢力を張り、市井の人々を苦しめていると噂される忍びの集団か。で、そのヤミキンが、なぜ私を襲う?答えよ。」
「それは・・・」
白い忍者が口を開こうとしたその刹那、カンゾウは突然にその場所を飛びのいた。なんと、すぐ近くにあった巨木が倒れかかってきたのだ。
そこへさらに何か閃光のようなものがきらめく!
パッ!パッ!と光るたびに素早く動くカンゾウの姿が霧の中に浮かび上がる。その動きはあまりに早く、常人の目に追えるものではなかった。
ズッズーン!!
巨木はものすごい地響きを立てて地に倒れた。しかしよく見よ、その幹はなんと、料理人が包丁で切ったかのように寸断されているではないか!
「ぬ・・・何者だ!?」
カンゾウが叫ぶと、一人の男が寸断された倒木の上に姿を現した。それは、鮮やかな青い装束を身にまとった忍者であった。
つづく
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