悩みのタネだったしゃっくりが思わぬことに、僥倖である、突然なくなった。抗がん剤を点滴するときには、副作用を軽減する薬も使用する。当然、その効果が現れたのかもしれない。
深夜、お隣に寝ている患者さんに迷惑にならぬよう、少々しゃっくりをガマンをしていた。体は正直だ、小生の気遣いをはね除け、甲高いしゃっくりが鉄砲玉のように出てしまった。自分でも驚く音が静けさを裂いた。
音が引いたその時、隣から息が漏れるかのように「ばーか」と、カーテン越しに聞こえたのである。勘違いではない。確かに馬鹿という音声だった。寝静まった二人部屋のなか、その方は小生が我慢していたしゃっくりを、さらに耐えていたのか、それとも寝言なのか知る由がない。
とまれ、しゃっくりは嘘のように出なくなった。偶然の賜物かも知らん。
二日間ほど四六時中、息が詰まり胸を圧迫していた、すっとんきょうで高音のしゃっくりが出なくなった。何が幸いしたのだろうか。
むかし、くしゃみが出ると「こんちくしょう」、「チキショー」など呪詛の言葉を吐く人は多かった。下町の年嵩のいった女性でも、少々下品な言葉で悪態をついた。小生、大人になったらしないと決めたが、忍耐あるのみ。
さて、咳、くしゃみ、しゃっくりなどは、身体の変調を知らせる呼吸の異常音かもしれない。庶民はそれらを忌み嫌い、振っとんでいけとばかりに呪詛の言葉を投げつけた。
くしゃみが「こんちくしょう」なら、しゃっくりは「馬鹿たれ」ぐらいかな。科学や医学とは無縁のはなしでありますが、日がなベッドのうえで悶々としているからでしょう。
お隣のかたも、看護士さんたちも一緒になって、「夜更けにね、馬鹿っていわれたら、それっきりしゃっくりが止まりました」と、皆でワハハハと大笑い。こんな感じで病室が盛り上がったら、ちっとはましな日曜日になったんですがーー。
今回は趣向を変えて、小石川の多肉植物を載せる。