小寄道

日々生あるもの、魂が孕むものにまなざしをそそぐ。凡愚なれど、ここに一服の憩をとどけんかなと想う。

カルロス・ゴーンとホリエモンの対話

2020年03月13日 | エッセイ・コラム

二日ほど前に、カルロス・ゴーンとホリエモンの対談をYouTubeで視聴した。ネットのニュースサイトでけっこうな評判になっていたからだ。対談の内容が注目されたのではない。テレビを筆頭に既存メディアができないことをYouTubeが成し遂げた。それこそが画期的なのだというニュース・トピックであった。

まあ、ネットに依存する人たちの内輪褒めのような記事であったのだが、ゴーンという人物に関心をもつ小生は、興味本位でアクセスしたのである。

二人ともネイティブの英語ではないから、ある意味で聴きやすく、会話にもついていける。ゴーンの英語はとにかく論旨が明快、気取った表現(レトリック)は絶対に使わない。日本人が見習うべき、シンプル&スマートなイングリッシュだと思う。

ホリエモンのそれは、小生よりもマシだが癖が強い。もちろん、彼の日常英会話は、世界のどこに行っても通用するだろう。ただし、日本独自の司法制度、歴史概念など日常にはない用語、抽象概念の単語を使って、複雑なことを説明しようとすると、対談は何度もストップ。明らかにホリエモンの準備不足だ。

言葉に詰まると、傍らにいる友人(日本人?)をチラッと横見して、翻訳のアドバイスを求める眼差しを向けていた(それが可愛らしく見える、これが彼の人気なのかもしれない)。

ここで、二人の対談のあらましを簡潔に記しておこう。まず、カルロス・ゴーンの主張は、日本を不法出国した後、あのベイルートの記者会見で発言した内容と基本的に変わりない。

カルロス・ゴーン↓

・法的にも、会計的にも疚しいことは一切ない。社内的にもすべてが了解され、合法なものだった。
・一部の経営陣が司法と結託した「陰謀」である。逮捕理由も、人間としての理解を超え、不当だ。
・逮捕後の拘留は、私個人の自由・尊厳を破壊した。その後の再逮捕も常軌を逸したものだ。
・拘留、拘束、裁判にいたる経緯は、人間性を否定するもの。システム・手続きは民主主義的ではない。
・日本の法は、「推定無罪」という至上原則さえ無視する。日本は驚愕すべき法体系をもつ後進国だ。
・逮捕された後、ニッサンは業績も資産も大幅に減退している。私の経営手腕を見よ。
・ニッサンだけでなく、ルノー&三菱も業績低下。経営面でも、失策と混乱を招いた。
・私の報酬は、日本の法に沿って支払われ、成功報酬は先延ばして支払われる予定だった。
・ボーナスは未来に支払われるものとして、部下のケリーが法的処理し合法なものだ。
・国際会計に精通した弁護士ケリーが逮捕されたのは、まさにニッサン側の陰謀であり、検察との共謀だ。

以上が、ゴーンの主旨のすべてだ。彼の英語はシンプルなので、彼が言うべきことを斟酌して少々盛っている。ただし根拠があるものに限り、筆者が補記するていどのものだ。それをここでお断りしておく。

要するにゴーンは、ニッサンの一部の部下たちが、司法(検察・特捜部という特殊組織)と結託し、念入りに仕立て上げられた陰謀劇。うまく罠に嵌められた、と再三にわたり力説している。さらに、それが世界的に批難されるべきものだとしても、「私は日本を愛し、日本人の叡智・行動を尊敬している」と、ゴーンは必ず付け加えることを忘れない。

筆者がさらに補記すれば、以下のようにまとめられる。

ゴーンは、日本の法制度に絶望すると同時に、何年もこの先、自由を制限されるのは耐えられない。自分の疑いを晴らし、法の正義のためにも法廷で争うと思っていたが、自分の将来にあって、高いコストを払ってでも、日本の法制度と闘う理由を見出せなくなった。だから、超法規的な出国を計画し、実現できた。家族・友人らの支援を得られたことも大きな理由だ。

