小寄道

日々生あるもの、魂が孕むものにまなざしをそそぐ。凡愚なれど、ここに一服の憩をとどけんかなと想う。

アカデミー賞・監督賞のクロエ・ジャオについて

2021年04月30日 | 芸術(映画・写真等含)

このブログにも書いた映画『ノマドランド』がアカデミー賞の3冠を受賞した。
作品賞、監督賞、主演女優賞である。作品の評価、前評判が素晴らしく、結果は順当だったという。ただ、主演女優賞のF.マクドーマンドは3年前の『スリー・ビルボード』でも獲得しており、今回とれば3つ目になるので敬遠されるかと思っていた。それが見事に受賞し、いい意味で予想をはずした。

授賞式の席で、マクドーマンドは最後に狼の遠吠えを真似してみせた。壇上の仲間たちがすかさず喝采したが、その理由がわからない。なんのことかとググってみたら、撮影スタッフ(サウンドミキサー)が3月に35歳で自死、その方はマイケル・ウルフ・スナイダーという名前だった。つまり、哀悼の意を表するパーフォーマンスだったようだ。

"Nomadland" Wins Best Picture | 93rd Oscars

▲この動画は公表されていないとして、いつの間にか再生不能になっていた。その理由の根拠を示していないYouTubeは、実に理不尽かつキモイのだ。ゆえに、我を通すことにし、再度復活することにした。(実際はYouTubeではなく、中国のハッカーというか政府によるシステム的かつ恣意的なAI操作かもしれない。現に公開されている。人間の本質を理解しないガバナンスは必ず瓦解する。かつての日本と同じように・・。 2021/6.18追記)

現在、63歳のマクドーマンドだが、将来もう一度、主演女優賞を獲るかもしれない。『ノマドランド』の事実上のプロデューサーであり、監督のクロエ・ジャオを起用したのも彼女だ。演技力もさることながら、いい作品を掘り出し、優れたスタッフ・俳優陣を配置する、名作品を仕立て上げる仕掛け人ともいえる。アクトレスを兼ねたクリエイターであり、さらに夫が名監督のジョエル・コーエンなのも鬼に金棒だ。

さて、『ノマドランド』の監督クロエ・ジャオはアジア人初のアカデミー監督賞を受賞したが、いま中国では、その栄誉は完全に封印されている。

ご存じの方もいようが、その理由は8年前のあるインタビューのなかで、中国への批判的にもとれる発言が、ウェイボーかなにかで流布されたことに起因する。そこでジャオは、自身の生まれた中国を「いたるところに嘘がある場所」と嘆いた(注1)

これが、政府の逆鱗にふれたらしいのだが、独裁者習近平の小者ぶりが証明されてしまった。Gクラスの国際会議などでは、彼はいつも殊勝な顔つきをしているが、リベラルアーツ的なる発言を聞いたことは一度もない。共産党といえども、少なくとも中国人なのだ。論語や三国志などの古典を踏まえた、奥行きと内容のある談話をきいてみたいものだ。いや、これは我が国はじめ、どの国の指導者にもいえることなのか・・。(「リベラルアーツ」とは、日本ではほぼ学術用語として認知されている。ところが日本でいう「教養」のことを英語で[Liberal arts]という。全般的な知識、理知、行動がそなわっていることの素養だ。追記:6,18)

 

アカデミー賞に先行するゴールデン・グローブ賞では、『ノマドランド』は映画部門の作品賞、ジャオが監督賞を獲得。アジア系女性として初の快挙、全国民の勝利として中国で祝福された。この時にはノマドランドの中国語タイトルである『无依之地』のハッシュタグは、9000万回近い閲覧数を記録したとある。

中国での映画配給を担う政府系団体「国立映画芸術同盟(National Alliance of Arthouse Cinemas:NAAC)」は、4月23日にノマドランドの大規模な公開を予定していたらしいのだが、現在はその公開準備の事実さえもが隠ぺいされている。この一連の中国政府の対応を見るだけでも、人権とか民主、自由というものをまったく一顧だにしない国だということがわかる。

なお、アカデミー監督賞を受賞後に行われたインタビュー(生中継したWOWOWの特別番組)の中で、彼女はかつて学生だったとき、10年間ほど日本漫画にのめりこんでいたことがわかった。「一番お気に入りのマンガはなんですか?」と問われると、『幽☆遊☆白書』(注2)と答えたという。

追記:アカデミー賞の選考システムが従来と大きく変わってきているらしい。かつて選考委員はハリウッドの映画関係者で、その7割ほどが白人の男性会員で占められていた。また、各賞の選出については、アメリカの国情や世相などが色濃く反映され、必ずしも芸術性や作品の完成度の高さを基準としなかった。その偏向ぶりは、常に批判にさらされていたが、近年大幅に改善されつつあるようだ。

さらに、アカデミー賞を主催している映画芸術科学アカデミーは、2024年から作品賞の選考に新たな基準を設けると発表した。

●主要な役にアジア人や黒人、ヒスパニック系などの人種または民族的少数派の俳優を起用する
●制作スタッフの重要なポジションに女性やLGBTQ、障がい者が就くこと。
以上であるが、これまでにアカデミー賞にノミネートされた映画関係者も選考委員となり8000人から12000人へと増え、女性や黒人、アジア系が大幅に人数を伸ばした。改革すると決めたら、大胆に速やかに実行する。これがアメリカの長所でもあるか・・。

 

(注1)具体的には以下の発言をしたことがわかった。

「絶対に逃げ出せないような感じがした。わたしが若いころに得た情報の多くは、真実ではなかった。だから、わたしは家族や自分のバックグラウンドに対して、とても反抗的になった」とジャオは話している。そして、「突然のようにイギリスへ行って、自分の歴史を学びなおした」とあった。

(注2)『幽☆遊☆白書』。通称:「幽白」。「週刊少年ジャンプ」にて1990年51号から1994年32号まで全175話が連載された。『ドラゴンボール』『スラムダンク』と並び、当時のジャンプ黄金時代の三大人気作の一角だったらしい。
人間界、霊界(死者の住むところ。地獄と天国が存在する)、魔界(S、A、B、C、Dの5ランクがある妖怪がすむ)を舞台に格闘異能力バトルが展開される。
ストーリー的には紆余曲折があるという。筆者は読んでいないが、「鬼滅の刃」の先行作品みたいなマンガであろうか。アニメ化もされている。

 

 

 


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