ふたたび永井荷風の話から。いまは亡きアヴァンギャルド詩人・俳人加藤 郁乎の『俳人荷風』を読んでいて、江戸文化の素養を磨いた青年荷風について、こんな件があった。
長唄や琴を能くした母親ゆずりとはいえ堅気の家庭に育った荷風が三味線の独稽古をはじめたのは遅く、中学校を卒業した明治三十年十九歳のころ、中学二、三年のころ琴古流の二代荒木古童門下の可童に弟子入りして尺八を学んだ。尺八の技術を完成するためには . . . 本文を読む
枇杷の実は熟して百合の花は既に散り、昼も蚊の鳴く植込みの蔭には、七度も色を変えるという盛りの長い紫陽花の花さえ早や萎れてしまった。梅雨が過ぎて盆芝居の興行も千秋楽に近づくと誰も彼も避暑に行く。郷里へ帰る。そして、炎暑の明るい寂寞が都会を占領する。
永井荷風の随筆集(岩波文庫)にある『夏の町』の冒頭の書き出しである。荷風がほぼ5年間の洋行(アメリカ、フランス)から帰って2年後に書いた随筆だ(発表は . . . 本文を読む
夏のそら 流れる雲 ああひとり好きないろ みどり ああひとり
若いころに緑色が好きになった。ダークグリーンのジャケットを買ったら、女性のアートディレクターが新宿二丁目の人たちの好みだわ、と言ったことを思いだした。後でその理由を知ったが、好きなものにさしたる理由や根拠はない。
緑は植物の葉緑素が根源であり、すべての生命の源でもある。だからというわけではない。緑はわたしにとって、希望のいろだ。春夏 . . . 本文を読む
全く偶然に入った植物園だった(そこが西表島ではなく、あたかも「御出来」のように西表島に喰っついている由布島だったのは後で知る)。他のツアー客もいなかったし、同行する人たちの数は3,4人で、彼らはその濃密な亜熱帯空間を振りはらうように、どんどん先に進んで行ってしまった。
多摩動物公園の昆虫館や千葉の南房パラダイスの、閉鎖された空間を飛んでいる大ぶりの蝶は印象的だった。オオゴマダラ(大胡麻斑)が群れ . . . 本文を読む
川は流れて どこどこ行くの人も流れて どこどこ行くのそんな流れが つくころには
花として 花として 咲かせてあげたい泣きなさい 笑いなさいいつの日か いつの日か花を咲かそうよ泣きなさい 笑いなさいいつの日か いつの日か花を咲かそうよ
喜納昌吉の代表的な楽曲「花」は、 副題として「すべての人の心に花を」というフレーズがついている。これは1964年東京五輪の実況アナウンサーが発した . . . 本文を読む
▲やはり富士山は撮りたくなる。日本人だから・・。さあ、沖縄へ
去る4月9日、羽田から石垣島へ。体調は万全とは言えないが、同じ年恰好の観光客ツアーであるし、無理のない日程で旅を愉しめるはずであった・・。石垣島に3泊するが、様々なオプショナルが用意され、それぞれが思い思いの旅を愉しむ。波照間島に行った旅人の目的はなんだったろうか?
さて、石垣に着いたその日は、既に夕方近かっ . . . 本文を読む
来る5月7日の日曜日、信濃町の真生会館で竹下節子氏の講演会(講座)が開催される。3年半ぶりだから、絶対行きたかったが…。入院中ゆえに残念至極である。
テーマは『人生の幸せについて』とのこと。Sekko様としては端的でソフトな切り口、かつ普遍性のあるテーマ。考え様によっては、混迷する現代の喫緊の課題とも言えるが、個人としても如何ようにも深掘りできる。幸せの基準が、昨今、他人目線に支配 . . . 本文を読む
(3月11日に記述)
夜明け前、背中にドスンと突き上げる衝撃をうけ、目が醒めた。スマホで確認すると、道南日高で震度4の地震があったらしい。腑に落ちないので、暫くしたら続報があり、千葉を震源とする震度3の揺れが関東で観測された。
震度3であれほどのショックを感じるのだから、大震災直下の揺れはどうなるものか。高層マンションにお住まいの、特に高齢者は、高層階向けの地震シミュレーションを体験したほうが . . . 本文を読む
少しずつモノが書けるようになってきた。
日常の立ち居振る舞いがもどかしく、前頭葉が働かない、脳幹だけで生きているなぞと書いていたが、端的に書けば一種の「思考停止」に陥っていたのだ。自分の頭で物事を考えられなくなると、他人様の思考や言説に乗っかることで事足りた気持ちになる。他者発のロジックをなぞって、それを己の知的行為だと錯覚するのに等しい。これは人間としては、もっとも頽廃した姿をさらすことでもあ . . . 本文を読む
自分なりの納得できる結論を得たいと思うが、そんなものは他人様は見向きもしないだろう。第一には「しゃっくり」のこと。呼吸をさまたげるヒックヒックの音は、誰もが体験し知っている。
端的に言えば、呼吸する時の重要な筋肉である横隔膜が急激に収縮することで起きる症状。それは、筋肉が痙攣して下向きに動くと、声帯が急に閉じ、肺(胸腔)に空気が入らなくなる。その瞬間に何らかの振動が起きて「ヒック」という音が声帯 . . . 本文を読む
「しゃっくり」について書くつもりだったが、この歳になってつくづくと身に沁みたことがある。
それは、世間というもの、いや実社会でもそうだが、物事の本質とか真理や真実というものは、それほど必要とされていない。本当の事とか、真実は実のところどうでもよろしいのか…。
多くの人びとにとっては、真理らしきものよりも、自分たちが属する社会や経済が円滑に回って欲しい。それこそが切実な願いであり、 . . . 本文を読む
故エリザベス女王の葬儀について、何気なくテレビを見ていたら、チャーチルの国葬が番組で紹介されていた。英国では、王と女王以外には「際立った功績の人物」が国葬の対象なるとのこと。過去には、万有引力を発見したニュートンやネルソン提督が国葬になったという。王室や議会が協議して国葬を決めるというが、その際、生前に当人がOKするか否か、その了承を得るのがしきたりらしく、なんともイギリスらしいと感心した。
さ . . . 本文を読む
アメリカ・イリノイ州生まれの哲学者、アルフォンソ・リンギスの著作『暴力と輝き』(水声社2019)は、日本語訳で読める最新刊。ルーツはリトアニアで、E・レヴィナスの翻訳者としても名高い。この一冊しか読んでいないので、知ったようなことを書く資格はないのは承知している。だが、どうしても書き残しておきたいことがある
屍体は恐怖を抱かせると同時に私たちを惹きつけもする。こうした死の装いが、私たちを . . . 本文を読む
最近、愛読しているメロンぱんちさんのブログに『なんじゃこれ事件簿』という記事があった。動機も理由もなく、個人(老若男女)が衝動的に人を殺めるという事件簿のようなものだ。→http://blog.livedoor.jp/ussyassya/archives/52163137.html
「なんじゃこれ」という反応は、殺された人もふくめて人間なら誰もが思う、突発的な行為による殺人。こうした個 . . . 本文を読む
中島岳志は東京工業大学のリベラルアーツ研究教育院教授であるが、「リベラル保守」という立場をはじめて公に示した政治・歴史学者、評論家でもある。研究対象は多岐にわたり、著書も多い。当初は北大で研究していたかと思うが、インドのナショナリズム研究からチャンドラボースやガンディー、なかでも東京裁判におけるパール判事の戦争批判、旧日本軍擁護や平和論の考察は、独創的な仕事だといえる。
また、中島の日本の保守思 . . . 本文を読む