ホリエモンはどうか↓

・日本の検察がもつ権限は、法体系のトップに位置する。が、民主的に決定・構築されていない。
・検察の権力は、三権分立を逸脱した異常なものだ。まさに、検察の特捜部がそれを象徴している。
・私がかつて不当逮捕されたのも、その悪しき司法システムによるもの。その後進性は世界一だ。
・私と同じように不当逮捕されたゴーン氏には深く同情する。その共通体験を世界に発信しよう。
・ガラパゴス化した日本の法システムを国際的に知らしめ、改革できるのはゴーン氏と私しかいない。

ゴーンと同じように、筆者は多少盛っているが、ホリエモンの言いたいことの要諦は網羅したと思う。一点、補足したいのは「第2次世界大戦後、アメリカの支配を受け入れたが、検察を頂点とする戦前の司法制度は旧態依然のまま残っている。そのことで私もあなたも逮捕された」と、ホリエモンはけっこう重要なことを述べていた。残念ながら、ゴーンは、それは既知のものとしてスルーした。熟知していたのなら、ゴーンは必ずや自分の意見・感想を付けくわえたはずなんだが・・。

筆者はさらに、「特捜」というものが戦前の「特高」の悪しき組織をそのまま移行させたものだと指摘しておきたい。

戦後のアメリカ・マッカーサー・GHQは、占領・統治のガバナンスおよび反共産主義対策のために、検察のなかに「特高=特捜」を温存させた事実。つまり、民主主義を標榜するアメリカとしては、例外的に「特捜部」という法外の組織を司法システムに導入したのだ。

検察の特捜部は当初、過激な共産主義者の革命を防止するための存在だった? その後、治安よりも統治への色彩をつよめたのは、時代および政治状況の変化に他ならない。反米的な日本人が国家的なリーダーとして登場したら、あらぬ事件を仕立てて超法規的に逮捕・拘束できる(田中角栄・・)。そんな権限を発揮できる「特捜部」をつくるには、日本法曹界の超エリートを集中させなければならない・・。

嘘かホントか、どっちだろう? アメリカ政府の画策なのか、日本の政治家の実力者が、影で特別に拵えたものなのか。真相はあるのか?

この辺の歴史的経緯、政治的な思想をホリエモンが仮に知っていたとしても、それをカルロス・ゴーンにかみ砕いて説明するのは、かなり難しいことだ。ホリエモンの英語力はもとより、英検1級の方でもたいへんではないか・・。

また、ゴーン逮捕の前年に、法制度に組み込まれた「司法取引」について、ゴーンが最初の犠牲者になったことを、ホリエモンは説明していた。これも、ゴーンは軽くスルーしていたのが気になった。ゴーンはいまや日本の法制度のもとで正義を訴える、身の潔白を証明するモチベーションは完全に失ったようだ。

たぶん、今回の一連のことは、これから出版する自著、映画化のことを想定して、余計な言葉や態度で表したくなかったのであろう。もはやゴーンの経営者としての寿命は尽きたのか・・。

それにしてもゴーン亡き後のニッサンの凋落はどうしたものか・・。会社は存続するだろうが、劇的な躍進を遂げない限りずっとゴーンの亡霊につきまとわれるに違いない。革新する若い力がないのだとしたら寂しい話だ。

 

▲ホリエモン・チャンネル「レバノンでカルロス・ゴーンと対談しました(2020/3/6)」より。アクセスが現時点で150万回を超えている。ユーチューバとしてもホリエモンは結構な収入がありそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
ダイヤモンドで低フリクションはないでしょう。 (ラマン分光ファン)
2020-05-25 00:10:00
 このキャッチコピーで、DLCコーティングを日本国内の技術者に広めようとし、ネットで偽物の科学技術情報が氾濫した。境界潤滑モデルの最高神CCSCモデルに土下座せよ。
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どうなの? (小寄道)
2020-05-25 06:15:24
ポストコロナはしばらくは原油安だし、自動車業界は燃費偏向は後退させ、自動運転&AI化にシフトだろう。
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Unknown (ラマン分光ファン)
2020-09-10 21:56:36
久保田バズーカも人工知能は応用されているよ。
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だから? (小寄道)
2020-09-11 01:21:18
身体?
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